傷付けるためだけの言葉
「本当に真っ白だったぞ、まつ毛も眉毛まで、そのくせ目が真っ赤でよまんま教会の絵と同じだった」
「へぇ、顔は?綺麗なんだろ」
「確かに憎らしいぐらい整ってたぞ」
やけに耳につくジークの話はだんだんと教室に広まっていく。
「私も見たわ、怖いくらい綺麗な顔だった」
「でもその綺麗な顔も人の苦痛とか恨みを糧に得てるって話でしょ、人が苦しめば苦しむほど綺麗になるって」
憶測だけで、聖書に書かれていたというだけで、ジークへの目は厳しくなる。ジークの顔ですら悪魔としての証拠にされる。
「っ」
必死に表情を取り繕う。だけど、腹が立って苛立ってどうしようもない。確かにジークの顔は嘘みたいに綺麗だ。
罪の証とされる髪と瞳の色、それだけじゃなくて顔まで文句つけてくるのはゲームの時と同じだけど。
─────彼は変わって、ゲームとは違う世界にもうなりつつあるはずなのに。
教会がいつも私達の前に立ちはだかる。結局は差別され、彼が見下される。五月蝿い、とても不愉快だ。今すぐ全員口を閉じて──。
「……お前達、口を閉じろ」
願望が口に出たのかと思う程、その声に怒りが含まれていた。
噛み締めるように、険しい表情で、彼は…レヴェルは、ギロリとジークの噂をしていた奴らを睨み付けていた。
いつの間に私の傍に来ていたんだろう。私の方に歩み寄る途中だったのか、席を変えようとしたのか分からないけれど。
「レヴェル殿下?」
戸惑いの視線を受けながらそれさえも気に食わないと、彼は吐き捨てた。
期待してしまう。だってゲームの彼はジークを殺してしまう一人だった。
「お前達の話を聞いていると頭がおかしくなりそうだ」
「なっ」
「ジークが忌み子?あの美しさが人の絶望で成り立つ?よくもそんな世迷言を」
ジークを庇ってくれている。
レヴェルという、力を持つ人間が、打算もなく、心底憎いと、含みもなく、愚かしいと伝えてくれている。
「レヴェル殿下…ありがとうございます」
レヴェルがちらっと私を見た。聞こえていたのかな。分からないけど届いてたらいいと思う。
「っレヴェル殿下、恐れ入りますが、あの忌み子は……」
「その忌み子という事すら不愉快だ、僕の発言から怒りをかうかもしれないと思わなかったのか?それとも、わざとか?」
随分肝が座っていると、レヴェルが鼻で笑う。その笑うシーンが、成長後のレヴェルでゲームにもあったなと思わず惚ける。
……結構言ってるけどレヴェルは大丈夫なのかな。
「ジーク・ルーテン・モナールは“忌み子”では無い、二度とそのようなことを口にするな、彼は先の戦争の英雄が一人、アルヴァルドの息子であり、信頼出来る臣下だ」
「ですが、教会の聖書にはっ」
「いつから我が国は教会の下僕成り果てたのだ?教えを信じ、信徒として生きたとしても、この国に住むからには全てのものが等しく民だ……それともお前は王族の言葉よりも教会の教えに重きを置くのか?」
ならば、なぜこの国にいる。神聖国の者なのか?ならば密偵として処分もありうると暗に告げるレヴェルの発言にジークを蔑んでいた男子が顔を青くした。
「い、いえ……そのようなことは……」
「だろうな、“まさか”そんなことがあるはずは無いな」
レヴェルがゆっくりと微笑む。まるで、グラディウス殿下の様に柔らかく。警戒心をとくような温かな笑みで。
「では、二度と口にするな」
「ひっ」
反して冷ややかな声で、そう、命令をした。
唖然とした生徒たちを放置し、満足気に私の元へ歩み寄ってきたレヴェルに思わず問いかけてしまった。
「……良かったのですか?」
「ふん、何を今更、僕達王族が忌み子だのと友になりたい相手を見下すはずないだろう」
「友に?」
「断られたがな、即答だった、信頼できないとあれほど顔に書かれては取り付く島すらもない」
私の隣に腰掛けて、心底つまらなそうにレヴェルは頬杖をついた。
「偉そうな口を利いているが、僕もアイツらと同じだ、初対面のジークに悪魔であって欲しいと願いすらしていた」
「…それは、もしかして」
「頭に浮かんだそのままだ、愚かにも僕の罪を初対面のただの子供に押し付けようとした」
レヴェルは母親を止められなかったことを今も悔やんでいる。それほど心残りとしているならあのパーティーの時、悪魔であって欲しいと願う事は一つしかないだろう。
「……」
「ジークにな、言われたよ、リトは初めからジークが忌み子ではないと否定できた、だから友となれたと」
リトには魔眼があった。だからこそジークが違うのだとすぐ理解した。だから仕方ないのだとは言えない。ジークはそれほどリトの一言に救われたのだろう。
「……」
「他に話す機会は無いかもしれないから今から話すんだが、さ、サーレは音を消す結界を張れるか?幻覚とか、こっちに注目させないようなものだとなお良い」
仕方ないか…。
ゆっくりと深呼吸をして静かに瞳を閉じる。見えなくても居るはずの存在に願う。
魔法はデータとして出てしまうが精霊は出てなかった。なら魔法の代わりに精霊に頼む方がマシだろう。
意識阻害に音の遮断。
できるだろうかと半信半疑ではあったけど、精霊達は実にあっさりと作り出してくれた。




