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終わりなき戦いの果てに

 それから、受け入れられなかった芯は資料を読み漁り、映像に目を通した。


 猫村以外の学者の論文。


 様々な人間の日記、観察日誌。


 ネットやテレビの映像。最初は平和なものだったが、少しずつ異変を発し、世界は変貌していった。


 阿鼻叫喚の図の中、人々は必死で抗い、そして死んでいった。



 数日間。



 何度も、繰り返した、肯定と否定。



 そしてやがて、芯は全容を理解し、納得してしまう。



 地球はもう終焉を迎えてしまったのだと。



 原因の災厄を回避することは不可能だった。そして今も猛威を振るっている災厄の竜。


 一部、映像が残っていた。


 山が動いている。自然そのものが人を殺している。


 歩くだけで街だったものの大半は崩壊した。


 腕を振れば轟風が巻き起こり、何もかもが吹き飛ばされた。


 尻尾が動くたびに、地面や海が波打つ。


 これはどうにかするというものではない。現象だ。現象は対応しかできない。殺せない。


 やがて、芯は決断した。


   ●●


「もう行くのね」


「ああ」


 芯達はリユと向き合っていた。


 土産はない。しかし、リユから聞いた話は有用で、今後の指針を決める重要な材料となった。


 寂しげに、目を伏せるリユを前に、芯は複雑な心情だった。


 同級生だった猫村の孫だと言われても信じられない気持ちはまだある。しかし、数日に及び検証のより、彼女の言葉は真実であると断言できた。


「じゃあ」


「ええ、元気で」


 彼女と会うことはもうないだろう。今生の別れだ。


 この場に残るという選択もあったが、リユに断られた。一人で逝きたい、そう決めていたから、と言われたのだ。


 芯はリユに手を振り、施設を後にした。


 外に出る。寒冷の中、ハッチを閉めた。


「で、どうするのだ?」


 エミルが芯の顔を覗く。


 ここ数日、史実を検証する間にも、芯は今後の指標を定めてもいた。


 それはある意味、無謀とも言える。しかし、一縷の望みはある。


 リュウを見た。勇気と信頼、支援は芯を手助けしてくれた。


 レオンを見た。膂力と胆力、技術は芯を成長させた一因だ。


 エミルを見た。友情と活力、魔術は芯の行動を促していた。


 彼らの力、自身の力、そしてこれからのこと。


 芯は強く瞼を閉じ、述懐する。


 長らく培った彼の信念は、ここで完成した。


 戻る道はない。前にしか道はなく、下がる気はない。


 そして芯は決意を口にした。



「ニズヘッグを倒す」



「なっ……お、お主本気か? わかっておるのか? 山の如し体躯、強大な魔術のような力、そして奴そのものが災厄と言われる所以。奴にとって人間など虫以下であろ!? か、勝てると思っておるのか」


「……もし、もしも奴に干渉できたら、人間にも勝機があったんじゃないか?」


 エミルはわなわなと震え、小ぶりな唇を動かす。


「つ、つまり、我らならば干渉できるからこそ、勝てる、と?」


「まだ確定じゃない。むしろ可能性は低いだろうよ。後ろ向きかもしれないけどよ、他にも勝てる要素がなければ、諦めるしかない。けど、やる前から諦めたくはない」


 誠意を持って話したつもりだった。


 真剣な声音にエミルは、やがて諦めたように嘆息する。


「やれるだけ、やってみるといい。妾も手伝おう。お主らしいしの」


 芯は薄く笑ったエミルに感謝した。


 無謀は承知の上。元々、幾度も捨てた命、修羅場を乗り越え、これからもそうであり続けるだけのこと。平穏の中で、様々なことを忘れ、死んだように生きるのはもう止めにしたのだ。


 生きるために死ぬのであれば本望だった。そうやって今まで生きて来たのだ。


 芯はレオンとリュウに視線を移す。共に首肯を返してくれた。


 芯はウロボロス、いやメシュテリアへ戻る。


 その道は絶望に彩られながらも、どこか眩く儚く揺れていた。



   ●●




 ――とある時。



 災厄の竜、ニズヘッグは暴虐の限りを尽くしていた。


 山を削り。


 海を蒸発させ。


 空を雲で穢し。


 大気を淀ませ。


 生物を食らい。


 星そのものの力を吸収していた。


 しかし、限界が近いと感じていた。


 宇宙の果てに生まれた竜の一体。ニズヘッグは様々な星々を食い潰し生きてきた。同胞でありながら邪魔をする存在もいたが、同士討ちだけは許されていなかった。彼らが対峙すれば滅ぼすのは星だけでは済まない。


 自然の失われた地球を見て、ニズヘッグは思った。



 そろそろこの星から去る時が来たのかもしれない。



 だが、それは放置するということではない。貪った残滓をそのままにする気はないのだ。


 一撃の元、消滅させよう。


 そう思い、翼を広げた。


 しかし、それは叶うことはなかった。


 目を凝らしてようやく存在が見えた。



 人。



 矮小な存在が眼前に現れたのだ。


 まだ生きていたのだ。


 食い残しは許されない。それはただの信念。


 爪牙を振るうべき、ニズヘッグは姿勢を低くした。


 そして気づいた。


 人の存在力に。


 脆弱な人とは程遠い、ソレからは同胞の力の脈動を感じた。



 竜の力。



 まさか、人を守るだけに飽き足らず、人に力を貸したというのか。


 だが、所詮は赤子程度。元が人ならば相手にもならないはず。


 その慢心がニズヘッグの行動を遅れさせた。


 人が跳躍した瞬間、目と鼻の先に移動した。


 その雄は全身の竜の鱗で覆われ、身の丈を超す黒き大剣を握っていた。


 剣には迸るように水刃が纏わり、一瞬にして切っ先に向けて伸びた。そのままニズヘッグの全長をも超える。それは超超長大剣であった。


「人類舐めんじゃねぇぞッ!」


 人が咆哮すると同時に剣を振るった。


 そして、天を切り裂き大気を置き去りにして、ニズヘッグに凶刃が迫る。

 





 世界を揺るがす戦いが一幕で終わりを迎えることはなく。


 数日、数ヶ月、果ては数年に及んだ戦いはやがて終焉を迎える。



 それは奇跡と呼ばれるもの。



 人類が生まれた経緯もまた奇跡的なもの。



 ならば生き残る奇跡もまた、可能性として存在する。


 そう、対の竜の中には、人類の残したものがある。


 それは未来へのかすがいだ。


 だから彼は後顧の憂いなく、戦いへと赴いた。




 結末は、一人の青年に託された。




 負ければ世界は完全に滅ぶ。


 勝てばまた人類は繁栄するかもしれない。


 ただそれだけのことだった。



ドラゴンズ・ジーン ―永劫輪廻の塔迷宮と十一の災厄― の完結となります。

明日から新作の投稿を始めますので、よかったらご覧ください。

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