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トレジャーハント

 翌朝を迎え、俺は鞄を前に仁王立ちしていた。


 食料と水一か月分。水筒は現自宅にあったものを使用している。おかげで二リットル程度は所持できるようになった。ただしかなり重量が増えた。


 応急処置用の包帯、消毒液。あまり量はないので使用は控えたいところ。


 ゴブリンを倒して手に入れた装備、長剣一本、ナイフ一本、小剣一本、両腰に差してある。


 ショートボウ一本、矢筒に矢が二十本。

 弓は鞄の横にひっかけるようにしてある。縦方向なので邪魔にはならない。


 矢筒は臀部あたりに垂らすようにしてある。後ろ腰にナイフを装着しているので邪魔にならないようにという配慮だ。歩く時に音がならないように高さは調整した。


 拳銃はホルスターに入れてある。ホルスターは邪魔にならないように腋の下に通す形に改造した。左腋の下に拳銃を差している。

 弾は二十三発。一応薬莢は回収しているが、自作は難しそうだ。


 他には小さめの鍋とコップ。松明用の棒、衣服に布きれ。メモ帳にボールペン。


 総重量、多分十キロくらい。長く持ち続けると腰に来そうだ。

 防寒もバッチリ。インナー数枚、コートにブーツ。首はリュウ、寒さなんて微塵も感じない。準備はオーケー。さて、行くか。


 俺はリュウに一声かけ、鞄を背負った。


 思ったより軽く感じた。

 多分、この数か月で鍛えられたからだろう。

 腕も足も明らかに引き締まっているし、身体も快調そのものだ。


 思い通りに動くというのは快感をもたらしてくれるらしい。こんなことなら運動部に入るのもよかったかもしれないな。今更だけど。


 俺は玄関のドアを閉め、通路に向かった。


 そして再び、探索が始まった。


   ●●


 三階層の探索は半分ほど済んでる。出現する魔物はゴブリンと斑コウモリだけだ。


 一階層から三階層まで何度も往復したが、魔物は倒しても再び現れた。もちろん別個体だろうが、かなりの数を倒しても枯渇しない。


 倒した後、迷宮に溶けることと関係あるのではないか、と思っている。この場所は魔物を生み、魔物を食らいそしてまた生んでいるのではないだろうか。


 例え、それが事実でも俺には大した影響はないが。


 松明片手に俺は道なりに進んでいた。相変わらず暗澹として薄気味悪い場所だ。細い通路を進むと、斑コウモリが三体天井にぶら下がっていた。まだこちらには気づいていない。


 俺は正面を向いたままリュウに手で合図を送る。リュウは賢い。それは驚くほどで、今では身振り手振りでさえ意思の疎通ができるくらいだ。


 鞄に装着していた弓を左手で掴み、眼前に構えた。右手に矢を三本、指の間に挟む。


 音もなく構え、そっと弓を引く。


 三度呼吸し、肺一杯に酸素を吸い込むと、息を止めた。


 瞬時に弦を離す。当たる軌道だと確信した俺は、間髪入れず、二本目の弓を射る。三本目を弦にかけた時、小さな悲鳴が聞こえた。俺は構わず三本目を撃った。だが、咄嗟に三匹目のコウモリは回避した。


「ちっ!」


 二匹は地面に落ちた。両方とも胸に深く矢が刺さっている。俺は小剣を抜き、三匹目に疾走した。奴はようやく俺の存在に気づき、威嚇する。しかし、それさえも遅い。


 俺は速力と共に一閃を繰り出す。あらゆる力を切っ先込めるように意識した。空を避ける音が遅れて聞こえる。


 手応えがなかった。

 そのせいで俺は一瞬、呆気に取られ、疑問符を浮かべた後、外れたのかという考えに至ってようやく辺りを見回す。


 しかし、コウモリは地面に伏し、すでに命の灯を消していた。つまり当たっていたのだ。


「なんだ?」


 今までにない感触だった。斬った感覚がなかった。

 しかし確かに魔物は死んでいる。指先から伝わったのは針に糸を通すような爽快さだ。まるですべての所作が完全に正しく連なったような。


 つまり、先ほどの攻撃は最も適した動きだったということか。


 あるいは、俺もようやく剣を使った戦いに慣れて来たということなのかもしれない。剣術を比較する相手がいないからよくわからないが、そういうことにしておこう。


「行くか」


「キュ」


 俺は剣についた血を払い再び先へと進んだ。

 

   ●●


 三階層探索、終盤を迎えるだろう頃合いを見計らったように、俺は信じられない光景を目の当たりにした。


 まさか、いや、そんな馬鹿な。こんなことあり得るはずがない。だが、しかし目の前にそれは頓挫し、厳然としてそこに存在してる。俺は目を疑いつつも緩慢に近づく。


 間違いない。これは、揺るぎようがない事実だ。


「宝箱じゃないですかァァァ! ヒャッハーーーー!」


「キュキュイ!?」


 突然俺が叫び出したので、肩に乗っていたリュウは何事かと飛び上がり、首を左右に動かした。そして俺に向かって不満そうに叫び、頬をぺしぺしと叩いて来た。


 だって宝箱ですよ? ダンジョンの宝だよ? 初遭遇なんですよ? そりゃ興奮するわ。


 箱は銀と金色、蒼と緑で彩られ、華美な装飾が施されている。なんとも豪奢な見目だから、はっきり言ってこの洞穴には似合わない。浮いている。怪しさ満点だ。



 ゲーム脳であれば間違いなくこう思う。これ、絶対罠だ、と。



 しかし、このまま放置するのかと考えると、気が進まない。なんせ宝箱なのだ。実際、現実で宝箱が置いてあったらどうする?


 開けるだろ?


 誰が置いたのかわからない。不気味だな。変だな、おかしいな、なんか作為的だな。


 でも開けるだろ?


 だったら、俺も逃げちゃいけない。ここで逃げたら、今後再び遭遇したとしても俺は二度と宝箱を開けられない。なぜなら、一度開けなかったという過去があり、それを肯定したいという思いがあるからだ。


 もし、そこで開けてお宝が入ってたら開けておけばよかったと思う。


 後悔しかない。また三階層まで戻ろうかというもやもやとした気持ちを抱えたまま色々考えて、結局引きずって、三階層まで引き返したけど、こっちは罠だったなんてなったら目も当てられない。


 仮に罠だったならば開けるんじゃなかったと思い、やっぱり一度目は開けないで正解だったと思うだろう。しかしそれは無為だ。一度目を開けなかったのなら二度目を開けて確認するのは無駄な行為だ。


 なぜなら一度目を開けなかったのは罠だと思ったからだ。ならば二度目で開けてしまっては一度目の苦悩と決意は無駄に終わる。


 つまり二度目は開けてはいけない。一度目で罠とみなしたのなら二度目も三度目もそれ以降も開けてはいけない。一度目を開けなかったならば、開けてはいけないのだ。


 何言ってんだ、俺。


 そ、そう! つまり、この問答に意味はない。意味はないのだ。だったら、どうする? わかってんだろ? そう、答えは決まっている!


「せっかくだから、俺はこの宝箱を開けるぜ!」


 俺は大して調べもせずに、振り切ったテンションのままに宝箱を開けた。


 しかし、中は空っぽだった。


 何も入ってはいない。罠もない。さすがにこれは肩透かしだった。


「冗談じゃないぞ、おい。せめて蓋が口でガシガシ噛みついてくるとかあるだろ、とんだがっかりだよ」


 素材は木のようだ。手触りは滑らか、かなり腕の立つ職人が加工しなければこうはなるまい。内部は同様に綺麗に加工された囲い板だ。


 汚れもなく、箱だけで結構高級な雰囲気が漂っている。ただ持ち帰るにはやや大きい。背負うのは難しそうだし、その気もない。


 俺は嘆息しつつ、蓋を閉じようとした。だが、どうも気になって調べなおす。だって、こんなところに宝箱があるなんてやっぱり変だし。


 装飾を指でなぞってみたり、叩いてみたり、押したり引いたり、斜めにしたりしてみた。すると、ガコンと音が内部で聞こえる。


「おお!?」


 蓋を開けてみると、底板が僅かにずれていた。二重底だったらしく、上部の板を外すと、下から何かが出てきた。



 見ると羊皮紙だった。



 俺はまたしても期待を裏切られ、どうにでもなれと思いつつ、紙を手にとり紙面に視線を走らせる。そこにはトゥアム語でこう書いてあった。


『白き魔女の双眸より獅子の方向に三十八歩。覆い隠す者に向かい八十一歩。積み重ねただけ天に祈りそして悩め。流るるに至れば財を成す。言霊は不幸をもたらす』


 正確に訳せたかちょっと自信ないが、多分あってる。

 今度は宝へのヒントか。なんだ、これ。誰かが遊びで作った、とか?


 いやしかし、考えてみろ。普通ゲームって誰がこんなの作ったんだよ、どういう意図だよみたいなことよくあるよね。つまり、これはそういうことなのかね。


 要約すると、深く考えるなということだろうか。


 危険がなければ構わないんだが、どうもきな臭い。無視してもいいんだけど。

 まあ、内容もよくわからないし、とりあえず先に進んでみるか。もしかして行き詰ったりするかもしれないし。


 俺は羊皮紙ポケットに入れると、踵を返した。一応、宝箱の蓋は閉じておいた。


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