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『勇者を辞めたエルフは株を買う 〜魔王討伐後、投資で世界を変える〜』  作者: かめ


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第43話 恐怖で利益を出す者たち

今回は市場の“悪意”側を書いた回です。


投資は綺麗事だけではなく、

恐怖で利益を出す人間もいる。


でもその中で、

何を信じるかが重要なんだと思っています。

 王都証券市場。


 普段なら怒号と熱気で満ちるその場所は、今日は別の意味で荒れていた。


「売れ!」


「まだ下がるぞ!」


「逃げ遅れるな!!」


 叫び声。


 紙が飛び交う音。


 赤く染まった魔導相場板。


 人々の顔には、焦りと恐怖しかない。


「……酷いな」


 市場へ入ったガルドが顔をしかめる。


「まだ序盤」


 リゼリアは淡々と答えた。


 視線は、中央の取引台へ向いている。


 そこだけ妙に静かだった。


 いや。


 正確には、“落ち着きすぎていた”。


「見ろ」


 リゼリアが小さく言う。


 中央の席では、数人の商人たちが冷静に紙を回している。


 周囲が混乱しているのに、彼らだけ呼吸が乱れていない。


「なんだあいつら」


「売ってる側じゃない」


「……?」


「“下げてる側”」


 ガルドの眉が動く。


「暴落を利用してるってことか」


「最初からそのつもり」


 リゼリアは静かに市場板を見る。


 ルーメン通信の株価はさらに下落していた。


 だが、不自然だった。


 売りの量が異常に多い。


 普通の恐怖では説明できない速度。


「空売り……か」


 リゼリアが低く呟く。


「ソラウリ?」


「持っていない株を先に売る方法」


 ガルドが怪訝な顔をする。


「持ってないのに売れるのか?」


「借りる」


「は?」


「借りた株を先に売る。そして安くなった後に買い戻して返す」


 ガルドが数秒黙る。


「……つまり、“下がるほど儲かる”?」


「そう」


 その瞬間、ガルドの顔が険しくなった。


「最悪な仕組みだな」


「でも必要な仕組みでもある」


「どっちだよ」


「使う人間次第」


 リゼリアは市場を見る。


 本来、空売りは過熱を冷やす役割もある。


 問題は。


「恐怖を利用して“意図的に壊す”時」


 視線の先。


 昨日のローブの男が、二階席に立っていた。


 静かに市場を見下ろしている。


「やっぱりいるな」


 ガルドが舌打ちする。


「あいつら、最初から暴落で儲けるつもりだったのか?」


「違う」


 リゼリアはゆっくり首を振った。


「暴落で儲けるんじゃない」


「?」


「暴落を“作って”儲けてる」


 一瞬、ガルドが言葉を失う。


 だが市場を見れば分かる。


 噂を流す者。


 不安を煽る者。


 大量に売りを出す者。


 それを見て一般投資家が逃げる。


 さらに価格が落ちる。


 そしてまた恐怖が増える。


 完全な連鎖だった。


「……胸糞悪いな」


「市場は綺麗な場所じゃない」


 リゼリアは淡々と言う。


「人の欲望が集まる場所だから」


 その時。


 市場板の数字が、大きく跳ねた。


「っ!」


「ルーメン通信、さらに急落!」


「誰か大口で売ったぞ!!」


 場が一気にざわつく。


 ガルドが顔を上げる。


「まずいんじゃないか!?」


「まだ」


「まだ?」


「“壊れる速度”を見てる」


 リゼリアの目は鋭かった。


 恐怖には流れがある。


 本当に終わる時は、もっと静かになる。


 今はまだ、“煽られている暴落”。


 つまり。


「誰かが焦ってる」


「焦ってる?」


「落とし切る前に、買われたくない」


 その瞬間。


 二階席のローブの男と、再び視線が合った。


 男は小さく笑う。


 まるで、“気づいたか”と言うように。


「……なるほど」


 リゼリアは静かに呟く。


「ルーメン通信が目的じゃないな」


「は?」


「これは、“見せしめ”だ」


 市場に逆らえばどうなるか。


 管理に従わなければどうなるか。


 恐怖を通して、それを教えている。


「クソ野郎だな」


 ガルドが吐き捨てる。


「でも効果はある」


 実際、多くの投資家が萎縮していた。


 未来を見る者ほど、今の暴落で消えていく。


 短期の利益だけが、生き残る市場。


「……だから嫌い」


 リゼリアの声が少しだけ低くなる。


「未来を壊すやり方は」


 その瞬間。


 市場板の数字が、再び動いた。


 だが今度は違う。


「買い……?」


「誰か入ったぞ!」


「この状況で!?」


 ざわめきが広がる。


 リゼリアは静かに前へ出た。


「ガルド」


「なんだ」


「始める」


「……お前、本気か」


「最初から本気」


 リゼリアは市場板を見上げる。


 赤く染まる数字の中で。


 たった一つ。


 小さな“買い”が灯っていた。

第43話でした。


空売りという仕組み自体は悪ではないんですが、

「恐怖を増幅して利益を出す」方向に使われるとかなり怖いです。


今回のローブの男は、

単なる悪役というより“市場の合理性”を極端に信じている存在として書いています。


そして最後、

ついにリゼリア側も本格的に動き始めました。


次回は、

かなり大きく市場が動く回になります。


引き続きよろしくお願いします。

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