表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国王陛下の道の先  作者: 一子
序章 この世界のかたち
5/15

魔法とは

ブックマークの登録者数がじわじわ増えてて嬉しいです!

ありがとうございます!



「心臓に働きかけることで、治癒の速度をあげる、か。魔法書で読んで理解していたつもりだったけど、実際に体験すると想像とはこんなにも違う。水の癒しの魔法とは原理も全く違うし、凄いな。」


 独り言のように早口でまくしたてる先生。その恍惚とした表情に笑いがこみ上げてくる。まるで恋する乙女のような眼差しを、俺に向けるのはやめろ。



 そんな心の内を悟られぬよう、俺はすました顔で先生に問いかけた。


「水の癒しの魔法は、水の糸を魔力で作り怪我で切れた箇所を縫合したり、魔力で水の板を作り体の損傷の多い部分を覆ったりするのですよね。」


 先生が頷く。


「そうそう。殆ど医者と同じですよ。」


 おざなりな返答だ。こいつ俺にものを教える気はあるのか。



「はあぁぁぁ。やっぱり光魔法と闇魔法は凄いな。」


 そう呟いた先生は、はにかむような笑みを浮かべた。初恋の人と再会したガキのような表情だ。



「先生。実は以前から疑問に思っていたのですが、なぜ光と闇だけ、属性の輪から外れているのでしょうか。」


 俺の疑問に、先生は垂れた目を見開いた。焦点があやふやだった視線が俺に向く。正気に戻ったようで何よりだ。


「あれ、殿下は10歳ですよね。」


 俺はゆっくりと頷いた。俺が10歳のガキらしくないことは自覚している。だが俺は俺なので、先生に慣れてもらうしかない。


 王宮の魔法の文献には、すでに明らかになっていることしか載っていない。まだ不明なこと、諸説ある事柄が書かれている文献が、全くない。だから俺の知識は偏っている。おそらく、魔法庁か高等学校の魔法科の権力者達が情報制限でもしているんだろう。やっかいな連中だ。


「殿下はまるで大人だな。凄いですね。」


 先生は素直な感想をこぼした。それからひとつ咳払いをすると、一緒におさらいしてみましょう、と柔らかく口を開く。



「火水風土の四属性は、例えば水は火に強く土に弱いという性質を持っていて、四属性が輪のような関係にあります。でも光と闇はその中になく、闇は四属性に対して強い魔法が使えるけれど、光に弱く、光は攻撃魔法が少なく癒やしの系統が多い。殿下は、この輪のあり方が疑問なんですね。」


 少し教師らしくなった先生の確認に、俺は頷いた。


「その理由は解明されていません。ですが私の持論ならありますよ。それでよければお話します。」



 偉いジジイやババア共は、文献と同じ。事実しか俺に教えない。自分の考えは決して話さない。何故なら、話した事柄が後々間違っていると判明したら、俺に嘘を教えたことになるからだ。それは教師人生、いや人生を終わらせるに十分な失態だ。だから教える内容は保守的でつまらない。



 俺が欲していたのはこういう教師だ。先生は俺の期待通りかそれ以上。この男なら、今話した私見が後々間違っているとわかっても、命で償いますとか大げさなことは言わず、ただ笑ってすませるだろう。それでいい。俺は議論がしたいんだ。教師の命などどうでもいいし、専門書の解説はもう飽き飽きだ。



「ではまず、魔法の属性と系統について考えてみましょう。例えば水属性には癒やし、攻撃、それ以外にも補助系の魔法が存在します。これは、属性は同じでも全く違うものと考えます。水の癒やしの魔素と補助の魔素は全くの別物です。そして人は、属性と系統を一つずつ持っている。殿下の場合なら、光属性の癒しの系統。すると殿下には光の癒やしの魔素だけが寄ってきます。」


 同じ属性でも系統が違うと魔素の種類が違う。これは魔法の基本だ。



「次に四属性のことを考えてみましょう。そもそも、例えば攻撃の魔素は、爆発するとかそういう素敵な性質を持っているわけではありません。攻撃系は、魔素を物の形にできる、という性質を利用しています。」


 魔素は、煙みたいなものだ。それが物、固形物に変わる。不思議な性質だな。


「例えば玉や矢に、できます。そこに偶々火や水の属性がついたから武器になりえるのです。土の矢も存在します。けれど実際には硬度が脆すぎて刺さりもしないので、結局火や水の矢だけが今は攻撃魔法として使われています。」


 火は小さくても損害を与えられるし、水は魔人の火魔法対策にも有効らしい。


「火の攻撃の魔法師は、火の矢や玉を作り投げたりします。でも、例えば火の机を作ろうとしても、できないんです。なぜかはわかっていません。ここで私の持論です。魔素は、多分ずっと同じものが存在しているんです。何百年も前から。そして人々は、物に変わる性質の魔素がある、と知って、武器にしようとしてきました。一番簡単なのが矢や玉だった。だから何百回も何百人もの人々が同じ魔素で矢や玉を繰り返し作ってきたから、魔素もそういう性質を持って、玉や矢になりやすくなったんだと思うんです。」


 なるほど。元は、何にでも変わる魔素だったが、長年矢か玉にばかり変えられて、そのうち矢か玉に変わる性質を持ったということか。興味深い。が、証明はできそうにないな。


「実際、昔の文献では、矢も玉も、中堅の攻撃系魔法師でも作るのにかなりの時間がかかったそうです。だから皆で火の机を作り続ければ、そのうち簡単に火の机が作れるようになると私は思います。」


 確かに、何かの文献で昔は今より魔法を使うまでに時間がかかったとあったな。この推論は、あり得なくもないか。


 俺が考え込んでいると、先生はキラキラと目を輝かせて俺を見つめていた。



「殿下も、魔法が好きなんですね。」


 魔法。全くどうでもいい。ただ今後の役に立つだろうから学んでいるだけだ。


「あ、そうだ。水の癒しの魔法も、攻撃系と同じ原理ですよ。この場合は、作るのは糸とか針とか板です。そして水の癒しだけの特殊な点が、その糸やらが人体に害をなさないんです。だから糸や板を作り、人体を縫ったりしても拒否反応がありません。それで癒やしの魔法として使っています。」


 人体と同じ成分でできた魔力。確かに魔法は面白いな。


「さらに、水の攻撃系は攻撃系で他にあります。水の矢とかを作ります。これは普通の水なので、人に刺したら痛いです。」


 魔素は系統ごとに違う性質を持っていて、それを魔法師は利用して魔法を使う。


「で、四属性の特徴ですが、まだ色々と不明なことが多いのですが、実際に存在するものしか作れない。と言われています。」


 俺は頷いた。魔法はなんでもできる夢の道具ではないということだ。



「では光属性は。人にはできないことが、できるんだと思います。例えば光の浄化の魔法。体内の異物を感知して取り除くことができます。医師にはできません。当然水の癒し手にも。殿下の癒やしもそう。心臓に働きかけるなんて、そもそもどんな道具があっても人にはできません。」


 人の能力を越えた力か。俺は考え込んだ。確かに、四属性は人が投げたり縫ったり、魔素からできた物を使いこなすのは人だ。だから人ができることにしか使えない。


 だが光属性の魔法は、魔法自体が人の能力を越えた力を持っている。



「更に、闇魔法はもっとすごい。何でもできるんですよ。魔法師が想像した怪物を作ったり、空飛ぶ靴を作ったり。この世に存在しない物を作ることができる。常識から外れてます。規格外。本当は存在してはいけない力なのかもしれない。だから数も少ないし、持っていても使いこなせない人もいる。」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。闇属性の解説書には、一つ一つ闇属性魔法が書いてあった。それらの魔法のみが、闇属性魔法なのかと思っていたが、全く違うな。それらも、闇属性ならできる、という事例だったか。



「殿下。魔族の丸薬のことは知っていますね。」


 先生の確認に俺ははいと頷いた。


「丸薬は、魔力を増強する上、それ自体が闇属性です。そのため魔族の魔法は二色。自分の属性と闇属性の黒。高度な闇が混ざるためか、四属性よりも自由度の高い魔法が使えます。例えば土属性でも、闇が混ざればかなり強い矢を作ることができる。いや、もっと新しい武器だってなんだって作れる。だから魔族は強い。面白い。飽きない。」


 先生は瞳に熱をため、うっとりと魔族について語った。そして切ない溜め息をつく。


「いつか行ってみたい。」


 俺は内心で呆れ果てた。この男は本当に無防備な魔法馬鹿だ。魔の国に行ってみたい。この発言は、それだけで反逆罪だ。王太子に向かってする発言ではない。


 だが呆れながらも、俺はこの男の素直さに却って心引かれてしまった。


 完璧な国王になるためには、危うい人物を側に置くべきではない。その人物のせいで俺が引きずりおろされる可能性だってある。俺はそう考えたにも関わらず、先生を追い出すことはしなかった。



「それにしても、殿下は3歳の時になぜ傷を癒せる、と思ったんですか。不思議ですね。普通は、闇属性は別ですが、先人達が考えてきた魔力の使い方を知ってはじめて、魔力はこのように使うのだと理解するんですよ。それなのに、なぜ殿下は、何も知らされていない状態で、魔素を集め凝縮し、心臓に働きかけようと思ったのですか。」


 この問いはもう何百回と色々な人に聞かれたが、正直自分でもわからない。3歳の時、俺は怪我をした侍女をこの魔法で治し、天才だと言われはじめた。


「それは私にもわかりません。ただ怪我を治したいと強く望んだら、私の周りがざわざわして、手に魔素が集まってきて動き出した。としか言えません。」


 俺が申し訳ないと謝ると、先生は羨ましい、と溜め息をついた。



「殿下は天才ですね。歴史の中に、天才は度々登場します。彼等は五感で魔力を感じたといわれています。そもそも、自分の周りにある魔素が、自分の意思を与えれば物になるなど誰も思いませんよね。でも天才達は自分の魔素の能力を感じて、それを形にして周りに伝え広めた。そのおかげで今は、自分では魔素を感じられない凡人にも、鍛錬すれば魔法師になれる可能性があります。」

 

 天才かぁ。先生がまたも大きく溜め息をついた。羨ましい。そう何度も続ける。



「天才とは、ギフト持ちと同義ですか。」


 先生は何かを考え込んでいるようで、俺の質問にまたおざなりな返事をしてきた。この男は自分の興味があるものにしか良い反応を示さないな。


「時と場合によりますね。ギフト持ちというのは、漠然と他人より凄い能力を持っているという意味で、その中には天才も含まれるでしょう。過去には計算ができる者、様々な発明をする者など、色々なギフト持ちがいました。魔力を目で見ることができる人もいましたね。その場合、自分では魔法が使えなければ、ギフト持ちと呼ばれるでしょう。使えれば、天才でしょうか。」


 先生は死んだ魚のような目で俺を見つめ、切なそうに溜め息をまたついた。


「天才。全く羨ましい。では庶民の現実をお話しますよ。」


 そう言って、先生は苦々しく笑った。



「そもそも火水風土光闇の六属性のうち、魔法師になれる可能性があるのは、火水光闇のみ。15歳の適性検査の結果が風か土なら諦めるしかありません。」


 魔法書を読んで、俺が疑問に思っていた箇所だ。


「風と土でも魔法は使えるのですよね。なぜそれなのに可能性がないのでしょうか。実際魔族には風や土の魔法師もいるのですよね。」


 そうですね、と呟いてから先生は説明をはじめた。


「丸薬の使えない人の国では、風と土の魔法を有効活用しようと、先人達が努力に努力を重ねてきましたが、全て無駄に終わりました。」


 先生は自嘲するように、笑った。



「例えば風を起こすことで風車を回したり、ですね。話になりません。何十人も風の使い手を集めても回せるのはせいぜい玩具の風車くらい。土でも、例えば騎士が土の壁を作って盾として使う。駄目です。そもそも魔法は使っている間ずっと集中していないといけないから、戦いながら魔法は使えません。じゃあ川横に土壁を作る。精度も強度も早さも人が手で作った方が良い。あ、魔族には土と闇で剣や盾を作って、それで戦うことができる者もいるようです。すごい集中力ですね。」


 風と土の魔法は、とにかく規模が小さいことしかできないようだ。



 そういえば、我が国で最も高い地位にある光騎士団の団員は、光属性の魔法が使えて、且つ騎士でなければなれない超エリート職だ。だが、それでも戦いながら魔法は使えないと聞いている。しかし魔族には戦いながら使える者がいるなら、今後何かできることはあるかもしれない。


「なぜ魔族は戦いながら魔法が使えるのですか。」


 俺の問いに先生は首を左右に振った。


「理由は全くわかりません。本人の努力なのか闇の丸薬の力なのか。魔法庁でも魔族の魔法に関してはほとんど情報を持っていません。いや、持ってないわけではないな。公開していない、と言うべきでしょうか。私のような下っ端にはわかりません。」


 魔族の魔法は未だ謎に包まれている。だから余計にこの男はそれに惹かれるのだろう。



「では、二つの属性を合わせてみてはどうですか。魔族のように。例えば風と火で、火の勢いを増やすなど、夢があります。」


 俺の提案に、先生は深く頷いた。


「それはできます。余程息の合う二人でないと上手くはいかないでしょうが、可能性はあります。ただ、その為に風属性の人間を戦場に行かせるとなると、出費を考えるとやらない方が無難でしょうね。むしろ兵士を一人増やした方がいいでしょう。その程度ですね。ただ魔法庁では色々と実験してますから、今後相性のいい二人が誕生する可能性はあります。」


 やはりそういったことはすでに魔法庁で研究が行われているのだな。俺がわざわざ考える必要はなさそうだ。



 それにしても魔法庁と魔法科は、いつから王家に対してこんな態度をとっているんだ。近いうちにあいつ等の力は削いでおく必要があるな。



 俺は、のほほんと話をしている先生を見つめた。こいつをうまく使って、あちらの情報を引き出したいが、こいつ使えるだろうか。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ