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悪役・追放?令嬢 短編集など  作者: 平泉彼方
6/8

攻略対象者から見た悪役らしき令嬢

 読者の皆様どうもこんばんは。そして更新が今週色々出来ず申し訳ないです……実はノロと思しき症状でダウンしてました…今は何とか持ち直しました。皆さんも外食する時は気をつけましょう。


 さて、今回は攻略対象視点で描いてみました。強いて言えば”魔術師”担当でしょうか?それでは本編をどぞ!




 ……まさかあんなにあっさり事が進むとは思っていなかったが何とかなって良かった。そう安堵しながら私は自分の横に眠る温もりをそっと抱き締めた。


「大丈夫、離れない。」


「…本当?」


「ああ、約束する。」



 安心した様にその言葉を最後に眠った彼女へは、少し酷い事をしてしまった自覚はあるものの後悔は無い。それは偏に彼女を私が手にする手段がそれしかなかったのだから。


 しかし………本当にあの策で婚約破棄と言うか撤回が上手く行くとはな。




◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 これは私がまだ10歳の頃の話し。


 この当時、私は親戚同士の争い事で人を、特に女性を信用出来なくなっていた……女性は直ぐに裏切る存在だと思い込んでいた。事実、私の周囲で母以外の女性達は皆そう言った怖い人達であったから。

 親はそんな私の様子を見て、将来結婚は無理だろうかと悩んでいたそうだ……まあその前にもしかすると女性は私の姿を嫌悪したかも知れないが。



「何て醜い……」


「あらやだ、此方を向きましたわ…」



 かつて私が8歳だった頃婚約候補者を名乗ってしつこく付け回していた少女達は顔をあわせる度にそうヒソヒソ話している。やっぱり女性は気が変わり易い。そしてその結果損するのはいつも俺達男。

 親戚同士の争いごとに巻き込まれ、無惨な火傷痕を負った私の容姿は確かに当時の少女達にとってみれば不気味で醜いものだったのかも知れない……幸い聴力・視力は問題なかったものの顔半分は焼け爛れている。

 無事だった身体にも拷問痕として焼印や鞭で叩かれた痕が幾つもある。それらは蚯蚓が這った痕の様なものがあちこち存在し、見る者達へはもしかしなくとも嫌悪感を与えるかも知れない。

 だから常に顔は仮面で隠し、身体は黒い長袖長ズボンを常に着用して醜い部分を全て表に出さない様にしている。医師によれば治る見込みは一生無いそうだ。


 両親はそんな私であっても自分達の息子として愛してくれた…跡取りとして認め、期待し、更には厳しくも優しく鍛えてくれた。

 だから私も応えるべく勉学へ励み、積極的に領政へも参加していた。良き領主、賢き貴族になりたいと言う望みの元。


 だが、女性だけは勘弁。


 その事が分かっている両親も、将来は優秀な子供を跡取りとして養子にする手段もあるから無理に結婚相手を探す必要は無いと言ってくれた。そして私はその言葉に甘えていた。

 後に、いや、割と直ぐに後悔する事になったが…



 さて、そんな私はある時貴族の義務として王宮で行われる舞踏会へと参加した……王族、正確には同い年の王子が婚約者候補を決めたのだそうだ。

 正直どうでも良かったが、挨拶しなければならない為領地から王都へと向かった。本当は物凄く人前に出る事が嫌だったのだが仕方が無い…そもそも本来ならその同じ年の王子の側近になるべくもう少し早めに行く筈だったのだから。


 だが案の定、この容姿の為王宮では浮いた。


 舞踏会で最悪な事に誰も近寄らず、私の周囲へは誰1人として近寄って来なかった……突き刺さる悪意と好奇の視線、ヒソヒソとした心無い者達の囁き。両親は大人同士の話しで不在の今、私はただ会場から逃げるしか無かった。

 そうして逃げた先、そこはひっそりとした庭園が広がっていた……派手派手しい紅い薔薇等の花など存在せず、木と石でて来た見た事の無い斬新な庭であった。

 後に聞いた所、これは『枯山水』と言う東国特有の庭だそうだ。

 庭の光景に魅入った私はその静けさに触れて、少しだけ落ち着いた……だから背後から人が来ていた事に気付かなかった。気付いていたらあんな失態はしていなかったはずだ……

 今となっては良い思い出だがかなり恥ずかしい事に、私は“縁側”と呼ばれる場所で寝入ってしまったのだった。


 そして目が覚めると、私の上にはストールが掛けられていた。


 見回すと、そこには艶やかな黒が目に入った……落ち着きのある風合いの紫のドレスを着た同い年位の少女。彼女の髪はこの国では珍しい漆黒であり、更に目の色は紅。少し切れ長で凛々しい印象があるが、顔全体で総合すると幼く優しい。

 だが所詮女性。

 それにどうせ私のこの姿を見たら怯えて逃げ出すだろうと半ば落胆した様に彼女の方を見て、そこで私は違和感を憶えた…



「なぜ、逃げない?」



 ……だから開口一番そう呟いたんだと思う。

 そんな無礼な私に対し、それは、それは不思議な表情をして彼女はこう答えた。



「逃げる必要性を感じませんから……何より貴方はここが気に入ったからこうして眠っていたのでしょう?

 実は私もこの場所が好きなのです。」



 高くは無いが低くも無い、何方かと言えば落ち着いた声で淡々とした喋り方……だが、私が庭を気に入った事へ何故か嬉しげな感情が見て取れた。

 だから私はまたもや質問した。



「この場所が好きなのか?」


「ええ、大好きです……私にとって王宮(ここ)では唯一安息の光景なのです。」



 笑顔に少し陰りが有った事が気になり私は彼女へ近寄った……女性は裏切る、怖い生き物である事は頭で分かっているのに彼女のそんな陰りを何とか取除きたいと言う感情が溢れて来ていた。

 そして彼女の側へ近寄ると、彼女の温かな紅の瞳に私の醜い姿が写る。


 そこではっとして私は離れようとした。


 だが気付くと彼女は私へと手を伸ばしていた……ギュッと黒色の服の裾を握りしめ、涙で潤んだ目で私を見上げいてた。その目を見た時私の中で何かが切れる音が聞こえた気がした……気付くと彼女の頭を撫でていた。

 だが彼女ははっとした顔をし、御免なさいと口走りながら慌てて手を離そうとしたので今度は私が彼女の手を握りしめていた。



「あっ…」



 慌てた彼女は繋がれた私の手を見て、驚いた表情をした。恐らく拷問痕に気付いたのだろう、手袋を油断して外していた事が災いした……だから次の瞬間彼女に怯えられ、拒絶されるだろうと私は考えた。

 何故か、その一瞬だけ心が黒い靄に包まれそうになった。


 だが、予想外に優しく撫でられる感覚がしたので顔を上げた。


 痛ましい悲しげな表情をした彼女が私の手に残る傷を小さな指先で優しく撫でていた……驚いて彼女を見ると、目に涙を溜めていた。そして雫が1つ、頬を伝って流れ出した。

 思わず勿体無いと思ってそれを指で撫で取ると、私は自分の口へと運んだ。



「…甘い。」



 次の瞬間仮面の外れる鈍い音がした……落下して地面に着いた時のカタンと言う音が、何故か響いた。そして息を呑む音が聞こえる。

 ああやはり…


 再び心が痛み、そして黒ずみ出す感覚がした……ああまた駄目なのか。


 居たたまれずこのまま去ろうと唖然として固まった彼女へ背を向ける。そもまま駆け出そうとした。

 だが、また止められた……いや、自分から止まったと言うべきかも知れない。

 日だまりの様な温かな体温が背後から伝わる。同時に柔らかな肢体が離さないと言わんばかりに私の身体を包んだ…慌てた事は言うまでも無い。挙げ句私に似付かわしく無い、良い香りがした。

 だから私は気付いたら怒鳴っていた。



「こんなバケモノ、お前だってイヤだろう!!!」



 彼女の蔑む視線を恐れ、私は下を向いた…これで軽蔑されたら、もう私は……



「貴方は違うのです!!それに、少なくともこの庭を良いと言う人に酷い人はいないのです!!!

 それに貴方の魂は美しい、容姿も私は寧ろタイ…好みです。だから卑下しないで下さい…どうか……お願いですから…」



 初対面で何故、これ程嫌悪感を齎す筈の容姿をした私を受け入れたのか……逆に私も何故女性である彼女を受け入れたのか。

 それは私にも分からないが、1つ分かる事が有る。



「なら、将来私を受け入れられますか?」



 こう尋ねた私に対して、彼女が言った事は多分二度と忘れないと思う。それ程衝撃的だったから。



「貴方が私へずっと愛を下さるならば…ならば私は貴方へ貴方が自分を嫌う分を補完する以上に深く愛しましょう。絶えず常に異性は貴方のみを愛しましょう。心変わりが無い事をお約束致しましょう。

 ですが、それならば国民や王侯貴族が私の敵になった時も私を変わらず愛して下さると誓いますか?」



“例え、私が謂われなき罪で国を重罪人として追われる未来があったとしても…”




 その時の彼女の表情はとても儚く、まるで空に溶けて消えてしまいそうであった……それが怖くて逆に彼女を引き止めんと抱き締めた事は言うまでも無い。




 その後日、彼女が私では手の届かない相手である事をしる…一介の辺境伯では幾ら膨大な領地と兵力、更には獏大な遺産を持っていようと国の筆頭『公爵家』には届かない。

 まして、王族から王子の婚約者として最有力候補である彼女を横から奪う事は侭ならない……だが…


 それでも彼女は私が“愛す”。



 手段など選んでやらない……必ず、必ず私の伴侶とする。

 他の男に渡してたまるか!




◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇




 16歳になり、私は貴族子息としての義務で王立学院へ入学する事になった。まだ婚約者は居ない……やはり彼女を除けば誰も私を好む様な奇特な者など存在しない。それが貴族社会では普通なのだろう。

 例外は存在するが…大抵は私へ拒絶の色を隠している。恐らくは財産目当てと言った所か。



「…相変わらず自己評価が低いな。」


「事実だろ?私が醜い事など分かっているからな。」


「それは俺に対する嫌味か?このイケメンが!爆発しろ!!」



 ここ数年で私は“友”と呼べる者を得る事た…私のこの姿を見ても嫌悪感を抱かない、人として普通に接して来る相手が。この様な者達に会えた事は本当に幸運と言えるだろう。

 しかし特に私へ文句を言って来るこの男は相変わらず分からんな。



「?それこそお前へ子女達は目を向けているだけだろう??私へ向ける筈はないのだから…」


「だ・か・ら、なんでそう無自覚かな……結構人気有ると思うのに!

 だからこう持つ者は…ああもう、モテたい!!ちょっとはその人気を俺にも分けろ〜!!!!!

 ああもう…俺のこの、魂の叫びは、何故お前に届かないんだぁぁ!!!!!」


「落ち着けよ、グレンデル。」


「落ち着いていられるかって言うんだ、この、ライアンめ!!」



 そう言えばグレンデル・ジョウズ・フォン・ドゥースルトーテンの訳の分からない叫びからこの関係は始まったのだったな……なんでも意中の女性が私へ気が有ると関係を断られた事へ文句を言わせろと、正面から睨みつけて来たのだった。

 ……正直初対面でこの男は貴族社会でやっていけるのか他人の事ながら不安になったな。


 だが、こうしたバ…単純な所に助けられたのは何も私だけではないのだった。



「おうおう、相変わらず元気だね〜」


「おっと、お取り込み中だったかな?」


「「別に気にする事ない(から)!!」」



 いけ好かないがこの2人は友だと言える……少なくともこの3人は私の事を嫌わない不思議な人達だ。同時に私にとって家族・領民達と最愛の彼女を除けば世界で1番大事な存在だろう。

 名前はそれぞれユリウス・トール・フォン・ヴィルヘルム、クラウス・ラウル・ナーテンベルグ。侯爵家長男と王都に本店を構える大商人の跡取り。グレンデルは侯爵家だが軍事関係者であり、親父が王立騎士団の団長をしている。


 それと今更だが、私は次期辺境伯であると共に宮廷魔術師の地位を貰っている。

 これも全ては彼女と共に歩むため努力した結果だった…何時でも彼女の為なら投げ出せる程度にしか考えていない。領地も最悪独立すればいい。親も親戚同士の争いを機に王国へ既に見切りを付けているのだから納得している。



「そう言えば愛しの彼女とはもう再会したか?」


「………」


「ああ、あのキュビヤック公爵家の令嬢ね……確か変な噂を早速立てられていたよな?あ、勿論信じてないからな!本当よ?!!」



 睨みつけるとユリウスはひるんだ。

 当たり前だ……私も聞いたが聞くに絶えない様な噂ばかりだった。そしてそれはどれも彼女の崇高な人格を全て貶している。

 到底許せるものでは無い…何とかあの噂、払拭出来ないだろうか?



「だけど厄介だよね…王子殿下自体は嫌っているみたいだけど権力バランスの為に婚約したんだよね〜…そこにあの男爵家の娘が来るとはね。」



 その言葉に最近我々の周囲を嗅ぎ回っていた薄汚い小蠅を思い出す……男爵家が持つにふさわしく無い贈答物と思しき高級品を身につけ、そしてまるで世界の中心人物だと言わんばかりに行動する私の嫌う女の典型。

 私へ分かったような顔をして我が家の隠している醜聞である事件について話して来た…公衆の面前で。

 知っていてもあの件は皆口を閉ざしているというのにセンス無く喚き散らしたと思ったら今度は私が気の毒だの誰にも愛されていないだのと宣い…更に彼女との記憶を汚そうとした。


 彼女が私を嘲笑ったと言った…


 あれ程私の為に泣き、更に私の存在を愛しこれからも愛すと宣言してくれた人を……その後も手紙や茶会を通じて私へ愛情を伝えてくれた、王族との婚約を考えると醜聞にもなりかねないのにずっとそうして私を思ってくれた彼女。

 今も表立って会えないが、遠くから彼女を見詰める度に目が合う。そしてその目には愛情を感じる…温かな紅の、松明の明かりを思わせる瞳は常に私を優しく映してくれていた。

 そんな彼女を侮辱する事を散々喚き散らした挙げ句、自分を代わりに愛してくれて良いと……無礼で五月蝿い、醜い。



「それでな、まあ確かに彼女はそれをしていない事は確かなんだけどさ……あの淫…男爵令嬢と噂、利用出来ないかなって思っているんだけ?」


「……何?」


「って、ちょ?!」



 ニヤリと悪く笑うその憎たらしい顔を危うく攻撃する所だった…



「全く最後まで聞けよな……だから〜…」



 その話しを聞き…そして提案した友が思い切り引いた。

 恐らくそれほど恐ろしい表情を浮かべていたのだろうがもう遅い。それを提案したのだからな。おっと、思わず声が出てしまった。



「クックククククククク…」


「…な、俺、早まったかな?」


「いや、ダイジョブだと思うよ…多分?」


「ま、頑張れとしか言い様が無いよね?」



 そして逃げようとした友達の肩を掴むと耳元でボソリと呟く……すると彼らは面白い程狼狽してから私へ協力してくれる事を誓った。

 しかも、全員悪戯する時の悪笑を浮かべて。




◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇





「…よって、其方との婚約を破棄する!!」



 王子のそれまでの罵詈雑言は到底許せないが、だがこうして無事彼女との婚約破棄を宣言してくれた…見込んだ以上の馬鹿者で本当に助かった。

 そして衛兵に対して反逆者として捕らえろと言った。


 命令に従って影に忍んでいた騎士達は気絶した彼女を運んで行く…その手で彼女に触れるとは万死に値する、今直ぐ助け出してしまいたい!!

 だがまだだ…まだその時ではない……友達も私を羽交い締めにして頑張って止めてくれているのだから何とか抑えねば、でなければ…



「もう少しだから我慢しとけ!!」


「おいおい、あんなバカでも一応王子だから殺すなよ…折角穏便に済ませる手立てがあるのに犯罪者になって彼女を泣かしたく無いだろ?」



 彼女を泣かせたく無い…その事で何とか落ち着きを取り戻したら、魔術を使って自分達を学園外へと移転させた。そこで計画通りに着替えて待ち伏せ。


 後は彼女が来た時護送用の馬車を襲って彼女を奪還、次いでに死んだ事にしてしまう。



「待っていろよ…今助ける」



 そして計画通りに実行し、予め狩っておいた魔物の血を彼女の着用していたドレスと同じものへ浸けてからボロボロに引き裂いて森へと移転させた…これで彼女が死んだ事になるだろう。

 そして馬車と気絶した騎士もそこへ移転…特に彼女を運んだ騎士達は確実に死す為、抵抗出来なくなる様右足と左手の腱を切っておいた。不自然にならない程度に魔物に襲われた体にしておき、更に事実とする為魔物を呼び寄せた。


 さて、後は彼女を領地へ運んで婚姻を結ぶだけで良い。もう既に相手の慮心からは許しが出ているからな。



 ああ、あの彼女を責めた愚か者達は既に不正や不貞の証拠を纏めて提出済み。王宮では既に彼らを事故か病気で儚くさせる方針になっているの。余程私の家から見限られたく無かったのだろう。

 まあそうだろうとも……



「我らの真なる王……お迎えに上がりました。そしてその御学友達も共にどうぞ。」


「セバス御苦労、皆行こうか。」




 学友達は特に驚く様子も無く、ただ呆れた様に笑いながら答える。



「はいはい、行きましょうか魔王様。」


「どこまでも付き合いますよ、全く。」


「あ〜…ホント、面倒くさいけど今更だし別にいいや。最後まで付き合うよ。」



 彼女の温もりを感じながら私は彼らへ精一杯の笑顔で答える。



「ああ、頼りにしているよ。」



 迎えの馬車に乗り込み向かう先は我が領であり我が王国……古にこの国との協定で“不可侵条約”を結んで表向き辺境伯となった我が家。だがその実態は国の次なる王を定める使命を司り、無理と断じたら王族を討ち滅ぼす者。

 真相は全て闇に葬って来たため“魔の”王とも呼ばれ怖れられている。

 王族は15を越えるとその事を知った上で剪定を受ける事になるのだが、此の度の王族は2代に渡って我が家へ厄災を齎した上次期当主かつ王たる私の愛した女性を傷付けた。


 当然許す筈も無く、これから緩やかに滅びへと向かう事だろう。或いは王家を打ち倒し、新たなる者が出現する可能性も有る。そうなればその者を見極めて再び王位に着けるのは我が家の役目。

 そう、各国の王位を定める役目を負って来た家こそが我がグリモワール家。


 それは遥か遠い過去、魔と人の争った時代まで遡る。



「しっかしなぁ、途轍もない話しだ……お前が魔王だってさ。厨二病だと思ったもん、いや割とマジで頭大丈夫かコイツっておい、痛いから止めろ!!分かったから!!イタイ、イタイ!?!!」



 文句を言うグレンデルへアイアンクロウをお見舞いすると、涙目になりながら“暴力反対”だと言って対抗して来た…そしてその様子を笑いながら見ているユリウスと我関せず新聞を読むクラウス。酔い止めをちょこちょこ飲んでまでそれ程株価が気になるか…


 そして、横で眠る温かな体がモゾモゾと動く…ああ目が覚めたか。



「こ、こは?」


「馬車の中だ……我が家へ、グリモワール家へ向かっている。」



 述べると驚いた様に私の顔を見て、そして急に涙目になった。だがその目は恐怖による涙目ではない…



「私、婚約破棄された上反逆罪で…巻き込んでしまったの?!」



 今直ぐ自分を衛兵へ届ければ助かるからそうしてくれと訴える彼女の口を強引に塞ぐ…勿論己の口で。そして彼女の柔らかい唇と口腔内を堪能した。



「らい、あん…だ、め……あ、」



 彼女の艶っぽい声と仕草にやられて私は理性が焼き切れそうになるも、何とか踏みとどまって彼女へ言い訳を一言。



「遅くなったが私の伴侶として我が領へ連れて行く。文句も反論も聞かないので悪しからず。」



 驚いた表情の彼女しか、目に入らない。



「待たせて悪かったな…約束通り迎えに来た。」



 すると彼女は目を潤ませながら笑みを浮かべてこう言った。



「もう、忘れられていたかと思った……守ってくれてありがとう!」



 私は彼女を抱き締め、彼女は私の胸に飛び込む……ああやっとだ、やっと。こうして抱擁出来る事も彼女と接吻する事も、そして触れて言葉をこうして躱す事も出来なかった日々。それはとても辛いものだった。


 私は仮面を外し、彼女は仮面の下に隠されていた顔へとキスを何度もした…私は彼女の身体から感じる温もりと柔らかさへ本能が敏感になる事を何とか理性でもって制していた。

 ああまずいな……もう、抑えがきかない。


 そう本気で思った時、背後から空気を壊す様なヒューヒューという声が聞こえた……



「よ、リア充…そして末永く爆発しろ〜!!!!!」



 相変わらず口の悪いグレンデルは涙目になりながら半分恨めしげに祝福してくれた…だが時々奴の言う言葉の意味がよく分からない事があるな。

 そして我が伴侶となったノアール・ルージュ・キュビヤック令嬢は真っ赤になり下を向くが、その手は離れない。

 離さない。




◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇




 数年後、某国の王宮で大規模な反乱が起こり王族は滅びの一途を辿った……特に当時地下牢に捕らえられていた重罪人とされる元王子と元男爵令嬢と数名の元貴族達は民衆の前に1週間晒された後拷問死する事となった。

 その中には王族破滅の切っ掛けとなった人物とされる女性が数名いたと言われている。

 一説によると、一度辺境伯の第二夫人として王直々の命令で婚姻を受けた女性がとある事件を起こした結果であると伝えられている。彼女はかつて“社交界の蝶”と言われたが、地下牢から出された時にはそれが嘘の様にその容貌は見る影も無く変貌していた。“酷い火傷痕”が事件の後遺症なのか、全身にあったとか。


 なお、王国は一度破滅した後新たな王を立てて真新しい王国となったそうだ。


 だが国が変わっても1つだけ変わらなかった事が有る……それこそがグリモワール辺境伯家。彼らは地位も場所も何もかも元の王国、いや、王国建国以前から何も変わっていなかった。

 現地では人間の民達が伝説上の“魔”に属する種族達と共に共存共栄しており、その様子を仲睦まじい辺境伯の人々が見守っている。


 謎の多いその土地は、だが恐らく世の中有数の穏やかな場所なのではなかろうかと推測されている。



 本作品の反省点としては、多分設定を凝り過ぎて分りにくくなってしまった点でしょうか……一応現実には存在しませんが元となった乙女ゲーム設定と致しましては王子ではなく魔術師?賢者?担当者√がトゥルーエンドだと言えるでしょう。勇者や王を導く役割である賢者がメイン攻略対象だったら面白いかなと思ってやってみました。


 さて、次回はいつになるか分かりませんがどうぞ宜しく御願い致します。


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