ぴよたま?
ぴよたまの話の続きです。ぴよたま=◯まごっち的なもの
お互い、勘違い回
放課後、西日が伸びる通学路を、僕は蓮と並んで歩いていた。
鞄の中で『ぴよたま』が、ときどき小さく震える。ご飯の時間が近いのかもしれない。
隣を歩く蓮を見ながら、僕はふと思う。
蓮、ぴよたまのこと、ちゃんと分かってるのかな。思っているよりお世話が大変だって、買う前に教えてあげなくちゃ。
そんなことを考えていたら、蓮が急に足を止めた。
「お前、誰との、その……子供、考えてんだよ」
声が小さい。うつむき加減で、耳の先だけがやけに赤い。
途中がうまく聞き取れなかったけど、蓮がぴよたまを買うってことだよね?
「え、蓮のこと考えてたよ?」
「そ、そうかよ」
なんだか嬉しそうだ。緩みそうになる頬を、必死に引き締めようとしているみたいな顔をしている。
そんなに、ぴよたま欲しかったのかな。
「でも蓮、大変だと思うよ?」
「何がだよ」
「お世話。ご飯とか、ちゃんとあげられるの?」
「大丈夫だって」
蓮が、なぜか胸を張って答える。頼もしいのか、ただの勢いなのか、よく分からない自信だった。
「すぐ汚すと思うよ? ちゃんときれいにしてあげられる?」
「それくらいやるって」
「夜中でも呼んでくるかもしれないし」
「俺がお前の分も、ずっと見てるし。任せとけよ」
あれ? 僕のぴよたままで育てるつもりなのかな。
「え、僕もご飯あげるからね」
「もちろん。頼むわ。俺だけだと泣き止まないかもしれないし」
え? ボタンを押すだけだよね?
泣き止まないとか、そんなことあるのかな。首をかしげる僕をよそに、蓮は真面目な顔のままだった。
「夜泣いても、俺が頑張るからさ。そのときは、ゆっくり寝てくれ」
「あ、ありがとう?」
よく分からないけど、優しい。
夕方の光の中、蓮の横顔がいつもより少しだけ大人びて見えた。
「性格とか、どうなるんだろうな」
「蓮に似たりして」
ぴよたまには、いろんな性格のキャラクターがいるんだよね。蓮みたいに格好つけているキャラもいた気がする。育て方でも変わるらしいし、案外楽しみだ。
「俺に似たら大変だろ」
「あはは。そうかも」
「俺は嫌だな」
思いのほか、きっぱりした口調だった。
「伊織に似た子がいい」
蓮、もう「子」なんて呼んでる。まだ買ってもいないのに、すっかりその気になっている。よっぽど気に入ったんだろうか。
「僕に似てる子か〜。どんな子かな」
「かわいいだろ」
迷いのない即答だった。
可愛いキャラなのか。蓮は僕より詳しいのかもしれない。今度、攻略サイトでも見せてもらおうかな。
「あ、そうだ。僕、名前を決めたいんだよね」
「え、早くないか?」
「そんなことないよ。まだ性別はわからないけど、僕、女の子がいいなって思ってるんだ」
「女の子か」
蓮が小さく繰り返す。心なしか、声が柔らかくなった。
「うん。だから女の子の名前、一緒に考えてよ」
「おう。そうだな……」
蓮が腕を組み、視線を宙に向ける。
今日一番の真剣な顔をしているかもしれない。ただの育成トイの名前を考えるにしては、なんだか大げさな気がする。
「美玖とか、どうだ?」
「ええ〜? 和風すぎない?」
「そ、そうか? うーん……」
蓮があからさまにしゅんとする。
案外、繊細だ。
「ピィちゃんとか、可愛くない?」
「え、お前、それ……。でも、そういう名前もあるのか。そっか」
「蓮も買ったら、一緒に考えてあげるからね」
その瞬間、蓮の足がぴたりと止まった。
表情から、さっきまでの余裕がすっと消える。
「は?」
「え?」
あれ?
「蓮、ぴよたまの話だよね?」
数秒。
「あ、ああ! そうそう! ぴよたま、ぴよたま!」
声が、ちょっと大きすぎる。目も泳いでいる。
蓮の様子がおかしい。
もしかして、今までの会話って――。
頭の中で、さっきまでのやり取りが早送りで再生される。
誰との子供。
夜泣いても頑張る。
伊織に似た子がいい。
名前も一緒に考える。
全部、全部――。
「……っ!」
ぼっと、顔から火が出た。
それから二人とも、しばらく黙ったまま歩いた。
西日だけがやけに眩しくて、僕はうつむき、意味もなく鞄の紐を握り直す。
何か言わなきゃと思うのに、何を言えばいいのか分からない。
ちらっと隣を見ると、蓮も同じくらい赤い顔で、じっと前だけを見ていた。
結局そのまま、駅前まで一言も交わさなかった。
その後、蓮はぴよたまを買って帰った。




