可愛いって、言って欲しい
人物紹介
・伊織:TS娘。蓮とは小さい頃から幼馴染。蓮が好き。
・蓮 :伊織と小さい頃から幼馴染。伊織が好き?
僕こと伊織は中学の頃男の子の体から女の子の体になった。体は変わっても心は男の子のままだ。
※
朝の空気はまだ少し冷たくて、僕は待ち合わせ場所の電柱の陰で、ポケットに手を入れたまま蓮を待っていた。
時計を見る。
いつも通り、まだ約束の五分前だ。
スラックスの裾を軽く整えながら、僕は通学路の向こうに目をやる。
胸元に大きなリボンはつけているけれど、制服のスカートにはまだうまく馴染めない。
――スカートなんて履いたら、蓮に笑われるかもしれない。
蓮。僕の幼馴染。僕が男だった時から好きだった、大切な人。
でも蓮は、僕のことを友達としか思っていないと思う。
そんなことを考えていたときだった。
「よ」
聞き慣れた声に顔を上げると、蓮が小走りに近づいてくるところだった。息が少し弾んでいる。
「おはよう」
「悪い。待たせた?」
「ううん。今来たとこ」
そう言ってから、僕は笑ってしまった。
「何だか、恋人みたいだね」
「俺と伊織が? いやいや、付き合ってないし」
「ふふ、そうだね」
二人並んで歩き出す。
僕は隣を歩く蓮を、そっと横目で眺める。
僕と蓮は、離れていた時期がある。
幼稚園の頃からずっと一緒だった。だけど中学一年の途中から三年生になるまで、僕は親の転勤で違う学校に通っていた。その間に、僕は女の子の体になった。
高校でまた同じ学校になり、再会したときのことを今でもよく覚えている。あのときの蓮は、驚いた顔をしながらも、すぐにいつもの調子で「よ」と手を上げた。変わらないでいてくれたことが、何よりも嬉しかった。
高校生になった蓮は、記憶の中の少年よりもずっと背が伸びて、輪郭も大人びていた。かっこよくなったと、素直に思う。
「蓮、モテるでしょ」
「え? 急に何だよ」
「んーん。かっこよくなったなあって」
「そ、そうかよ」
蓮は照れくさそうに視線を逸らす。
「クラスの女の子たち、ほっとかないと思うよ」
「別に。そんなことないだろ」
「僕から見ても、いいなって思うもん」
「……っ!? 何がだよ」
「蓮の彼女になった子、幸せだろうなって」
「なっ!? お、お前だって クラスのやつらに」
「僕?」
蓮は何か言いたそうに口を開き、すぐに閉じた。最近、クラスの男子から声をかけられることが増えた。けれど、それと蓮の機嫌に何の関係があるのか、僕には分からない。
「伊織もさ、あの」
「なに?」
「嬉しくねーかもだけどさ」
「うん?」
「かわいく、なったよな」
「え、あの……」
うれしい。
蓮が顔を赤くしている。
もしかして、僕にもチャンス、あるのかな?
「あの、ぼ、私……男の子、だよ?」
「やっぱ、かっこいいのほうが嬉しいか?」
「……分かんない。だから」
頭がぼんやりする。
「もう一回、言ってよ……」
可愛いって、言ってほしい。
「伊織」
「うん」
蓮の声が、少しだけ低くなる。
「かわい――」
「おーい! 二人とも、おはよー!」
後ろから響いた明るい声に、二人同時に肩が跳ねた。
振り返ると、クラスメイトたちが手を振りながら駆け寄ってくるのが見えた。
蓮は慌てて咳払いをした。僕も頬の熱を誤魔化すように前を向く。朝の空はどこまでも青く、僕たちの距離は、今日もまだ幼馴染のままだった。
いつか蓮が僕のことを好きだって言ってくれるように、僕はこれからも蓮のそばにいるんだ。
お読みいただきありがとうございます。
ゆっくり更新だと思いますが、よろしくお願いします!




