評価
体調は日常生活に問題ないほどに戻ったし、魔法の練習もできるとは言ったのだが、『油断してたらまた倒れるぞ馬鹿』とルーナからのいつものお叱りを受け、今日は魔法の練習はお休みだ。代わりと言うわけではないが、ルーナがご飯を奢るという約束をまだ果たされていなかった為、町にご飯を食べに行くことになった。そもそも町に買い物にいく回数も最小限に抑えているくらいなのだが、外食に行くなんてわざわざ罵声を浴びに行くようなもので、今の家に越してきてから一度もそのような場所には行ったことがない。いや、両親が亡くなってからは行ったことがない。そんなお金などなかった。
「ところで、国家機関のお仕事というのは給料いいんですか?」
「ゲスなこと訊くな、お前は」
通い慣れた林の中を並んで歩く。元は道などなかったのだが、私が何度も行き来しているうちにそこは道となったのだ。ちなみによく使う薬草が生えている場所も、食べられるキノコが生息している場所も、小動物の住み家も全て把握済みだ。謂わば自分の庭だと言ってもいいだろう。
「だってあんまりお金には困ってなさそうだから。服も結構いいものでしょう?それ」
「ああ?これは国から支給された制服みたいなものだし、中に着ているのはそんな大したものじゃねぇよ」
とは言うが、多分私の服より五倍はいいものだ。無駄な装飾品はしていないし、真新しいものを着ているわけでもなさそうなので、贅沢をしているわけではなさそうだが、外食で奢れるほどの稼ぎはあるということだ。
「まあ…仕事内容が内容だからな。多分一般市民の平均収入は越していると思うが」
「そうですよねぇ。一歩間違えば命を落としかねないし、嫌な仕事を引き受けているんだからそれくらいは弾んでもらわないと割に合わないですよね」
「給料は必要な分あれば俺はそれでいいんだがな。この仕事をしているのは他にも何人かいるし、俺個人の意見で給料の額を変えるわけにはいかんだろうしな」
社会人もいろいろと大変そうだ。
私はまだ成人もしてないので、こんな身の上でなかったとしても働き口は限られている。いつかは、ルーナのように大人として働き、給料をもらえる日が来るのだろうか。多分私の存在を誰も知らない遠い町に行かなければならないと思うが。ああ、だったら昔両親と住んでいた町に行こう。あそこならよく知っている場所だ。あそこなら────…
「おいリズ?」
「っ!あ、は、はい?」
ぬ、と目の前に肩眉を顰めたルーナの顔が入り込んでくる。足は歩き続けていたままだったので、危なくぶつかる所だった。
「どうした、黙りこくって。体調悪くなったか?」
「あ、いえ。大丈夫です。少し昔のことを考えていて…。ああ、ところでルーナ、何を食べましょうか!」
「何って、そんな自由には選べないぞ。お前のこと然り、俺も顔が割れていないとは言え、長く滞在すると何故か人が集まってくるんでな。その中に知っている奴なんかいたら面倒だ」
そりゃあんたが目立つ顔面を引っ付けているからだ。こいつ本気で疑問に思っているのだろうか。無自覚は時に人を苛立ちという名の我慢しがたい感情の境地に押しやる。ニキビとかできればいいのに。
「では、味には目を瞑ってでも人気のない寂れた廃墟のような飲食店を探すしかないですね」
「そんなん、お前の作った飯食ってた方が数倍いいわ」
金払って何故不味い飯を食わねばならん、とルーナは言うが、美味しいお店で食べたところで、周りからの武力介入でもあればそれこそ行かなければよかったとなるだろう。ではやはり、ルーナが言う通り家で私が作った方がマシなのだろうか。
「……あれ?」
「あ?」
はた、と気が付いて、私は顔を上げた。ルーナの言葉を頭の中で反芻する。うん、間違いではない。
「ルーナ、私の作るご飯、美味しいって思ってくれてたんですか?」
「ああ?美味しいっていうか…廃墟のような不味い店で食うくらいならその方がマシだって言っただけだろ」
「それでもいいです。ふふっ、ルーナが初めて私の料理評価してくれた!」
旨いでも不味いでもどっちでもいい。今まで淡々と食べていて、どちらも言わなかったから正直不安だったのだ。下手ではないが、特別料理が得意でもない私は、ただ自分で作って自分で食べることを繰り返して、その仕上がりについては追究してこなかった。ルーナと一緒にご飯を食べるようになって、人の評価というものが気になった。見た目は悪くないだろうか、味は濃すぎたり薄すぎたりしないだろうか、目玉焼きには何をかけるのだろうか、え、まさかのノートッピング?素材の味を堪能しすぎてもしかして味付けなんて気にしていないのか?そんな自問自答と観察をしてきたのだが、特にルーナからは感想はもらえていなかった。少しだけ寂しくて、『美味しい?』なんて訊くのは美味しいと言うよう促している質問のような気がして、私からはなかなか訊けずにいたところだったのだ。
「言ってなかったか?俺」
「聞いてませんよ。ちょっと拗ねてました。ルーナは時々言葉が足りません」
「あー、悪かったよ。えーと、お前の料理な、その…、パンと林檎が旨いぞ」
「………」
舞い上がった気分が吹き矢で射落とされたようだ。
笑顔のまま固まった私は、すっと表情を消して、すたすたと先へ進んで行った。
「リズ?何か怒って…」
「お褒め頂いて光栄ですでは今後ルーナは三食ともパンと林檎にしましょうああ帰りに買って行かないと三日後の夕食分が足りないかもですね」
「え?い、いや、それは…」
「一生パンと林檎食ってろ」
「!?」
低く凄んだ私は、立ち尽くすルーナを振り返りもせず、早足で林を抜けていった。




