オークに襲われた村
オークは基本的にどこの森にも生息している。
群れは作らず、数匹単位で生活することや一匹だけで生きるものが多い。
それもこれも、オークの旺盛過ぎる食欲のせいだった。
雑食ではあるがその強靭な体躯により基本的には捕食者側であり、またその食欲は同族でも喰らいかねないものがあるため、群れを作るとたちまち崩壊する。と、言われているのがこのオークであった。
「普通は五体だけでも見つけるだけでまあまあ時間はかかる時が多いけど……」
「幸い、とは言えませんが、ちょうどオークが溢れてしまった地域があります……」
勇者ヴィルト、そしてシールが通った道だ。
シールがその後のことを知っているかはわからないが、もし知っていれば気にしていることだろう。
「行こう」
「はい」
繁殖したオークを減らすため、メルトとともに村へ向かった。
◇
「何しに来やがった!!!」
村に入った途端の出来事だった。
「てめえら冒険者って奴らがめちゃくちゃやりやがったおかげで……! 俺たちは……俺たちは!!!」
「落ち着け! すみません、旅の方々……今我らの村ではもてなしなどとても……」
「わかっていますよ」
ひと目見ただけで十分わかる惨状が村には広がっていた。
見張り台を含めて村の玄関口の家屋はことごとく崩されており、今俺たちに声をかけてきた男の頭にも片目を覆い隠す包帯が巻いてある。
一人目に至っては肘から先が失われ、未だ包帯には血が滲んでいた。
「【ヒール】」
「なっ……馬鹿やろ! 俺たちに治療費なんて……」
「良いのです。むしろこの姿を見れば、それでも許すことなどできないでしょうから……」
そういうとメルトがフードを外した。
「なっ……」
「あんた……は……」
目を見開きメルトの素顔を見つめる男たち。
「勇者ヴィルトは、私の兄です」
「なんで……」
「許されようとは思いません。ですが、せめてこの現状だけでも──」
「なんでだよっ!」
メルトの言葉の終わりを待たず、最初に声を上げた村の男が叫ぶ。
「どうして……俺たちは一言も魔物退治なんて頼んでなかった! それなのに……それなのに……」
うつむく男を前に俺たちは立ち尽くすことしかできない。
「返せよ……返してくれよ! 村のみんなを! 俺の腕を! 俺の……家族を……」
ポツポツと、男の涙が荒れ果てた村の大地を濡らす。
「申し訳、ありません……」
ただ言葉を受け入れ、頭を下げるメルト。
こんなことを何度も繰り返してきたのだろうか……。
「私からも言いたいことは山ほどあるが……ひとまず村長の元へ、そこでお話を聞きましょう」
複雑そうな顔で包帯を取りながら、もう一人の男が俺たちを促した。
俺はメルトの目を見ることができなかった。




