魔族戦争前日の大戦争
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「ここは兵士の修練場であって魔導兵器の実験場ではないのだが、この有様はどういうことだ」
「すみません、組手してたらちょっと勢いあまってつい」
「ちょっと……? ……悪いが、これ以上の損害は許容できん。魔族との戦いの前日だからと血が滾るのは分かるが、もっと暴れたいというのなら王都の外でやってくれ」
魔族軍総隊長モリッツゲイト氏が眉間を指で押さえながら、修練場にできたクレーターを眺めつつ言っている。
正直スマンかった。怪我人が出なかったのがせめてもの救いか。
周りへの被害を考えるなら最初っから街の外でやれって話だが、ここんとこわざわざ訓練場で組手をしていたのはアルマたちの提案なんですよー。いや別にアルマたちのせいにするつもりはないけどさ。
なんでも、ぽっと出の俺が急にSランクだからと特別扱いされるのが気に喰わないとか、そういった話が軍や集まった冒険者たちの一部で出ているとかなんとか。
こないだの女隊長相手のやりとりもマッチポンプじゃないかとか言われてるのを聞いて、このまま舐められてるとまたトラブルのもとになりかねないから、ある程度実力を見せておくべきだって言ってたな。
……そのトラブルを、今まさに俺たちが引き起こしているんですがそれは。
文句を言いたい奴には好きに言わせておけばいい、とは思うが舐められすぎてこっちにちょっかい出してくる奴がいないとも限らないし、渋々あえて目立つような場所で組手をした結果がこれである。
「……今日はもうこれくらいでやめとくか」
「まだ始まってから一分も経ってない……」
「全然鍛錬になってないんすけど」
「ハナからあんな殺す気満々な攻撃繰り出してくるからだろうが。特にヒヨ子、お前あとでお仕置きです」
『コケッ!?』
「なんでじゃねーよ当たり前だろ、あんなもんが万が一住宅街なんかでまともに炸裂してたら大惨事だったぞ。下手すりゃ何百人死んでたか分からん。いくら修業の成果を見せたかったからってどう考えてもやり過ぎだバカ」
『コ、コケェ……』
叱られてションボリした表情でか細い声を漏らすヒヨ子。可哀想だけどこればっかりはちゃんと怒っとかんとアカン。
これから集団戦をすることもあるだろうし、その際に味方に当てるようなことがあったらシャレにならん。
最悪、味方殺しの害獣扱いされた挙句食卓に並ぶことになりかねんし、ここは厳しく言っとこう。
「……ただ、相手の遠距離攻撃を無効化しつつ強力な攻撃を放てるのは頼りになりそうだ。味方に当てるのは論外だが、魔族相手なら遠慮せずにぶっ放してやれ」
『コッ、コケッ』
「お仕置きは昼飯をコッチイチの10辛カレー完食で勘弁してやる。ちゃんと反省しろよ?」
『コケッ!』
「カレー食べるだけって、それお仕置きになるんすか? 美味しいだけじゃないっすか」
「レイナもあとで一口食ってみるか? 二口目が食えたら大したもんだってレベルで辛いんだが」
『コッ……!?』
「なんでそんなもの作ったんすか……」
俺が作ったんじゃなくて、日本へ寄ったついでに買ってきたモノなんだけどな。
他にもこっちじゃ食えないようなものをたんまり買い込んであります。寿司とかお菓子とかインスタントとか(ry
で、結局王都の外で組手の再開をすることに。もう最初っからここでやればよかったんじゃないかなホントに。
さて、気を取り直して組手を始めますかー……って思ったのに。
「なぜ総隊長まで一緒に?」
「なに、魔族との戦争前に少し肩慣らしをと思ってな。お前さん相手なら思いっきり戦っても問題なさそうだし、俺も少し混ぜてもらおうか」
なぜか魔族軍の総おじまでついてきた。いやアンタ、軍の仕事はええんか?
まさか雑務から逃げるために俺たちについてきたんじゃあるまいな。
「戦争の準備はとうに済んでいる。作戦内容の最終確認は今晩行われる予定だし、それまでは暇なのでな」
「そうですか。では私たちのパーティ対総隊長という形で」
「オイ待てさすがにそれは勘弁してくれんか」
ヒトんとこのパーティの稽古に乱入してくるならそれくらいの気概をもってもらわにゃ困るわい。
つーか、この総おじだけならまだいいんだけどねー……。
「こらこらヒカル君、いくらなんでもそれはひどいぞ」
「うふふ、私たちも参加しましょうか。モリッツさん、助太刀しますわ」
「……なぜ、お二人もここへ?」
「なに、21階層から生還した成果を見せてもらおうと思ってね。期待しているよ」
アルマの御両親まで乱入してきおった。どっから湧いた。
つーか期待されても困る。多少レベルは上がったけど、持ち帰ったものの大半はまだ加工中だっての。
使えそうなもんといったら、アナライズ・フィルターと肉断ち包丁くらいなもんですよー。
とか思ってたら、御両親の後ろからやたら筋肉質なじい様が声をかけてきた。
すげぇ身体してんなー……まるでスパーダのジジイみたいだ。
「おいデューク、先にやらせろ。こやつ、見ていてなかなか滾るものがあるわい」
「そちらのお方は?」
「ああ、この方は剣王『スパディア』様だよ。私やアラン君の師匠でね―――」
「『スパーダ』!?」
目の前の筋骨隆々とした老人と似た特徴のジジイを想起していると、その名前を呼ばれて思わず大声で驚いてしまった。
いや、なんか微妙に発音がおかしかった気もするが。やたらネイティブというか。
「違う、『スパディア』じゃ。儂の名前の由来はスパーダじゃがのぉ。伝説の剣士に間違われるとは、光栄じゃなハハハッ」
「伝説の、剣士? あのジジイが?」
「だぁれがジジイじゃクラァ! 口の利き方がなっとらんな貴様!」
「ち、違います! 俺が言ったのはスパーダのほうですって!」
「アホか、スパーダは何百年も昔の剣士じゃわい! まるで会ったことがあるかのように言って知ったかぶっても誤魔化されんぞ!」
「ちょ、ちょっとお待ちください。……ヒカル君、まさか、21階層で会ったのか?」
半ギレで俺を怒鳴り散らすじい様を、アルマパパが止めつつ俺に問いかけてきた。
あー、説明するのがめんどくせぇ……。
ていうか、組手の話はどうなった。総おじが話についていけずに困惑してるやん。
とりあえず、21階層でスパーダのジジイと共闘したことやスパーダの正体が過去の勇者『相馬竜太』、つまり魔王の前世であることを説明。
目を見開いて驚きつつも、どこか納得したような表情をするじい様。
今の突拍子のない話をそんなあっさり信じられるのか……?
「むぅ、にわかには信じがたい話ばかりじゃが……そうか、あの魔王の動きのキレは勇者ソウマの、そして伝説の剣士スパーダのものじゃったのか……!」
「なるほど、こちらの剣がまるで通じなかったのも納得だ。よもやスパーダと過去の勇者が同一人物だったとは」
「ああ、そういえば先日魔王と戦ったんでしたね。……よくご無事でしたね」
「もう少しで殺されるところだったがね。黒竜とスパディア様が間に合わなかったらと思うとゾッとするよ」
「あんなに皆に強化してもらった状態で挑んだのに、まるで歯が立たなかったわねぇ……能力値15000くらいまで強化されてたはずなんだけど」
そりゃそうだ、魔王の強さは頭おかしいし。むしろ能力値が負けている状態でよくやり合えたなと感心してしまうほどだ。さすがアルマの御両親だな。
メニューさんに魔王のステータスを見せてもらった時には軽く絶望したわ。もうね、アホかと。バカかと。バランス考えろよと。
だからこそ、勇者パーティの残り枠の使いかたやら、教えるのにリスクのある魔力・気力操作を伝授したりとか色々と策を練っているわけで。
あと、こうやって手練れの人物とあらかじめ接触しておいたりとか。
レベルが40に達した時点で、ファストトラベルの他に『マーキング機能』が追加されている。
一度でも会ったことのある対象をマーキングし、現在どこにいるのかを把握することができるという機能だ。
その対象が移動した分、マップ画面も拡張されるというおまけつき。ただし、ファストトラベルは俺自身が訪れた場所にしか使えないけど。
で、このマーキング機能を使って、できる限り強い相手を今のうちにマークしておくことをメニューに推奨されている。
まだ獲得していない機能のことを教えるのは禁則事項らしいが、Lv80に達した時点で追加される機能がこのマーキング機能とセットで使うことができるものらしい。
第3大陸攻略時には世界中から特級職を含めた猛者たちが集うらしいし、その時にできるだけ多くの手練れと接触しておきたいところだが、さて。
「さてさて、おしゃべりはここまでじゃ。早速いくぞ小僧!」
「おわっ! いきなりですか!?」
思考に耽っていると、急にじい様が斬りかかってきた。
……名前だけじゃなくて行動パターンまでスパーダに似てるなーこの人。
ステータスを確認してみると、レベルはなんと101。
これまで見た人類の中でも最強である。すげーなこのじい様。
「私たちもいくわよー『クトゥグァ』」
「ちょ、ちょっと! いくらなんでもこっちに不利すぎっすよ! 精霊まで召喚されたら数も質もそっちのほうが上じゃないっすか!」
「問答無用よー!」
アルマママもいつものように、上級精霊魔法と攻撃魔法の連携で襲いかかってきた。
アカン、悪ノリしてて加減がきいてねぇ!
「ヒヨコちゃん! 吸いこんで反撃っす!!」
『コォォォォ……! コケェェェエエエエッ!!!』
俺との組手の時のように、アルマママの魔法を吸い込んでから魔力砲として撃ち返した。
それを【縮地】で辛うじて躱すアルマママ。その顔からは、いつもの余裕混じりの笑みが消えている。
着弾し、炸裂した地面には直径100m近いクレーターができている。……あれが王都で爆発しなくてよかった。
「きゃあああああっ!? ひ、ヒヨコちゃん、あんな技まで使えるようになったの……!?」
「こっちだっていつまでもやられっぱなしじゃないっすよ! 【身外身の術】っ!」
「っ! 分身、いえ、全てが本物……!?」
今度はレイナが分身の術、いや身外身の術を使ってアルマママに急襲を仕掛けた。
7体の分身と本体、合計8体のレイナが襲いかかっていく。
分身の術とは違いその全てに実体があるようだ。……某忍者漫画の金髪主人公かな?
「【光線剣】」
「うぬぁっ!? ひ、光の剣だと? なんて速く、重いっ……!!」
一方、アルマは総おじ相手にサシで互角、いや少し有利に立ち回っている。
あれは新しい魔法剣か。……フォースに導かれてそうな剣ですね。
効果は攻撃力と速さ両方を強化する、いわば【火炎剣】と【暴風剣】のいいとこどりの技のようだ。
……頼りになる反面、他の魔法剣を見るのが怖いなー。
「そらそらぁ! よそ見しとる場合か若造がぁ!!」
「おっと、なんのこれしき!」
「ふむ、やはり21階層を超えて相当鍛えられているようだね。ならば私も加わろうかな」
「え、ちょ!?」
ちょっと待って、さすがに剣王二人相手にするのはきついんですが。
ていうか今日は軽い組手くらいで終わらせないと明日の戦いに響くんですが、あ、無視ですかそうですか。
俺、戦争前に味方に殺されそうだわー。
……ていうか、俺たちよりも勇者君を鍛えてくださいよ。今のままじゃまだ彼も弱すぎるし。
魔王を倒せるかどうかは、勇者君が戦争でどこまでレベルアップできるかにかかっている。
もしも、一定のレベルを満たしていなかった場合は、かなり魔王との戦いが厳しくなること請け合い。
こりゃリソースの使い道も考え直すべきかもなー。
お読みいただきありがとうございます。
>大魔王と名乗っているからやっぱり感想とかに大魔王っぽいキャラで―――
反応に困るので普通でオナシャス(;´Д`)
というか大魔王っぽい感想ってどんなだろうか……。
>ロリマスが言ってた「くんずほぐれつ」の2人がこの2人だったとは…―――
別にそういう関係ではないのですが、ロリマスの腐った思考ではそういう設定という。
あと、普通に伸魔爪飛ばせます。分裂できます。あまつさえそれを炎に変えたりもできます。なんだこのニワトリ。
>ヒヨコが欠片もヒヨコじゃないww―――
ホントなんだこのニワトリ。どうしてこうなった。
紫隊長がアレコレするのはもう少し後です。気長にお待ちを。
>評価は星で―――
御評価ありがとうございます。
……前にも他の方から紫蘇の実関連のコメを拝見させていただいたことがありましたが、紫蘇の実料理が実在しているとは驚きです。というか私が無知なだけか(;;´Д`)
>裏ボスが2体いたっていいじゃないですか―――
装備変更機能は勇者君が使ってるところくらいしか描写がなかったですね。Lv30の時点で追加されてます。
【オーラ・ミティゲイション】 体術・極体術技能を使う際のSP消費半減
【マギ・リジェネレイション】 1分に1ずつMP自動回復。
そしてもう一つの機能は今回説明した『マーキング機能』です。……説明すんのすっかり忘れてたわ(;´Д`)
>いちいちスキル名を叫んでいると考えると、―――
多分、喋るのが速すぎて一般人からはキュルキュル音で聞こえてそう。シュール。
そしてさりげなく人外認定されてて草。人間だよ、ちょっと空飛んだりできるけど多分人間だよ。多分。




