目標意識
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連日、各班の鍛錬をレベリングの合間に遠くから覗いてみたが、どの班も似たり寄ったりだった。
まあ何が言いたいかというと、最終的に全員半死半生の状態になってたということなんですが。
まず勇者班。死に戻りができるからこの班が一番容赦なくやられているように見える。
いや、一応手加減はされているみたいだけど、それでも初日から何度も死んでる。
確認できただけでアルマパパが2回くらい、アルマママが、……何回コロコロしたんでしょうね。
覗き見た時間は10分足らずだけど、その間だけでももうバンバン死んでた。下手したら一日3ケタ超えてるかも……。
アイザワ班は平均レベルが高いだけあって、かなり善戦。
ヒューラさんとガザンギナンドさんは動きの雑さを指摘されているようだったが、粗削りながら実戦向きの動きで食い下がっていたな。やっぱ最後はボロボロだったが。
アイザワ君は荒っぽい口調の割に、綺麗で丁寧な動きで剣を振るってアルマパパを驚かせていた。すごいぞアイザワ君。
ただ、アルマママとの稽古の際に超威力の魔法を無効化しきれず、何度も直撃して死にそうになってた。マスタースキルに頼る癖がついてるからそこを矯正する必要がありそうだな。
ラディア班は一番平均レベルが低い分、御両親はかなり気を使っているように見えた。
始めのうちは力加減を誤って、木刀を当てた際に何度か骨折させてしまったりしていたが、コツを掴んだ後はせいぜいアザになるくらいで済んでいた。
バレドもラスフィーンもお互い無様な姿は見せたくないと思っているのか、動けなくなるまでへこたれず立ち向かっていった。やっぱあの二人根性あるなー。
問題はラディア君だ。
いや、あまりにキツい稽古に弱音を吐いたりしているわけじゃない。そもそも半端な覚悟で御両親に教えを請おうとしてた連中はすでにふるいにかけられているしな。
むしろ逆だ。この子は怯まなすぎる。
骨が折れようが腕が炭化しようが内臓にダメージ入って血反吐を吐くことになろうとも、決して立ち向かうことを止めなかった。なんでこんな覚悟完了してんのこの子。コワイ。
さすがの御両親も若干引き気味だったが、気絶した後に頭を撫でられていたあたりその根性は認められたみたいだな。
あ、やべ。御両親こっちに向かって手ぇ振ってる。バレテーラ。
さっさとファストトラベルで狩場に戻ろ。次回の鍛錬の時にいじられそうだなー。ヤダヤダ。
んー、どの班も思った以上に頑張ってるなー。
特に勇者君とアイザワ君とラディア君は鬼気迫る勢いだ。下手したら追い抜かれるかもしれないと思うほどに、真剣に取り組んでいる。
若いっていいねー。こちとらもうオッサン予備軍でそんな情熱とっくに失くしちまってるわー。
いや、若い頃もあんなに情熱的に取り組むことなんかなかったから歳は関係ないか。……俺ってホント枯れてるなー。
彼らはしっかりした目標意識があるからこそ、あそこまで頑張れるんだろうな。
勇者君は魔王討伐とハーレムのために。……ちょっと動機の後半が邪だがそれも立派な目標だ。
ラディア君は魔族に寝返った兄貴さんをふん捕まえるために。そしてそこからようやく自分のための人生を歩むために、と言っていた。
そしてアイザワ君は、多分アルマを自分のモノにするために。それも力ずくで、これまでそうしてきたように。
うん。どの子も自分の目指すモノのために努力しているのはよく分かる。とても素晴らしいことだ。
だが俺にも譲れない一線というものがある。
アルマが望んでいるのなら、アイザワ君がアルマとともに歩むことも認めなくはない。非常に遺憾だが。
しかし、力ずくで相手の意志を無視して無理やり支配しようとする姿勢はいただけない。
故に、実力行使にはしるというのであればそれ相応の対応をさせてもらおう。具体的に言うとブチこr(ry
そのためにも俺も俺なりに頑張ろうかな。
『ギャルルルゥ………!!』
おあつらえ向きに、ファストトラベルした近くに獲物がいた。
右手に剣、左手には盾を構えた紅色のゴブリンに似た魔獣。ぱっと見弱そうに見える。
しかし侮るなかれ、ステータスを確認したところ基礎レベルが76、天剣術Lv6、盾術上位派生スキルの堅盾術Lv6を取得している強力な魔獣だ。
魔獣の名は『ゴブリン・エンペラー』。見た目はともかく、ステータスと名前は強そうだな。
攻守ともにバランスがとれていて、しかも体格が人に近い。今の俺にとって必要な経験を与えてくれそうな相手だ。
本当に、おあつらえ向きの相手だな。
『ギャラァッ!!』
武器を構えて、凄まじい速さで接近してくる。
【縮地】か。やはり極体術も当たり前のように使えるようだ。
で、剣で斬りかかって―――
『ギィッ!』
「っ!?」
いや、盾で殴りかかってきた!?
盾のバッシュが視界を塞ぎながらこちらに迫ってくる。
『ギッ!』
「うぉうっ!?」
し、視界を塞いでいる間に盾の後ろから【伸魔刃】を使って攻撃してきた。
腕を刺されたが、外付けHPのおかげで無傷。しかし、攻撃を喰らったことには変わりない。
やるな、こいつ。魔獣にしちゃいい動きだ。
再びバッシュをかましてきたのを、気力を籠めたパンチで殴って迎撃。
なかなか頑丈そうな盾だが、ここまで気力強化した拳ならば容易く砕けるだろう。
「おおっ!?」
拳が盾に当たる直前に盾を斜めにずらし直撃を避け、拳の軌道を逸らしやがった。
体勢が崩れた俺に、【魔刃分閃】で爪のように並んだ斬撃を浴びせかけてくる。
「舐めるなっ!」
魔力パイルを同時に複数発動。
剣とその隣に発生した斬撃を全て迎撃し、弾く。
今度は紅ゴブリンの体勢が崩れた隙をついて、追加のパイルを叩きこむ!
が、不可視のパイルをどうやってか感知したらしく、盾を構えて防ぎおった。
パイルが当たった直後、20m近く後ろへ吹っ飛んだ。いや、インパクトに合わせて縮地を使って威力を殺したのか。
……いいねぇ、とてもいい。
そこらの雑魚と違って弱すぎず、鬼先生や御両親みたいに強すぎない、ほどよい実力者だな。
大型の魔獣みたいに大雑把な攻撃ばかりじゃなくて、人間並みに武器を使いこなして戦術を練っている。攻守ともに目立った隙が無い。
それをどう崩すのか、考えるのが楽しくなってきた。
「ふうぅ………!」
魔力に生命力と気力をブレンドし、放出。
それぞれ100ずつ均等に混ぜ合わせたもので、ちょっとした分身みたいなもんだ。結局遠隔操作で俺が動かしてるから正確には分身というかファンネルみたいなもんだが。
俺本体と同様にパイルを撃つこともできるし、その気になれば火力特化パイルも使えるだろう。
「がぁっ!!」
『ギ!?』
魔力ハンドで盾を鷲掴みにして、動きを封じる。
このままアイテム画面に放り込んでもいいが、今は対人戦の修業中。どうするのか見てみるのも必要だ。
『ギャラアッ!!』
顔に向かって伸魔刃を突き出してきたが、魔力の刃に噛み付いて止める。
外付けHPがなけりゃ絶対こんな防ぎ方しないだろうけど、まあ何事も経験ということで。
さて、この状態じゃ剣も盾も使えないが、どうする?
どうやって俺のパイルに対応するのか、見せてもらおうか。
パイルを紅ゴブリンの胴体めがけてぶちこんだが、まるで見えているかのようにパイルを足で蹴飛ばし、防いだ。
格闘術まで使えるのか、やはりこのレベルの魔獣は侮れないな。
じゃあ、次は先ほど放出したブレンド魔力をどう捌く?
紅ゴブリンの背後で、放出した魔力を使って火力特化パイル発動!
ズダァンッ!! といつもの派手な音を響かせながら、紅ゴブリンの背中に魔力の杭をブチ当てた。
『ギャァルァアアッッ!!!』
なにかが背後から攻撃してくるのを察していたのか、前に歩を進めて威力を減退させたようだ。
しかし、それでも致命傷。肺や内臓がいくつか潰れているのがメニューを通して分かった。
放っておけば、数分で死に至る重傷だ。
それでもなお、俺に立ち向かってくる。
パイルにブチ抜かれたダメージに怯みもせず、むしろその勢いを利用して頭突きを放ってきた。
【鉄槌頭突き】。自分の攻撃力の倍の威力で繰り出せる、高威力の頭突き。紅ゴブリンの攻撃力は1600程度だから、攻撃力3200の頭突きということになる。
素の状態で当たればただじゃ済まない。だけどその技、既出なんすよねー。
こちらも気力強化して、攻撃力5000程度の頭突きで迎撃。
『ギャアッ!!』
もっかい頭突き。
『グベェッ!!?』
頭突き。頭突き。さらに顔面に向かって思いっきり頭突き!
『ギャバッ!? バビョッ! ガビャァァア!! ガ……ブッ……!!』
紅ゴブリンの顔が内側にめり込み、潰れた。前が見えねぇとかそういうレベルじゃないなこりゃ。
あ、レベル上がった。ふむふむ、二回り上の魔獣相手ならまだそこそこ経験値も美味しいようだな。
……うーん、結局最後はゴリ押しになってしまった。そうじゃない、これじゃダメなんだよ。
『剣術』とか『槍術』とかみたいに、スキル分けされるくらい完成されたスタイルを編み出したいんだけどなー。
いや編み出しても新たなスキルが生まれるわけじゃないし、本当に有効な戦い方を編み出せるのか分からない。
そもそも今の俺にできることなんて限られてるしな。
魔力・気力・生命力の操作。それに加えて拳法モドキや大槌を爆発させて振り回すスタイルだ。
無理にまったく新しいスタイルなんて編み出さなくても、現状できることの組み合わせでなんとかしてみるかな。
あ、なんかちょっとエグい戦い方思いついたかも。
次のアルマパパとの鍛錬で試してみるか。有効じゃなけりゃダメ出しや指摘をしてくれるだろうし。
『ゴルルルル……!!』
『ギリリリリリ……!!!』
お、さっきの紅ゴブリンと同種っぽいのが二体出てきた。
こいつらぶちのめしたら、今日のレベリングは終わりにしょうかな。
いやー、それにしてもこの狩場、Lv70台のヤベーやつがゴロゴロしててレベリングに最適だなー。
ここがスタンピード起こしたらと思うとぞっとするわー。……フラグじゃないよ? ないよね?
お読みいただきありがとうございます。
>アルマママ厳しすぎんよー―――
登場している人類の中では最強格のママ。パパよりほんの少し強いです。
蛮勇者はもう取得済みなので、他の称号獲得のために地獄を見る模様。イ㌔。
>上には上が、バケモノの上には恐怖の女王がいた…!!―――
誤字報告ありがとうございます。即修正しました(;´Д`)
今回はダイジェスト実況で様子を描きましたが、そのうちちゃんとした描写でも書きたいですねー。
>勇者も魔王も両神も鬼先生も主人公もなかなかに恐ろしいが―――
平気じゃないです。世界さんめっちゃ我慢してます。
毒を撒き散らす大ヘビとかふざけんな死ねとか思ってそう。
>ああつまりこう言えばいいんだな。 ヤムチ―――
空飛べるし繰〇弾もどきも使えるだろうし、これは紛うことなきヤ〇チャ。
彼も他の作品ならぶっちぎりで強いだろうに。
>最初の場面想像したら完全にアルマママが魔王みたいな存在になってしまった…
見た目完全に全滅したパーティを見下ろすボスですね。これは魔王ですわ。
訓練から逃げ出そうにもどこまでも空間魔法で追ってくる恐怖。大魔王からは逃げられない。
>なるほど、これはアイザワ君がカジカワに追いつける日は来ないな←
ステータスの差だけなら技術で埋められなくはないのですが、いかんせん主人公の成長速度がおかしいので。
彼の今後はどうなりますやら。




