実力の証明
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「………以上が私が見た限りでの、今回の魔族襲撃に関する報告です」
「むぅ……」
淡々と数分もの間昨日の騒ぎについての報告を続けるコワマス。
それをどう受け止めたものかと、ちょっと困ったような顔をしながら目を細めるなんか偉そうなオッサン。
はいどうもおはようございます。昨日は本当に大変な一日でしたねハハハ。
ただいま王宮の会議室にて、お偉方に朝っぱらから昨日の騒ぎに関する報告をしている真っ最中。
報告する側の主なメンバーはコワマス、アイナさん、勇者様御一行、ヒューラさん、ガザンギナンドさんほか、昨日の魔獣や魔族の討伐に当たっていた人たちだ。
俺も一応『飛行士』名義でフードと仮面を被って出席中。もう仮面は嫌でござる……。
王国側は王様側近の宰相とか偉そうに踏ん反り返ってる貴族っぽい人たちとか、あと軍の将軍とか。
その中に、例の黒竜の飼い主『ラーナイア・ソウマ』もいてちょっと感情的になりそうだったが、今はそういう場じゃないので自重しておく。
「……おおよその経緯は飲み込めました。我が国を守っていただき、まずは感謝を述べさせていただきます」
「それにしてもまさか魔族の幹部が直々に侵攻してくるとは……。前例では幹部クラスは拠点から動くことはほぼないらしいのですが」
「しかし、魔族の死体の中にLv80を超える非常に強力な個体を確認しております。いかに魔族と言えどもあれほどの者はそうおりますまい」
「つまり魔族の幹部に相違ないと見ていいか。異常事態に嘆くべきか、こちらから拠点を攻めずとも幹部を討伐できたことを喜ぶべきか……」
昨日の騒ぎについて、自分たちが把握している情報とこちらからの報告を照らし合わせて検証している。
てか、主にあの白魔族についての話のようだ。魔族の幹部を仕留められたのがそんなに意外か?
≪その大陸の拠点を任されている幹部を討伐した時点で、リーダーを失った魔族たちは本拠点へと撤退する。再び幹部クラスの魔族が派遣されるまで最低でも3年程度は猶予があるため、その大陸に住む人類は大きなアドバンテージを得られる≫
……3年か。長いか短いか微妙だなー。
てか『本拠点』? そんなところがあるなら、なんで皆そこを攻めようとしないんだ?
≪魔族の本拠点は全ての大陸の幹部が討伐された時点で出現する。そのため、各大陸の幹部はできる限り同時に倒すのが望ましい≫
……ってことは、今回フライング気味に幹部を倒しちまったのは実はあんま良くなかったりする?
≪……この大陸の幹部は現状では2番目に倒された個体である模様。ひと月ほど前に他の大陸にてさらに早く幹部を討伐しているのでさほど問題ではないと推測≫
え、他の大陸でも既に一体倒されてるってことか? 仕事早いな人類。
それならもうこの勢いで他の大陸の幹部も一気に倒してしまいたいところだが、そううまくいくもんかねー。
「……我が国の軍も落ちたものだ」
「……っ!」
一通りの情報整理が終わったくらいに、宰相のじい様が口を開いた。
静かに失望を籠めた声色の呟きを聞いて、将軍と思しきオッサン方が席を立ち宰相のほうを向く。
「闘技場周辺に魔獣が現れた際に、軍はなにをしていた。 寝ていたのか? 試合の観戦か? それともまさか、市民とともに逃げ回っていたのではなかろうな」
「せ、戦力を編成して、魔獣の対処に当たろうと……」
「戯け。貴様ら軍の上層部がまごついている間に、大会の選手たちや戦闘職の観客が魔獣の対処に当たっておらねばどれほどの死者が出ていたと思っている。戦力の編成? それにどれほどの時間が必要だというのだ。あの初動の遅さは軍の怠慢、いや腐敗の結果と言っていいだろう」
表情も変えず、ただ呆れたように軍部のお偉方を責めるじい様。
不機嫌そうに肩を竦めつつ、言葉を重ねる。
「で、結局ノコノコやってきた後にしたことと言えば発生源を含む大部分が討伐された魔獣の残党を狩ったくらいであろう? その後に転移してきた魔族どもを相手にしたのも貴様らではなく、そちらの方々というではないか。……情けなさすぎて溜め息も出ぬわ」
「さ、宰相殿! お言葉ですが、あの時に乗り込んできた中に魔族の幹部もいたのですぞ!」
「各地に軍が散らばっている現状では、魔族の幹部を相手にするにはどう考えても戦力不足でした。剣王スパディア殿も出奔してしまっておりますし、対処困難な状況であったことは理解していただきたい」
軍のお偉方
ん、『剣王スパディア』? 誰それ。
アルマパパ以外にも剣王っているのか?
≪情報検索完了。フィリエ王国に長らくその身を置いていた、齢93歳の剣王との記録あり。半年ほど前に行方をくらまし、現在行方不明≫
93歳ぃ? もうそれとっくに戦いから身を退いて安息の日々を送るべきお歳じゃないですかー。
それを戦力扱いするかね普通。老骨に鞭打つ気満々かこの人ら。
≪なお、出奔する前日までアランシアン・アイザワに剣の稽古をつけるほどに健康体であった模様≫
元気すぎやろ。アルマパパとどっちが強いんだろうね……。
「そうかそうか。つまり現状我が王国に残っている総戦力は、幹部を仕留めたそちらの『飛行士』殿一人に劣ると言いたいわけか。いやいやすまぬな、貴様らに期待しすぎた私が馬鹿だった」
「な、なにをおっしゃるかっ!」
「どうせ黒竜殿にお任せすれば、自分たちが戦う必要はないと高を括っておったのであろう。その黒竜殿が動けない時のための軍であろうに、いざそうなればこの有様か」
あのー、そういう身内を責めたてるのは後回しにしていただけませんかね。
てか、軍部の腐敗という国の恥をよくこんな堂々と公開できるなこのじい様。
「そもそも、この仮面が幹部を討伐したというのが信用なりませぬ! 勇者様や滅私弓師殿ですら倒せなかったというのに、このような怪しげな者がどうやって倒したというのです!」
「えーと、見た目が怪しいのは分かるけど、この人アタシよりもずっと強いよ? 一方的に幹部をメタメタに叩きのめすのをアタシはしっかり見ていたし」
「では、いったいどなたなのか教えていただけますかな?」
「そうだ! やましいことがないというのならば、仮面をとって正体を現すべきだ!」
………幹部を討伐した相手にこの態度。
一般市民はともかく、この人たちは一回魔族にやられたほうがいいんじゃないかな。
こちらに詰め寄る軍のお偉方に、コワマスが口を開く。
「申し訳ありませんが、彼の正体は冒険者ギルドにおいても最重要機密であり、この場にて公開することはできません」
「なにが最重要機密だ! この者の正体が信用におけるものなのか証明するだけであろうが!」
「ああ、彼の正体ならアタシも知ってるし、その上で信用できるって言い切れるよー」
「その言葉の根拠は?」
「アタシこれでもSランク冒険者ですけどー? その言葉が信用できないと?」
コワマスに続いてアイナさんまでフォローに回ってきた。
……どうしよう、当事者の俺がなにもしないままでいいのかな。
とか思ってたら再び宰相のじい様がなんか言おうとしてる。
「自分たちの無能ぶりを棚に上げた挙句、国を救った恩人を非難か。……ここらで軍部の清掃でもするべきか?」
「な、なにをおっしゃられるか!」
「この仮面のマッチポンプの可能性すらあり得るのですぞ!? せめてこの者の実力くらいは証明する必要がある!」
……マッチポンプ?
つまり、俺が魔族と共謀してなんやかんやしてるかもしれないと?
ほうほう。
じゃあ証明してやるわ。
目を瞑りまして
気力を眼球に集中しまして
さっきからウダウダ言ってる軍のオッサン方へのイライラを籠めまして
思いっきり目を見開いて、オッサン方を睨みつけ、威嚇する!
目に気力を集中すると、単に視力が上がるだけではなくいわゆる『眼力』、すなわち相手への威圧感も強化されるという謎仕様がある。
これで『こやつ、ただものではない……!』くらいには思ってもらえること請け合いだろう。
「ガボッ!?」
「アバァッ!?」
「ひぃいっ!?」
睨みつけた瞬間、さっきまで喚いていたオッサン方が泡を吹いて倒れた。
その近くに座っていた貴族たちも悲鳴を上げて飛び退いていく。
……あれ?
「ちょ、ストップストップ! 駄目だって!」
「飛行士、落ち着け! やりすぎだ!」
アイナさんとコワマスが慌てて俺を諫める。
……ちょっと気力籠め過ぎたかな。あらら、ズボンと床が汚れちゃってる人も何人かいらっしゃいますね……。
アカン、どうしよう。い、いや、ここで弱気になってそれにつけこまれるとそれこそ厄介な状況になりかねない。
ここは勢いに任せて強気な対応でいこうそうしよう。
「これで、証明できましたかな?」
「……なるほど。幹部を一人で討伐したというのも頷ける」
なるべくドヤ顔っぽい態度を維持してイキっておく。
それを見て宰相が少し顔を歪めつつも、納得したような声を漏らした。
「さて、私はこの方の実力が魔族の幹部を倒すのに充分であると思うのだが、なにか異論は?」
そのまま周りの貴族様やら他の軍のお偉方を見回して意見を求めるじい様。
それに対し、まるでお葬式の如く静まり返る周りの方々。
……うん。反論は無さそうですね。よかったよかった結果オーライーハハハー。
『今の気配は貴様か』
……っ!!
どこからか、重く低い声が響く。
「おい、今は会議中だ。話がさらにややこしくなるから引っ込んでいろ」
『そうはいかん。今の威圧感の主が、お主に危害を加えようものならば大事であろうに』
ラーナイア・ソウマが、声の主をあしらうように口を開く。
少し懐かしさすら覚える魔力の主が、会議室の窓から顔を覗かせているのが見えた。
光沢のある黒い鱗に覆われた、翼の生えたトカゲに似た巨体。
爬虫類のように縦に長い瞳を煌めかせながら、窓の外に佇んでいた。
ブラックドラゴン……!
狩猟祭の最後に見た、黒い影。
それが再び俺たちの前に現れた。
お読みいただきありがとうございます。
>激戦のあとの団欒って感じが良かった。
ずっと戦闘シーンが続いていたのでちょっと箸休め。なお次回から再び荒れる模様。
酒の種類は豊富なようですので、多分作れますね。
>情報と言う意味に置いてはスマホは最強の道具だからな――
なお電波が通っていないので、機能の大半は死んでいる模様。
せいぜい目覚ましやストップウォッチや写真や動画撮影やレシピの確認とか電卓機能とか音楽鑑賞くらいでしょうか。……結構使えるな。
>俺一人じゃ倒すのは難しかった―――
レベルキャップは勇者のみの制限ですからねー。まあキャップが解除された後の勇者も相当ヤバい性能を発揮するようになりますが。
あと鬼先生にご両親ぶつけるのは(アカン)
>なんだか感想返信欄で書かれてた勇者の苦労が次々と――
まだまだ勇者の地獄はこれからですねー。
それを乗り越えた後も魔王を倒すまでは安息は無いという。
>次の先生誰だろう―――
近々明らかになりますのでもうしばらくお待ちを。
ラディア君はひとしきり愚痴ってスッキリしたのか、もう立ち直っていますのでご安心をば。
>アッ、ご両親来ますねこれは←察し
近々登場する予定ですが、さて。




