対 梶川光流③
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今回始めは勇者視点です
「あああぁぁああ!!」
「らぁぁああああ!!」
拳同士がぶつかり合う。
アルマたちが強化してくれたおかげで、能力値はオレのほうが遥かに上。
格闘術スキルの恩恵もあって、身のこなしなんかもこっちが有利。……と、思っていたんだが。
「ちっ……!」
頬に、なにかが掠めていった。
多分、魔力で作った杭状のなにかを身体から突き出してきたんだと思う。
目には見えないが、今のオレならなんとなく感じることができる。
しかし、それでも身体のどこから、いつ突き出してくるかも分からない攻撃に対応するのは至難だ。
だが、その気になれば攻撃を喰らいながらでもゴリ押しで戦うこともできる。
攻撃が当たれば多少痛いが、致命傷には至らない。
やはり、倍近い能力値の差はそう簡単に埋められるものじゃないようだ。あの白魔族と戦っていた時のように。
「うぉらぁっ!!」
「フうぅ……!!」
【次元刃】で胴体を切り裂こうとしたが、即座に避けられてしまった。
くそ、アルマもそうだったがこの人もどこから斬られるか予測できるみたいだ。
なら、直接斬りつけてやる!
「せいっ!!」
「がぁぁア!! ぁァぁァァあッ!!」
「くぅっ……!」
や、ヤベェ、斬りつけても全然怯まねぇ……!
ゴリ押しで攻撃しようにも、向こうはゴリ押しを超えた暴走状態で殴られようが斬られようがまるで気にも留めずに襲い掛かってきやがる。
ていうか、HPは減ってるのに無傷ってのがおかしい。そのせいで全然戦闘能力が落ちねえんだけどこの人!
しかも、なぜか時々こっちの攻撃を見切ったように、すげぇスムーズな動きで攻撃を捌いたりするし。
……もしかして、普段から今のオレに近い実力の相手とやり合ってたりする?
≪称号欄の『鬼神の弟子』っていうのが気になりますねー。……まさかこの人、魔獣かなんかに弟子入りしてたりするんじゃないですか?≫
冗談に聞こえねぇよ。むしろもうこの人が魔獣だよ。
怖いわ強いわ硬いわ怯まないわ訳分からん殺しを混ぜてくるわ、もうやだこの人。
だが徐々にHPも削ることができて、現在残り800を切った。
この調子でいけば、いずれHPを削りきれるだろう。
でも、なんかHPが減るごとにだんだん強くなってないかこの人……?
いや、オレの能力値が弱まっているのか?
≪あー、時間経過で徐々に強化が弱まってるっぽいですねー。それに加えて『終焉災害事前討伐勇士』の称号の影響もあるかと。この称号、HPが一定以下になるとHPが減るごとに能力値が上がっていく効果がありますので≫
まさかの両方だった。
……ヤバくね? このままだとまた向こうの方が能力値が上になって詰むんじゃね?
≪いえ、そうでもないと思いますよー≫
え?
「グガァァァアアあああ!!」
「うおおぉぉおっ!!?」
危なっ! メニューと会話してたらとんでもない速さで突っ込んできやがった。
すんでのところで両腕を掴んで動きを止めたが、能力値に倍近い差があるとは思えないくらい、すげぇ力だ……!
やっぱ、徐々に速く、強くなってやがる! どう考えてもこのままじゃまずいだろ!
「ガァァアああアア!! グぅ、ガッ……!?」
「油断大敵。……てか、凄いねこの技。いつもよりずっと調子がよくて、思った通りに的に当てられるよ」
オレが必死に梶川さんを押さえつけている間に、アイナさんが梶川さんに矢を打ち込んでいた。
近くにアルマたちが疲れ切った様子で座り込んでいる。アイナさんも強化して、気力をほとんど使いきっちまったみたいだな。
「ネオラ君、あとどれくらい射ればいい!?」
「今のをあと1発でも撃ち込めば、HPはゼロになると思います!」
「分かった、そのまま押さえこんでて!」
よし、このまま梶川さんを拘束していればアイナさんがトドメを刺してくれる。
……勢い余って殺しちまわないか心配だけど、大丈夫かな?
「………」
「……?」
動きが、止まった?
いったい、なにを………!?
≪か、可燃性の液体魔力を作ってます! 目には見えないかもしれないですが、このままだとヤバいです!≫
な、なんだとぉ!?
「がぁァあっ!!」
轟音。それと同時にとんでもない衝撃が体中に走っていく。
激痛。大ダメージを受けているのが見なくても分かる。
能力値の差すら無視する超高火力の爆発。梶川さんは魔力で防御してたのか、大してダメージを負っていないようだ。
あまりの衝撃に拘束を維持できず、ぶっ飛ばされてしまった。
身体が動かない。骨や内臓なんかもいくつかやられてるなこりゃ。
「ね、ネオラさん!」
「あ、あんた、いい加減にしなさいよぉっ!!」
レヴィアとオリヴィエが魔法とマスタースキル【グレイブ・ランス】で攻撃をしかけた。
……しかし、魔法は火力が足りないのかほとんど効かず、グレイブ・ランスに至っては当たった槍が折れていく始末。
「うぇっ!? ま、マジ……?」
「き、効かない、みたいです……!」
「がっは……!!」
吐血。体中がバラバラになったんじゃないかってくらい痛い。
多分、この技が白い魔族の大火球を撃ち消したんだろう。能力値を強化されていなかったら、粉々だっただろうな。
「………!」
呆気にとられながらも、アイナさんがすかさず弓矢を射かけるが、全て躱されていく。
やっぱおかしいわこの人。人間の動きしてないもん。
「アア……ル……あああああ!!」
叫びながら、オレにトドメを刺そうと追撃をしかけてきた。
ヤバい、オレがここで死んでも再召喚されるだけだが、ファストトラベルするまでにアルマたちが襲われたら、まずい!
動け、攻撃を防げ! 動きを拘束して、アイナさんの攻撃するチャンスを作れ……!
「ヒカルッ!!」
「ァァァアああああ!!」
!?
アルマが、オレを庇うように、突っ込んでくる梶川さんの前に立ちはだかるのが見えた。
ま、待て! オレは死んでも大丈夫なんだってば! あんなバケモンの攻撃を受けたら……!!
「……はっ……ぁっ……!」
「がぁ……!!」
アルマの胸を、梶川さんの腕が貫いた。
胸と背中から、血が滲んでいく。
「……ヒカル……」
「あああ……!!」
「……これで、おあいこ」
ドスッ と、梶川さんの胴体に、アルマの剣が突き刺さった。
それと同時に、梶川さんの目から怪しい光が薄れていく。
徐々に光が小さくなって、完全に消えていった。
「ヒカ、ル、目、覚めた?」
「あ、あああ、おれ、俺、なに、やって、……アルマっ!!!」
目を見開き、顔を真っ青にしながら叫んでいる。
なにやら小瓶を取り出したのが見えたが、並のポーションじゃ間に合わないだろう。
はやく、神聖職の人に治療してもらわないと……
……あ、ダメだ、いしき、が――――――――――
~~~~~梶川光流視点~~~~~
「飲め、頼む、飲んでくれ!」
「けほっ…!…んっ………!」
「吐き出さないように、慌てないで、ゆっくりとだ」
腕を引き抜き、エリクサーを取り出してアルマに飲ませる。
血を吐きながらも、なんとか飲み込んでくれた。
みるみる胸の傷が塞がっていき、元通り無傷の状態に回復した。
……よかった、治った、治ってくれた……!
俺、なにやってたんだ……!?
なんで、アルマに腕を突き刺してたんだ!?
≪リーグヴェインの所持していた洗脳魔法のスクロールによって洗脳され『なるべく多くの人間を殺すように』と命令を受けて、周囲に攻撃をしかけていた≫
……俺は、誰かを、殺したのか……?
≪否定。アルマティナ、レイナミウレ、勇者ネオライフの三人に怪我を負わせたが、一人も殺すことはなかった≫
そうか………。
でも、俺は、アルマを、殺すところだったんだよな……?
なにやってんだ俺は。
なにやってんだ、俺は……!!
「アルマ、ごめん、ごめん。痛かっただろ、ごめん、ごめんな……」
「ヒカル」
泣きながらひたすら謝っている俺の背中に、アルマが両手をまわしてきた。
「大丈夫、痛くない。私は生きてる。ヒカルは、誰も殺してない」
「でも、でも、俺は……」
「ヒカルが操られていた時、すごく怖かった。ヒカルが怖いんじゃなくて、ヒカルが、私たちのことを分からなくなってしまっているのが、怖くて、怖くて、すごくつらかった」
「アルマ……」
目に涙を浮かべながら、それでも優しい笑みを浮かべながら、アルマが言った。
「おかえり、ヒカル」
……うん。
ごめん。
ありがとう。
「ただいま、アルマ」
「目が覚めたなら、早くネオラも治してあげようね」
「ネオラ! ちゃんと息をして!」
「ネオラさん、起きてください! このままじゃ死んじゃいますよ!」
「別にいいんじゃね? 死んでも再召喚されるだけだし」
「アイナさん! そういう問題じゃありません!」
お、おう。勇者君ボロボロになってるけど、これも俺がやったのか……?
とりあえず治してから土下座かなこれは。
勇者君も本当にごめん………。
お読みいただきありがとうございます。
>正気に戻す過程でアルマさんが新たな境地に目覚めるか?―――
ある意味、『死ぬ寸前』という新たな境地に。
いや別にそれが癖になって新たな性癖に目覚めたとかそういうことでは(ry
>勇者「俺たちの戦いはこれからだ!」
なにその打ち切り臭。
気力操作に関してはメニューちゃんが今後は絶対に使わないように釘を刺す模様。
あんなもん勇者がポンポン使っていたらあっという間に広まりかねないので。
>親子二代に渡って仮面割られとる(笑)―――
書いてる時は意識していませんでしたが、よくよく考えたらそうでしたね。そんなに仮面が嫌いかこのニワトリ親子は。
梶川が周りからオッサン呼ばわりされているのは、この世界基準で成人してから10年経った男性なので、地球で言う中年に当たるからですねー。
元社畜ゆえに、どこか疲れた顔をしているせいでもあるかもしれませんが。
>ネオラ君、近づきすぎるとその人身体中から―――
まさかの火力特化パイルまで使った模様。
頑張った、勇者ちゃん君マジ頑張った。




