第二ラウンド開始
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今回は勇者視点です。
「うぅ……うぁぁ……」
「大丈夫か!? いますぐ回復してやるから死ぬな!」
魔獣と戦っていた冒険者や王国軍の兵士たちがそこら中に倒れている。
あの白い魔族の【爆砕拳】の衝撃に巻き込まれたせいで怪我人多数。すぐに治療してやらないと死にそうな人もいる。
状態のヤバそうな人から回復魔法やポーションで治療しているが、手が足りない!
≪ネオラさん! 後ろから魔族の生き残りが!≫
「分かってるよ! でも手を止めたら死んじまう!」
「ケケッ。なんだコイツ、一人でなんか喚いてやがるぞ」
「弱くとも、せめて仲間を救おうと必死なんだろ。健気だねぇ今代の勇者サマはよぉハハハっ!」
背後からおそらく魔族と思われる下卑た声が聞こえてくる。
普段ならすぐに振り返ってブチ殺しているところだが、いま治療を止めるとこの人は死んでしまうかもしれない。
「こっちを向きなよ勇者サマ。でないと、その怪我人もろとも殺しちまうぞぉ?」
「それともどこまで耐えながら回復できるか試してみるかぁ? まずは後ろから串刺しにするかぁ!!」
ドスッ と刃が肉を貫く鈍い音。
「が、はっ……?」
「お望み通り、後ろから串刺しよ。満足?」
間抜けな声を上げながら誰かが倒れる音と、聞き覚えのある声。
オレが魔族に刺される寸前に、レヴィアが後ろにいる魔族の心臓を貫いたようだ。
「き、貴様ぁっ!! よくも ガヴァァッ!!?」
「レヴィアさんっ!」
「はいはい、トドメよ!」
もう一人の魔族は密かに接近していたオリヴィエの魔法が命中し、硬直した瞬間にレヴィアに頭を貫かれた。
ナイスワーク。グッジョーブ。
「助かった、ありがとう」
「いいのよ。それより、酷い状況ね……」
「ああ。あの白い魔族の攻撃に巻き込まれてみんな吹っ飛ばされちまった。怪我人を治療してるけど手が足りない。レヴィア、ポーションをいくつか渡しておくから怪我してる人に飲ませてやってくれ。オリヴィエは回復魔法で治療を頼む」
「分かりました!」
「……ところで、その白い魔族はいまどこに――」
レヴィアが言葉を発する途中で、爆音が王都に響き渡った。
爆音に遅れて熱風が駆け抜けていく。な、なにが起きた……!?
≪あの白い魔族が上級魔法の【バーニングフレア】を使用したようです! あんなのを喰らったら、たとえ特級職でも無事では済みませんよ!≫
おいおい、あの仮面の人は大丈夫なのか!?
≪わ、分かりません。あの人、どういうわけかステータスも表示できませんし、マップ画面にも映らないので……≫
なんでだよ。……いや、もう大体メニューが使えない原因とあの仮面の正体の予想はついているんだけどさ。
……!!
爆音の響いた方向から、凄まじいプレッシャー。
こっちに、なにかが近付いてきている。アレは、あの白い影は――
「ふむ、随分と生き残りが多い。さすがにあの程度で死に至るほど脆くはないか」
白い魔族、リーグヴェインが、とんでもない速さで目の前まで近付いていた。
目の下に涙状のタトゥーみたいな模様が浮かび上がっている以外は見た目に変化はない。
だが、……だが、先程よりも、さらに強烈な威圧感を覚える。
これが【真魔解放】ってやつの効果か。……ステータスを確認するまでもなく、絶望的な力の差を感じる。
「……さっきの仮面の男は死んだぞ」
「…っ!」
「いや、正直なところ実に厄介な相手であった。真魔解放を発動しなければ、私とて危なかっただろう。人間にしておくには惜しいと思うほどの実力者だったな」
……マジかよ。
あの仮面も相当ヤバそうだったのに、それをあっさり殺せちまうほどこいつは強いのかよ……!
「さて、時間が惜しい。すぐに片付けるとしよう」
白い魔族が、空に手をかざした。
その手の先から、炎の弾が無数に発生していく。
≪上級魔法【フレアレイン】です! あ、あんなのが放たれたら、周辺で倒れている人たちが!≫
「やめろてめぇええっ!!」
白い魔族の首元に次元刃で斬りかかるが、軽く避けられた。
「マスタースキルか。先程の仮面の男ほどの実力者が使っていれば非常に強力な技だろうが、貴公ほどの腕ではな」
「うるせぇ! やめろ! その魔法を今すぐ引っ込めろ! 死ね!」
「【グレイブ・ランス】ッ!!」
「【ブラックボム】ッ!!」
レヴィアとオリヴィエが続けて攻撃を仕掛けたが、どちらも白い魔族に傷一つ負わせることができない。
直撃したにもかかわらず、平然としてやがる……!
「……無様」
まるでゴミでも見るかのような目をしながら、白い魔族が手を降ろすのに合わせて、炎の弾の雨が降り注いだ。
だが、地面に着弾する前に、空中で全ての弾が爆発した。
響く爆音。衝撃と熱風があたりに広がっていくが、ダメージはない。
なにかが、炎の弾に当たっていたのか?
「……やれやれ、まさかここまで悪い状況になるとはね」
聞き慣れた、綺麗な声。
オレにとっては尊敬する相手であるのと同時に何度も殺されたことのある恐怖の対象でもある人。
アイナさんが、少し離れた場所で弓を構えながら苦笑いをしているのが見えた。
「【レインアロー】か。まさか一つ残らず射落とすとは、かなりの手練れのようだな」
「どーも。アンタに褒められても全然嬉しくないけどねー」
「だが、後衛職の弓使いが前に出るとはなんともお粗末なことだな。まさか貴女一人で私に挑むつもりか?」
「なわけねーじゃん。ちっとは考えてからモノ喋りなよ美白君」
アイナさんが挑発気味に人差し指をクイクイ動かすのと同時に、白魔族の近くの瓦礫が弾け飛ぶ。
「むっ!?」
「くらえやぁっ!!」
「死ねぇ!!」
瓦礫の中から、大会上級職の部の優勝・準優勝者のヒュームラッサとガザンギナンドが出てきて、大斧と大剣で挟み撃ちにするように白い魔族を襲った。
処刑台のギロチンさながらの重みと鋭さを兼ね備えた刃の顎。そこらのAランクの魔獣くらいなら容易く仕留められるだろう。
「うむ、意表をついた攻撃だな。連携のタイミングも良い。一つの欠点を除いて、ほぼ完璧と言っていい」
「!?」
「バケモンが……!!」
その巨大な刃を、白い魔族は手で摘んで止めた。
そのまま武器ごと二人を投げ飛ばし、口を開く。
「欠点は、そもそも力が弱すぎることだ。この程度では、話にならぬ」
「がはっ!?」
「ぐあぁぁっ!!」
投げ飛ばした二人に急接近し、追撃に拳を胴体に打ち込んだ。
叫び声とともに血反吐を撒き散らす二人。上級職二人をこんなにあっさり……!
「そして、弓使いのエルフよ。貴女の腕も見事だ。こちらの動きを的確に予測して正確無比に矢を射かけてきたな」
「……」
追撃の拳を打ち込んだ隙をついて、アイナさんが魔族の頭に矢を撃ち込んでいた。
ミスリルの鋼板すら容易くぶち抜く高威力の矢。
さらにスキル技能で貫通力を強化されたその一撃は、まさに必殺。
なのに、魔族の頭に当たった瞬間に砕け散ってしまった。
格闘術スキルの【鉄槌頭突き】で迎撃したのか。
「だが、その弓ではもう射ることは叶うまい」
「……っ!」
アイナさんの構えている弓が、真っ二つに切れている。
まさか、あの状態で魔法を放って弓を破壊したのか……!?
今までの攻防を見て、悟ってしまった。
こいつを倒すために、オレたちに足りないものは技術でも勇気でも連携能力の未熟さでもない。
強さが足りない。
この魔族は強すぎる。今まで見てきたどの人よりも、いやどの魔獣よりもはるかに強い。
いや、違う。……弱すぎるんだ、オレたちが……!
せめて【真魔解放】さえ解除されれば勝ち目はあるのに……!
メニュー! 真魔解放の効果時間はあとどれくらい残っている!?
≪や、約1時間42分です!≫
そんなに長いのかよ……!?
1時間どころか1分すら時間を稼げるか微妙なんだぞ! どうしろってんだ!
「終わりかね? では、そろそろお別れといこうか」
白い魔族が再び天に手を、いや両手をかざす。
その頭上には、直径数十メートルはある巨大な火球。
あれが、さっきの仮面を殺した魔法か……!?
「ごきげんよう、諸君」
両手を振り下ろし、火球をこちらに向かって落下させた。
こんなものが炸裂したら、近くにいる人たちは全員死ぬ!
死に戻りができるオレたち以外、誰も助からない!
迎撃、無理。 逃げる、無理。 魔法が炸裂する前に魔族を倒す、絶対無理。
せめてファストトラベルでアイナさんやヒュームラッサたちだけでも、ダメだ、距離が離れすぎている!
メニュー! 頼む! この状況の打開案を!!
≪む、無理です…。今の我々では、もうどうすることも……!≫
それでも、なにかできることがある、はず、だ、ダメだ、もう……!
大火球が爆ぜて、あたりに衝撃と熱波が広がり、爆音が響き渡った。
「な………に………?」
爆音が聞こえた数秒後、白い魔族の唖然としたような声が聞こえた。
……あれ……? 死に戻りが、発動していない?
てか、誰も死んでない? 確かにあの火球は爆発したはずなのに。
誰かが、迎撃した? 誰が?
「死ね」
「っ!!!?」
先程の爆発音に勝るとも劣らない、とんでもない衝突音。
誰かが白い魔族に殴りかかって、それを防いだのが見えた。
そう、たったそれだけで、これほどの爆音。凄まじい力同士がぶつかった証拠だ
「……貴公……!!」
「第二ラウンドだ。疾く死ね」
「死にぞこないが!」
フードを目深に被り、仮面を着けて顔を隠している男が、魔族の隣に立っていた。
服や装備があちこち焼け焦げているが、その下の身体には傷一つ負っていない。
さっきの魔法をかき消したのは、コイツなのか……?
こいつ、コイツは、なにもんなんだよ……!?
お読みいただきありがとうございます。
>今のままじゃ勝てないなら―――
さて、なにをしたうえで戻ってきたのか。
まあ主人公あまり頭よくないので、思った以上に強引な手を使っているでしょうが。
>ファストトラベルで逃げれたかな――
ファストトラベルが便利すぎて扱いづらい件。
もっと別の機能を優先させるべきだったかなー……。
>これ、ポーションを買いまくればある意味ノーダメージじゃない?―――
お金がかかるのと、飲み過ぎてお腹タプタプになるのが欠点ですね。
なにかツマミでもあれば別でしょうが、戦闘中に食事をする暇なんかないでしょうね。てか吐く。
>なんかカジカワが覚醒物の主人公してる…―――
なお都合のいい覚醒なんかできない模様。オッサン予備軍故致し方なし。
>ファストトラベルで鬼先生の所に引きずりこんだに一票
それやって鬼先生がキレて暴れまわったら近くの工業都市が滅ぶので控えているようです。
>おぉ! むそ...う? あれ?
はい、白魔族無双ですよー。え、そっちじゃないですかそうですか。
>ファストトラベルで逃げただろうし、後は――
溶岩はいつか使う日がくるのでしょうか……。
あと鬼先生頼られすぎてて草。




