決勝戦 勇者vsハイ・パラディン
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今回始めはカジカワ視点です。
あらら、ドンマイレイナ。
負けてしまったのは残念だが、一矢報いただけでも大したもんだ。お疲れー。
「ふぃ~、なんとか勝てたみたいだねー。ここでネオラ君まで負けてたら正直凹んでたよアタシゃ」
「一歩間違えば結果は逆だったかもしれんがな」
「いや残念。胸を突き刺すところまではよく動いていましたが、短剣を奪われた後にちょっと焦ってしまったみたいですね」
「あー、急に強くなったように見えたけど、あれも『直接操作』ってやつなの?」
「ええ」
「一時的にとはいえ勇者のステータスに肉薄するほど強くなれるとは、凄まじい技術だな」
能力値を強化するのは気力の直接操作だけどな。
ロリマスには魔力の直接操作のことしか伝えていないけど、わざわざ訂正するのも面倒だし黙っとこ。
「分かってると思うけど、絶対にあの技を広めちゃダメだからね。各国のパワーバランスやらなにからグチャグチャになって大混乱になるところしか想像できないから」
「対魔族相手の切り札としては有効そうだが、万が一魔族側にその技が広まったりしたら致命的だろうしな」
「分かっていますよ。身内以外には教えるつもりはありません」
よかった、この二人は直接操作に対しては保守的な考えをもってくれているようだ。
もしも逆に使い方を広めるように言われたら即逃亡することを考えなきゃならんところだったな。
「次は勇者とアルマティナの決勝戦か。どちらが勝ってもおかしくはないが、どうなるやら」
「またさっきみたいにアクシデントが起こらなきゃいいけど。天才君がアルマちゃんのおっぱい触った時なんか、隣からどす黒い殺気が出まくってたし……」
「アハハ。まあアルマが自分で報復していたのですぐに収まりましたけどねー」
俺も人のこと言えないけどな。(前科一犯)
下手したら俺も蹴られてたかもなーこわいわー……。
「あと、お前がいきなり大声で怒鳴った時は心臓が飛び出るかと思うほど驚いたぞ」
「カジカワ君って、案外熱血キャラだったりする? いやー意外だなー」
「ゴメンナサイ忘れてくださいホントすみませんでした勘弁してください」
俺の黒歴史に新たな1ページが追加されたことにはもうツッコまんといて!
死んじゃう! 恥ずか死しちゃうから!
んー、それはそれとして、そろそろくるころかもしれないな。勘だけど。
いつきてもいいように、心の中で臨戦態勢に入っておこう。
~~~~~勇者視点~~~~~
「中堅職決勝戦、あらゆる武器・スキル・魔法すら使いこなす勇者、ネオライフ! そして剣と魔法を渾然一体の如く振るうハイ・パラディン、アルマティナ! 両者ともに上級職に引けをとらない実力者であります!! おそらくこの二人の対決は歴史ある我が国の武術大会においても有数の名勝負となることでしょうっ!!」
実況がテンション3割増しぐらいの大声で試合前の口上を叫んでいるが、こちとらそれどころじゃない。
有数の名勝負とかなんとか期待してるみたいだけど、申し訳ないがそうはならないと思う。
メニューと相談した結果、近接戦闘でも遠距離での魔法の打ち合いでもオレが不利という結論に至った。
近接戦闘だと【魔法剣】スキルが厄介すぎて、まともに打ちあえる気がしない。
炎を噴き出したり滅茶苦茶速く剣を振ったり、どないせーっちゅーねん。
遠距離戦も、向こうは複数の攻撃魔法を同時に発動できるマスタースキル【二枚舌】を取得している。
しかもおそらく魔法の威力を強化できるだろうから、数も質も向こうが上。こっちのほうが無理。
……詰んでね? もうアルマが勇者でいいんじゃないかな。髪黒いし。
故に、オレが勝てる見込みがあるとすれば、速攻で切り札を使って一撃で仕留めるくらいしかない。
さっきの試合で【次元刃】を使うんじゃなかったと、ちょっと後悔。
だが次元刃は回避はできないし、防ごうと思って防げるもんじゃない。
速攻で使えば、勝てる見込みは充分ある。
「よろしく、ネオラ」
「あ、ああ。よろしくな、アルマ」
思考を巡らせているうちに、先に開始前の礼をされて慌ててこちらも礼を返す。
……やっぱ可愛いなーこの子。先約がなければ絶対にパーティに入ってもらうのに……。
「では、決勝戦、開始ぃぃいい!!!」
デカい声で試合開始を告げる審判。うるせぇな。
始まった直後に手筈通り次元刃を発動し、アルマの首元を狙って攻撃!
……こんな美少女の首狙って攻撃するとか、我ながら完全に悪役やないの。
向こうも剣を構えていたが、先にこちらが剣を振るえた。
これで、オレの勝ち――
キンッ! と金属音。
「……いきなり首を狙ってきた。危ない」
アルマが、首元を狙った次元刃を、剣で防いだようだ。
ま、マジかよ…! どうして首を狙うのが分かったんだ……!?
まずい、初撃が防がれた。なら、次元刃を連続で発動して多角的に斬りまくる!
次元刃は強力なスキルだが、一回発動するのに魔力を5%消費する。
使用可能なのは最大で20回。実際に使えるのは10~15回くらいか。
大会じゃ魔力の補給ができないから無駄打ちは禁物だが、もうそんなこと言ってられん!
足元や腕に胴体、剣を振るモーションから予測ができないように斬る角度なんかを変えつつ連続攻撃!
予測できるもんならやってみろ!
次元刃を振るうたびに、金属音がリングに響く。
前後上下左右問わずいきなり発生する斬撃を、アルマは一度もミスを許さず全て防ぎきってみせた。
お、おいおい! これ、オレの切り札なんですけど! 当たり前のように全部防ぐとかこの子バケモンか!? てかなんでどっから斬るのか分かるんだよ!
「厄介な技。……魔力感知が使えなかったら防ぐのは無理だったかも」
「くっ……!」
やばい、今ので4割近く魔力を無駄にした。
これ以上次元刃を使っても、同じように防がれるだけだ! なんとか隙をつくってから機会を見て首元を……。
……?
次元刃を防ぎきったアルマが、なんか変な方向を見ている。
観客席にいる誰かか? いや、リングの上のどこかを凝視しているのか?
「……どうした、試合の最中によそ見するなんて随分余裕だな」
こちらに関心を向けていない様子のアルマに、ちょっとイラっときて思わず低い声で話しかけてしまった。
それに対し、こちらを向きながらアルマが口を開いた。
「ネオラ、試合は中止」
「……は?」
「メニューに聞いて、どうするべきか判断して」
そう言った直後、アルマが凝視していたところから、魔法陣のような光る模様が浮かび上がってきた。
え、ちょ、な、なんだこれ……!?
≪て、転移魔法の術式です! なにか、来ます!≫
『………ハルル……グルルル…………!』
光る模様の中から現れたのは、巨大な熊。いや熊型の魔獣か。
高さは8mくらい、いや、直立すれば20mは楽に超えるなこりゃ。デカすぎだろ。
Lv73 ギガント・フォレストベア とメニューには表示されている。
「な、なんだあのデカブツは……!?」
「大会の演出じゃねぇのか?」
「決勝戦の最中に、あんなもん乱入させるか……?」
「た、大変ですっ!! 突如リングに強力な魔獣が現れましたっ!! これは演出ではありません!! 皆様、避難をっ!!」
審判が会場中に大声で警告を叫ぶ。
その余裕のない必死の声から、これは予想外の事態なのだと観客たちも気付いたようで、パニックになりながら悲鳴を上げて逃げていく。
おいおい、おいおいおい…!
いきなりなんだよ、なにが起きたんだよ!?
≪な、何者かが、リングの上に長距離転移魔法で魔獣を放ったようです!≫
見りゃ分かるよそんなこと!
誰がこんなことやりやがったんだ!?
≪さっきの転移魔法の使用者の解析が完了しました! 使用者は……魔族です!!≫
魔族か……! 実際に敵対したことは無いけど、こんなもんを乱入させてくるあたりやっぱロクでもない奴らみたいだな!
なんて間の悪い連中だクソが! だが、リングの上なら蘇生の術式が……
≪いえ、魔獣が発生したのと同時に蘇生の術式が機能不全に陥っています! 今、死んでも蘇生はできませんっ!!≫
な、なんだって……!!
それじゃ、死に戻りができるオレはともかく、アルマは……!
「逃げろアルマっ! もう蘇生はできないらしい! 今死んだらホントに死ぬぞっ!!」
「っ! 分かった……!」
さて、どうするか。
とりあえず、リングの外までアルマを避難させないとな。
それまでコイツを抑え込めるか……!?
≪だ、ダメです! リングを覆う結界が解除されていません! 結界を発生させる魔具を扱う職員が、真っ先に逃げてしまったようです!!≫
なんだって!? くっそ、その職員、後でぶっ飛ばしてやる!
てか、ヤバい! アルマのほうへあの熊が……!!
『グギャジャァァァアアアアアアッッ!!!』
「……っ!!」
「うぉらぁぁぁあああッ!!!」
アルマを爪で引き裂こうとするデカ熊の攻撃を、盾術の技能で辛うじて防ぐ。
どうする、どうすればいい! このままじゃアルマがこの熊に殺される!
コイツを倒す? どうやって?
修業の際にコイツと同格のシャイニングタイガーを倒せたのは、万全の状態でなおかつ仲間が魔獣を弱らせてくれたからだ。
特にアイナさんの支援がなけりゃ絶対勝てなかった。Sランクの魔獣を倒すには、Sランクの仲間がいないと至難だ。
魔力が半分近く減った状態じゃ、使える技能にも限りがある。
アイテム画面から魔力回復ポーションを……!?
『ギャガァァアアア!!!』
もう片方の手を、盾を構えて動けないオレに向かって振り回してきた。
あ、ヤバい、デカいくせになんて速さっ―――
~~~~~アイザワ君視点~~~~~
「クソが!! クソがクソがぁぁああ!! なんで破れねぇんだよクソがっ!!」
リングを覆う結界を力任せにぶち破ろうとするが、傷一つ付かねぇ!
このままじゃ、アルマがあの熊野郎に殺されちまう! あのオカマはアルマを庇ってぶっ飛ばされちまった衝撃で気を失いやがった!
結界を発生させてる魔具を壊そうにもどこにあるか分かんねぇ!
結界そのものは硬すぎて歯が立たねぇ!
死ぬな! 死ぬな、死ぬなアルマ!!
『ガギャジャグァァアアッ!!!』
アルマを圧し潰そうと、熊がそのデカい図体を突進させたのが見える。
やめろっ! やめろ、やめろっ!!
そいつはてめぇなんかが殺していい奴じゃねぇぞクソ野郎!!
くそ、もう、間に合わねぇ……!!
そう思って諦めた時に、
「ヒカルッ!!!」
アルマが誰かの名前を叫んだのと同時に、ガシャンッ とガラスが割れるような音とともに、熊野郎の近くの結界が破られたのが見えた。
「死ぃぃぃぃぃいいいいねぇぇぇぇぇぇええええええっっ!!!!」
『ぎ、ギャァァァァァアアアアアアアッッッ!!!? ガビャガバッ!!!!』
破られた結界の穴から、準決勝の時に怒鳴り声を上げた黒髪のオッサンが鬼みてぇな形相でリングの中に入って、熊野郎の頭をぶん殴ったのが見えた。
殴られた熊の頭が粉々に砕けて、残った身体がリングに倒れた。
……何が起きたのか、頭の中で理解することができなかった。
なんだ、あの、オッサンは……!?
いや、マジで、なんだあのオッサン!?
お読みいただきありがとうございます。
>あーレイナちゃん惜しかったなあ…―――
SUGOI DEKAI 後輩のアイデンティティはやっぱあのたわわな(ry
……レイナは胸の小さい宇〇ちゃんだった……?
>まぁ何をやってたかは、当たり前のように教えては貰えないだろうねぇー――
教えれば格段に魔王討伐が楽になるでしょうけども、リスクが高すぎますからね。
まあそれ抜きでもチート級に強いからさほど不便ではないでしょうが。
>短剣泥棒さんになるなんて…
あ、書かれていませんが、試合終了後にちゃんと返却していますのでご安心を。
>いやー流石に勇者ちゃんが直接操作使えるようになったら――――
そのうえでレベルが上がったら、多分誰も勝てなくなるでしょうね。
それに加えて死に戻りも使えるとなるともうチートというか軽くバグ。
主人公は次回からやらかす予定。しばしお待ちを。
>おい、この勇者他人の家を漁るが如く平然とレイナの短剣をパクったまんまでいやがるんだが?
書かれていませんがちゃんと返却(ry
なお、過去の勇者の中にネタで他人のタンスの中あさって捕まったアホもいる模様。
やっぱ勇者ロクでもねぇ!




