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奪って捨てて裏切って

新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。


今回は緑髪少年ことラディアスタ視点です。



「て、めぇ、イカレて、やがんのかっ………! ガッ……はっ……!」


「ゴフッ…! ……こうでも、しなきゃ、勝ち目が見えねぇ、から、な……!」



血を口と胴体から吐き出しながら、辛うじて言葉を交わす。

……なにやってんだろ、おれ。









第十試合。相手は、豪槍戦士のバレドライ。

ダイジェルのスタンピードで一緒に戦って以来だな。向こうはおれのことなんざ覚えちゃいないだろうけど。


槍と短剣。一撃の重さとリーチは圧倒的に向こうが上。武器を振るう速さはこっちが上。

近距離から中距離は相手の間合い。槍を封じて短剣の持ち味を活かすには、とにかく密着することを考えなくてはいけない。



でも、そんな簡単に短剣のリーチまで踏み込めるかというと、無理だ。

だって、相手もそんなことは百も承知だしな。距離を詰めようと近付けばその分退いて、槍の有効な距離を維持しようとする。


伸魔刃? 魔刃遠当て? 相手も同じ技能が使える。牽制には使えるだろうが、決め手に欠ける。

おれがまともに使えるのは短剣術と体術ぐらいしかない。それすらどちらもまだLv9だから、マスタースキルなんざ使えない。



……普通なら、どう考えてもおれが不利。

こっちの攻撃は届かないのに向こうの攻撃は余裕で届く。

たとえ全力を尽くしても、勝てる見込みは低い。普通に戦っていたのなら。



だから



「うああああぁああああああっ!!!」



叫ぶ。ダイジェルのスタンピードに突っ込んでいった時のように、喉が潰れそうになるほどの鬨の声を上げて、突き進む。

相手のバレドライからしたら、勝ち目が見えなくて自棄になって捨て身の特攻を仕掛けてきたように見えるんだろうな。



突っ込んできたおれに向かって伸魔刃を発動し、魔力の刃を伸ばして胴体を串刺しにしようとしてきた。

それを左手の掌で受けて、あえて貫かせてから無理やり軌道を変える。



「うぎぃぎぎぃぃいい!!!!!」


「っ! おいおい、身体張るにもほどがあんだろ!?」



バレドライが呆れ交じりに言葉を投げかけてきてるが、どうでもいい。

ヤツの武器の軌道は逸れた。すぐに急接近して懐に潜り込めば……っ!



その時、左手を貫いているはずの刃の感触が消えた。



「えっ……?」


「一回戦といい、その根性は認める」



伸魔刃を解除し、槍を構え直しているのが見えた。

後ろに退いて距離をとるのと同時に、おれの腹に槍先を向けて……っ



「だが、惜しかったな」


「あ……がっ……」


腹部に、猛烈な激痛と衝撃。

再び伸魔刃を発動して、今度こそおれの胴体を貫いた。

このままだったら、あと数秒でおれの生命力は尽きて、負けるだろう。








読み通りだ。




「はっ……! あっ…あああああ……!! うわがぁああああっ!!!」


「なっ、お、お前っ……!!?」




胴体に伸魔刃が刺さったまま、クイックステップを発動。

伸びた魔力の刃を伝って、バレドの持っている本物の槍まで身体を貫かせた。

これでもう伸魔刃を解除しても、再び槍を使って攻撃することはできない!


相手の武器を封じながら、懐に潜り込めた。

ここなら、おれの間合いだっ!



魔刃・疾風を使って素早く胸を短剣で突き刺し、伸魔刃で貫くっ!!




「グバッ……がっ……!!……て、て、めぇ、イカレて、やがんのかっ………! ガッ……はっ……!」


「ゴフッ…! ……こうでも、しなきゃ、勝ち目が見えねぇ、から、な……!」




槍と短剣が、互いの胴体を貫いている。

…ひっでぇ状況だなぁ。なんで、ここまでしようと思ったんだか自分でも、もう分かんねぇよ。






おれがこの大会に出場したのは、この王国のお偉方におれの実力を見てもらうためだ。

この国の軍に入って、功績を上げて、偉くなって、それで、……それでアイツを、兄貴を見返してやるために。


兄貴は、おれが言うのもなんだけどバカだった。

それも根拠のない自信から周りの意見をまるで聞かずに突っ走るタイプの、自己中バカ。


自分は決して自分のものを他人に分け与えようとしないくせに、他人のものには目ざとく見ていて欲しがろうとする。

他人の(というかおもにおれや弟の)メシやおやつに小遣い、果ては家の金にまで手を出す始末。

なんでこんなヤツがおれの兄なんだって、思わなかった日はないくらいだった。


兄貴が成人した日、冒険者としてやっていくと置手紙を残して家の貯蓄の金の大部分と一緒にいなくなっていた。

許しもなく、勝手に人のものを持っていく自分本位の考え方。反吐が出る。

あまりにも自分勝手な所業と手紙を見てから、いつか耳引っ張りながらでも帰省させて父ちゃんと母ちゃんに謝らせてやると思った。




兄貴が出ていってから3年ほど経ったある日、兄貴から手紙が届いた。

手紙には、冒険者を辞めてフィリエ王国の軍に入ったと書いてあった。

収入が安定しないうえに危険な目に遭うのが日常の冒険者は向いてないから、もっと安全に稼げる求人を見かけて入ったとかなんとか。

その支度金の催促も書いてあったが、もうコイツを助けようとは誰も思わなかったから無視した。


それまで一緒にパーティを組んでいた人たちからはひどく非難されたと書き殴っていたが、兄貴の性格上、おそらく相談も無く急に「この仕事危険で嫌だし、パーティやめるわ」って言ったりしたんだと思う。

自分の都合で他のメンバーに迷惑かけて、成人してもなにも変わっていない兄貴には呆れるしかなかった。



だから、アイツよりも偉く、強い立場と実力を身につけて、これまで人に迷惑かけた分思いっきり怒鳴ってやってから家まで連れ戻してやるって決めたんだ。

親兄弟からは「もうほっとけ」って諦めたように言われたし、おれもそうしたほうが賢いとは思う。


でも、それでもアイツはおれの兄貴だから。あんなクソバカでも、おれの家族だから。

アイツを放っといたまま生きていっても、心のどこかでひっかかるモノが残ってしまうから。


これはアイツのためなんかじゃない。おれが心置きなく前に進むための目標だ。

……結局、おれも自分のためなんだよな。兄貴のこと言えた義理じゃない、な―――











気が付くと、リングの外へおれは立っていた。

ああ、死んだのか。で、蘇生されてリングから退場させられたと。

あんな無茶したのに、結局負けちまったのか。……すげぇ悔しい。



「ラディアスタ選手、バレドライ選手、同時に死亡および蘇生を確認! この勝負、引き分け!! 残念ながら、両者ともに脱落となります!!」



……あ、向こうも同時に死んだのか。

してやったり、って思うのと同時に、おれがあんな自殺紛いの特攻をしなけりゃバレドライだけでも先に進めただろうに、その邪魔をしたみたいで申し訳ないとも思いそうになる。

……いや、全力でやった結果だ。あとからそんなウジウジしたこと思ってたら、むしろそのほうが失礼だろう。

あ、バレドライがリングの向こうから手ぇ振ってる。……おれのことを恨んだりはしてないみたいだな。




はぁ、一回戦を勝てただけでも上等とみるべきか、その次で脱落したことを残念に思うべきか。

……おれがどう思っても、この国のお偉方が試合を見てどう思ったかが重要だし、今更悩んでも仕方ないか。



控室に戻ると、アランシアンとかいう黒髪のニイちゃんがおれのほうを見ながら口を開いた。



「雑魚にしちゃあ、まあ及第点か。少なくともウチの国のボンクラ軍人どもよりはマシだったぞ」


「……そりゃどーも」


「拗ねんなよ。俺がこうやって話しかけてやってるだけでも相当評価してやってる証拠なんだぜ?」



……雑魚かぁ。言い方がムカつくけど、実際その通りだろうな。

こいつの試合を見てたけど、おれがどう攻めても勝てる気がしなかったしな。

この国の軍人よかマシってことは、軍に入れる見込みもゼロじゃないってことかな。いやタダのお世辞かもしれないけど。




「そういえば数年前に、お前によく似た緑髪の野郎が軍に入ってたな」


「……え?」


「普通なら雑魚が何匹入ろうとどうでもいいが、あの野郎は別だ。悪い意味でな」



……それって、もしかしなくても、アイツか……?

てか、なんで一兵卒のはずのアイツのことなんか、コイツが覚えてるんだ?



「……悪い意味って、そいつ、今どうしてるんだ?」


「ん? ああ、アイツなら裏切って、いま指名手配されてるぞ」


「はぁ!? う、裏切って、って、この国をか?」



アイツ……! 今度はこの国の軍まで捨ててどっか行きやがったのか!?

それを追ってこんなトコまで来たおれがバカみてぇじゃねぇか!



「この国を、でもあるな。実際それどころじゃねぇが」


「……どういうことだ?」




「あのクソ野郎は、魔族との交戦の際に殺されそうになって、軍の機密情報を魔族に流す代わりに命乞いをしたらしい。甚大な被害を残していった挙句そのまま魔族側についたのさ。軍のバカどもも見る目がねぇよな。あんなクズを軍に加入させるか普通?」




アランシアンの話に、思わず眩暈がした。

……やっぱり、放っておけば、よかったんだ。




お読みいただきありがとうございます。



>んー?隠しボスクラスのご両親…?――


その通り。勇者じゃないと魔王を倒せないなんてルールはありません。

ただし、勇者の次の職業の固有技能がなければ魔王を倒すのは至難だったり。それこそアルマの両親でも。


>もうこの勇者は、高性能すぎて――


なぜゴスロリ。……たまに女物の服屋で着せ替え人形にされるくらいで勘弁してあげて。


>カジカワさんのメニューと勇者のメニューって機能違うの?――


現状では一緒です。

装備変更はアイテム画面とともに解禁されていますが、そもそも装備を変える必要がないカジカワは使わないだけであって、決して説明する描写を書き忘れたわけではゴメンナサイ書いてませんでしたorz


>素早く動く砲台も強かったですが、――


相性からくる不利有利。それをどう活かすか、あるいは克服するかを描写するのが楽しみだったり。

……まあ筆者の執筆力では今回みたいに血みどろの戦いでしか表現できないのですが(;´Д`)

……ラディア君、なんでこんな無茶無謀な戦い方させるようになったんだろね……?


>勇者は男か、女か――


だが男だ。だが男だ。大事なことなので(ry

……新たな自分に目覚めない限り、多分ずっと性別と外見のギャップで悩み続けるんだろうなぁ。


>『狩猟後の晩御飯』でかき氷を試食してもらおうとしたみたいだけど、ラディア君が初見の反応してる


(;´Д`)あがががががが……!!

即修正させていただきました。ありがとうございますorz

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] ラディアニキ、清々しい程に屑で草 周りの人間を片っ端から振り回した挙句に人類の敵に寝返るとかある意味で中々できるもんじゃねぇよ さて、ラディア君の修羅道はどうなるやら
[良い点] ラディアスタ君が目的を達成するハードルが一気に上がった。 今後の展開に時々目が離せない(勇者回より露出が少ないため)。
[一言] うーん緑髪君、もしこのまま普通に軍に入れたとしても上司に捨て駒扱いですぐ死んでそう。 兄貴は数段飛び越えたド屑でしたね、、緊急時だけ家族だろ!助けろよタイプ。 対魔族の隊があったけどそちら…
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