勇者の試合
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今回始めは主人公視点です。
うむ。オリヴィエっていう大賢者っ子とレイナの戦いは、見事レイナの勝利で終わった。
オリヴィエもよく頑張った。最初の試合で脱落するのが惜しいほどに。
クイックステップを上手く使って一定以上の距離を保ちつつ、攻撃魔法を遠距離から連続で放って大技を当てるチャンスを作ろうと立ち回っていた。
オリヴィエは常に動き回っているから、レイナが距離を詰めるのは容易じゃない。
強力な魔法に、前衛職さながらの機動力。並の戦闘職なら、前衛がいない彼女ですら勝つのは簡単にはいかないだろう。
しかし、レイナも並の戦闘職ではない。
攻撃魔法を放つオリヴィエに向かって、巨大化させた手裏剣を投げつけて魔法をかき消しつつ反撃。
急に現れた巨大な投擲物に困惑しつつも辛うじて回避したが、レイナのほうへ向き直るとそこには誰もいない。
混乱した様子でしばらく辺りを見回していたが、手裏剣と逆方向を確認したところで手裏剣の影の中からレイナが出てきて、オリヴィエの背後から首元に短剣を突きつけた。
投げた手裏剣の影に【影潜り】で入りこみ、オリヴィエの視界が手裏剣から完全に逸れるまで機会を窺い、一気に距離を詰めたというわけだ。
完全に詰んだ状況になり、オリヴィエが敗北宣言をして決着。
互いにハイレベルで、かつ傷一つつかない勝負なんてのもあるんだな。
「なにあれ、反則じゃないのあんなの?」
「【影潜り】っていう忍術スキル技能の一種ですよ。影の中に実体を潜り込ませて気配を絶つ技能です」
「実体を潜り込ませる、ということは影に入ってる者に攻撃することは?」
「ほぼ不可能ですね」
レイナが入りこんだ影を光で照らせば強制的に実体化させることができるが、教える義理はないので黙っておく。
勇者もメニューが使えるから、対戦になったら即バレるだろうけど。
「やっぱ反則技じゃん。……意地でもネオラ君の仲間に加えさせておくんだったかなー」
「あはは、その時は私がお相手させていただきますが」
「冗談だよ冗談ー。お願いだから笑顔で威圧するのやめてーこわいー……」
おちゃらけながら言ってるが、内心本気でレイナやアルマを狙っているかもしれない。
油断してると、いつの間にか拉致されてたなんてことになりかねないな。注意しておこう。
「ラウナクェスとレヴィアリアだったか、あの二人の攻防もなかなか見ものではあったな」
「ですね。ラウナクェスは基礎がしっかりしていて堅実な剣の型。レヴィアリアは……なんというか、対応の難しい戦い方をしていましたね」
「槍を地面に突き刺してからポールダンスみたいに踊るように蹴ったり、遠当てを放ってから槍を投げて、さらにクイックステップで突進する多段同時攻撃とかな。見てる分には面白いが、戦う相手にとっては予測ができない嫌な戦い方だろうな」
「んふふ、集団相手に戦う訓練ばっかやらせてたからねー。多角的な攻撃に対応するために、柔軟な発想を育み独得のテクを駆使するようになった結果、あんなわけ分からん殺し戦法が誕生してしまいましたとさ」
「集団相手に戦う訓練というと、多人数相手の組手みたいなものですか?」
「大体そのイメージで合ってるね。まー、相手は魔獣だし、何度か喰われてたけど」
「鬼畜か」
なにそれこわい。
死に戻りの恩恵があるとはいえ、自分が喰われるなんて体験を何度もしてたら心のほうが先にぶっ壊れるんじゃないか?
俺の修業って優しかったんだなー。……いや、格上魔獣の集団相手でも問題なく捌けるうちの子たちがおかしいだけか。
「……で、そのレヴィアちゃんの次の相手がアルマちゃんなんだけど、正直無理じゃね? なにアレ速すぎるんですけど」
「相手の後ろまで凄まじい速さで移動するのと同時に首を斬りつけていたようだったが、【縮地】だけであの速さはおかしい。他になにかしているのか?」
「複数のスキルを組み合わせているとだけ言っておきます」
「もったいぶるねー」
「はは、仲間の手の内をほいほいと晒すような真似はしませんよ」
マスタースキルとは違う、アルマだけの必殺技だ。そう簡単に教えてたまっかい。
前はクイックステップ、暴風剣、気力操作、魔刃・疾風を組み合わせていたが、今のは縮地、暴風剣、気功纏、魔刃・疾風を使っていたな。
……予選でも魔力・気力の直接操作を使っていなかったが、フェアじゃないから使用を控えているのかな?
レイナなんかバンバン使ってるのに、随分と生真面目なこと。
「同時進行で戦っていたアイザワも、天才と呼ばれるのに相応しい実に鮮やかな勝ち方だったな」
「きれーな剣だったねー。無駄のない動きで軽くいなして、スパッと一閃。……仮にアルマちゃんに勝てたとしても、今度はあの子と戦わないといけないのかー。レヴィアちゃんくじ運ないねー」
まあ、多分勝つのはアルマだろうけどな。
アイザワ君とアルマの試合は楽しみではあるが、アルマが魔力や気力を使わず危なくなったりしたらちょーっぴり喝を入れてでも本気を出させてさっさと勝ってもらおう。
でないと万が一負けたりした時になにされるか分からんし。
お、次は勇者君の試合か。ステータス的に結果は見えている気もするが、どうかな。
さっきのラディア君みたいに、死に物狂いで逆転の奇策でもあれば話は別だが。
にしても、ラディア君もかなり無茶な戦法をとってたな。
治してもらえると分かっていたとはいえ、自分の腕を斬り落とすなんて並大抵の覚悟じゃできないだろう。相手の脚斬れよって気もしたが。
なにが彼をあそこまでさせているのか。怖いわー若さゆえの思い切りのよさ怖いわー。
~~~~~勇者視点~~~~~
対戦相手は豪槍戦士の『ヴィノウマック』っていう筋肉モリモリ、マッチョマンのオッサンだった。
……予選でぶっ飛ばした雑魚とは格が違うなこりゃ。Lv40台後半だし、普通なら優勝候補の一角なんだろうけどな。
「がはは!! よろしくな嬢ちゃん!!」
「……オレは男だっつの」
「分かってる分かってる! 女だからって手加減したりしねぇよ! がはははは!!」
「分かってねぇだろ!!」
……もはや性別を間違われて、それにツッコミ入れるのが持ちネタみたいになってきたな。
もういっそのこと丸坊主にでもしたら、男らしいって認められるのかな……。
≪ダメです! 絶対ダメです! もったいない!!≫
なにがだよ! 同じことを言った時にレヴィアやオリヴィエ、アイナさんにまで猛反対されたけど、お前らそんなに人が女に間違われるのが面白いのか?
その時にレヴィアに向かって『レヴィアの立場で言うと、男らしくてかっこいいって言われるようなもんだぞ』って言ったら、キレたレヴィアに殴り飛ばされて結局うやむやになったけどな。……もういいや。
「皆様方、お待たせいたしました! ただいまより、中堅職の部第九試合を始めます!」
やっとか。もう脳内でメニューと会話するのもちょっとうんざりしてきたところだし、さっさと始めてくれ。
「見れば分かる怪力無双、豪槍戦士ヴィノウマック選手!! そして今代の希望の象徴、勇者ネオライフ選手っ!! 勝つのはどちらだ!!」
おい、今までそんな口上なかっただろうが! なんでオレの試合の時だけ余計なこと言ってんだ!
ああもう、勇者って大声で言ってから観客席が変なざわつきかたしてるし。勇者って職業なだけで、オレ自身は全然立派な人間なんかじゃないんだけどなぁ……。
「ゆ、勇者だって!? あんな女の子が?」
「強くて可愛いとか最高かよ」
「アンタらなに言ってんの、アレは男の子よ?」
「はぁ? 目ぇ腐ってんのか、どう見ても女の子だろうが!」
「あんな可愛い子が男のはずがない!」
「あんな可愛い子が女のはずないでしょうが!」
勇者云々よりオレの性別についての議論で盛り上がってないかコレ!?
意味分からんこと言いだしてる奴もちらほらいるし、なんかすごく嫌な目立ち方してるような……。
「勇者様、なにかひと言――」
「早ク始メロ」
「ひいぃっ!!? で、では、試合開始ぃぃい!!!」
不機嫌になりすぎて、つい怒りの表情で睨みながら試合の開始を催促してしまった。
でも元はといえば余計なことを言ったこの審判が悪い。よってこれは八つ当たりではない。
「ぬぉりゃぁあ!!」
「おらぁぁあっ!!」
まずは槍同士のぶつかり合いから。
一番得意な武器は剣だが、槍使いとして格上の人相手に実戦形式で学ばせてもらうためにも、ここは槍を使ってみよう。
鍔迫り合いならぬ槍の持ち手の押し付け合い。相手は筋肉の塊みたいな身体をしているが、能力値の関係上オレの細腕でも充分に対抗できる。
「うおぉ……!? お、お嬢ちゃん、すげぇ力だな……!!」
いや、むしろオレが有利のようだ。
体重や筋肉の量だけを見ると相手のほうが圧倒的に強そうなのにな。
やっぱ能力値って物理法則を無視してる部分があるよな。今更だけど。
「があぁぁああ!!」
「っ!」
このままじゃ押し切られると判断したのか、気功纏を使い能力値を強化したうえで【魔刃・疾風】を使って一気に押し返してきた。
さすがにこれは受けきれないな。素のままだったらだけど。
「はっ!」
「うおおおぉぉおお!!?」
オレも同じく気功纏と魔刃・疾風を使って押し切り、数メートルばかしヴィノウマックの身体を吹っ飛ばした。
「は、はは、がっははは!! 華奢なナリしてなんて力だ!! お前さん、見た目によらず相当鍛えてんな!」
「おう、何度も死ぬ目に遭ったぜ」
なお直喩。死亡回数? もう覚えてないし数えてないです。
「だが、槍の使い方はちとお粗末だな。いくら筋力で勝っていたとしても、それじゃあ俺には勝てねえぞぉ!!」
「言ってろ!」
単純な力勝負じゃ不利だと判断したのか、槍を振り回して打ち合いにもっていこうとしているようだ。
……スキルレベルも高いだけあって、やっぱ巧いな。ヴィノウマックが言うように、槍での勝負は不利か。
このままじゃ、槍の使い方を学ぶどころか下手したらミスって負ける。
あ、やべっ、槍が弾かれて無防備に――
「そこだっ!!」
ガラ空きになった胴に向かって、ヴィノウマックの槍先が迫る。
……槍での勝負はオレの負けか、悔しいなぁ。
メニュー、装備変更!
≪りょ!≫
胴体の部分に亀型の魔獣の素材から作った盾を装備し、槍の一撃を防いだ。
「な、盾だと!? いったい、どこから……」
ちょっと卑怯に見えるかもしれないが、ここからは勇者の特権を存分に使わせてもらおう。
まずは、剣!
「せいりゃああぁああ!!」
「うおおおぉぉおっ!!」
不得意な槍とは違う、最も得意な剣で剣戟を繰り広げる。
こうなると、スキルレベルの差はほぼなくなり、純粋な能力値がものを言う。
ヴィノウマックの身体に防ぎ損ねた斬撃が襲い、徐々に傷だらけになっていく。
「が、がは、はっ…! まいったな、力でも技でもダメとなりゃ、もうアレしかねぇな……!」
そう言いながら、ヴィノウマックがクイックステップで距離をとった。
そして、槍を右手に握り、投げる構えで振りかぶった。
ここにきて、投擲? ……いや、ただの投擲じゃなさそうだ。
≪あー、多分槍術マスタースキル【小判鮫の槍】を使う気ですね。投げた槍が標的に当たるまでどこまでも追いかけてくるというかなり厄介な技です≫
その程度なら盾で防げばよくね?
≪そのマスタースキルに加えて、槍術の【魔刃】と貫通力を強化する投擲スキルの【魔貫弾】を使う気のようです。さっきの盾じゃ防ぐの無理でしょうね≫
そうかー。槍一本でもスキルの組み合わせ次第でなかなか強力な一撃を出せるみたいだな。今後の参考にしよう。
メニュー、二つ、いや三つくらい組み合わせれば、いけるか?
≪余裕でしょうね≫
なら、いつでもこい!
「いくぞぉっ! どぅりぃゃぁああああっ!!!」
渾身の力と組み合わせたスキル技能を付与した、マスタースキルの一撃。
かわすことも防ぐこともできない、本来なら必殺の一撃だろうな。
剣と槍と短剣を取り出し両手で一束にして掴み、まるでバッターのように構えた。
では、ネオラ打者、打ちます!
剣術と槍術と短剣術、それぞれのスキルの【魔刃・疾風】を同時発動!
なんとも単純で頭の悪い使い方だが、武器三つ分の魔刃・疾風を同時に使用した結果、こっちに向かって投げられた槍をアホみたいな速さで打ち返し、迎撃することができた。
弾かれた槍は粉々に砕け、もう使うことはできないだろう。……後で弁償しよう。
「……がぁーっはっはっは!!! お見事! 俺の最強の一撃をあっさりぶっ壊しちまいやがって! おい、審判! 負けだ負け! 俺の負けだぁ!!」
「もう終わりか?」
「おう。あいにく、あれ以上の技なんざ俺にはねぇのよ。悔しいが、お前さんの勝ちだ!」
見た目の脳筋ぶりから、てっきり素手になっても殴りかかってくるかと思ったが、潔く負けを認めたな。
ちょっと物足りない気もするが、まあ結果は見えてるしこれはこれでいいか。
「ヴィノウマック選手、降参を宣言! 第九試合は、ネオライフ選手の勝利ですっ!!」
審判が勝敗を宣言し、観客からは拍手と声援が送られてきた。
それと同時に、ヴィノウマックから握手を求められたので握っておく。
「俺をこんな簡単に倒しちまったんだ、お前さんなら優勝できるって信じてるぜ、お嬢ちゃん!」
「誰がお嬢ちゃんだ! いい加減にしろこの脳筋野郎!!」
仕返しに握手を思いっきり強くしながら、オレ氏、激怒。
……はよ控室に帰ろ。もう色々台無しだわこれ。
お読みいただきありがとうございます。
>よし、願掛けだ――
この小説関係なく組み立ててあげてー!
>アルマ両親と鬼先生どっちのが強いんだろ?――
単騎なら鬼先生、二対一で互角ぐらいかと。
なお戦った場合、周囲の地図を描き直す羽目になる模様。
>どっちも瞬殺だけどアルマの方が速かったってことは――
剣術スキル自体はアイザワ君のほうが上ですが、魔法剣が使える分スキルの組み合わせの選択肢が多いですからね。
まあそれでも魔力気力操作無しなら互角ぐらいでしょうけども。




