中堅職の部 第一試合
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今回は緑髪少年ことラディアスタ視点です。
ちょっとグロいシーンあるのでご注意を。
リングの対角には、棍棒を構えて恰幅のいい中年が立っている。
雰囲気からして、おれより少し格上かな。
「中堅職の部、第一試合! 砕棍戦士ジュジュワンダ選手と短剣剣士ラディアスタ選手の試合になります!」
審判が試合前の紹介をして、それに合わせて選手同士が定位置まで近づく。
試合前に、互いに礼をするのがマナーらしいが、おれが礼をしても相手は嘲笑いながら見下すだけで、礼をする気がまるでないようだ。
……おれなんか、頭を下げるまでもない雑魚だと言いたいのか。
「ちっ、しょっぱなからなんでこんなガキとやり合わなきゃならんのじゃ! これではワシの力を存分にアピールできんではないか!」
随分と自己顕示欲が強いタイプみたいだな。……まあ、おれも似たような目的で参加してるんだけどさ。
不遜な態度をとってはいるが、実力のほうはどうかな。
おれは、こいつに、勝てるのか?
いや、勝つ。勝たなきゃ、勝てなきゃ、ここまできた意味がない。
狩猟祭の景品にもらったミスリルナイフを構えて、臨戦態勢に入る。
「それでは、試合、開始っ!!」
審判がゴングを鳴らし、戦いが始まった。
その直後、ジュジュワンダが突進しながら棍棒を振るってきた。
……思ったよりも速い!
「そりゃあ!!」
「うわっ!?」
スキル技能を使わずにこの速さ。
このデブ、見た目とは裏腹にかなり動けるみたいだな…!
「そらそら、さっさとくたばれぇっ!」
「ちっ……!」
棍棒の使い方もかなりうまい。
頭部と石突を使い分けて、速さと威力に緩急をつけて自分のペースを譲らず、おれのリズムを崩してきてやがる。
だてに予選を抜けてきてないってことか。
「ぬぅんっ!!」
ここだ!
大振りの横薙ぎを下から掻い潜って、一気に距離を詰めて懐に――
いや、ヤバい!
ギリギリで避けて掻い潜ろうとした棍棒の上下に、光る棍棒の分身が見えた。
確か【魔棍分撃】だっけ、武器の分身を生み出して攻撃の範囲を広げて攻撃する技能。
反射的にガードしたが、左腕に、激痛。……やっちまったか。
「ぐぁぁあ!! ううぅ……!!」
「ふん、咄嗟に腕で頭を庇いおったか。あのまま当たっておればそんな半端に痛い目に遭わずに済んだのにのぉ」
棍棒を受けた左腕が変な方向へ曲がって、力が入らない。折れちまったみたいだな。
「その腕ではもう無理だろうが。さっさと惨めに負けを認めるがいい」
……はぁ?
なに言ってんだお前は。
片腕を折ったくらいで、勝ち誇ってんじゃねーぞこの野郎!
残った右手で【魔刃・遠当て】を使って、魔力の斬撃を飛ばす。
それと同時にクイックステップを使って、飛ばした斬撃と一緒に攻撃を仕掛ける。
「悪あがきはみっともないぞ! ならば、今すぐ介錯してやろう!」
そう言いながら、斬撃ごとおれを叩き潰そうと【魔棍・疾風】を使って高速で棍棒を振るいつつ【魔棍分撃】で範囲を広げて攻撃してきた。
それをハイジャンプでかわして、エアステップで空を蹴り、上空から奇襲を仕掛ける!
「小賢しいわい!!」
棍棒を手放し、てぶらで身軽になった状態でナイフを持っているおれの右腕を掴み、そのまま地面におれの身体を叩きつけた。
投げ技まで、使えるのかよっ……!
「かはっ……! かひゅっ……!!」
背中から思いっきり叩きつけられて、肺がビックリしてるのか息ができない。
空気を吸い込もうとしても、か細い変な音が鳴るだけ。
それでもなんとか立ち上がろうとするおれの左腕を、デブが踏みつけてきた。
「ぁぁぁっっ……!!」
「ふん、猿知恵の奇襲なんぞ通用するわけなかろう。ほれ、お前の得物もワシの手の中にあるぞ。……棍棒にお前の血肉が付くのも汚らわしいわ。止めは、お前の武器で刺してやろうっ!!」
左腕を踏んだまま、棍棒をとることもせず、おれから奪ったミスリルナイフを構えてデブが叫ぶ。
バカがっ!!
「……なっ!!?」
「うぎゃぁっぁあああああああ!!!」
左腕に、これまで生きてきた中でも最大の痛み。
たまらず、自分でも聞いたことないような叫び声を上げてしまった。
そのショックのおかげか、息ができるようになったみたいなのは怪我の功名だが。
隠し持っていた本当のおれのメイン武器、『アダマンナイフ』で伸魔刃を使い、踏みつけられてる左腕を斬り落として、そのままデブの胸を貫いた。
「がっ…! き、きさ、ま……!!」
「ああああああぁぁあああ!!!」
叫び声を止めることもせず、そのままナイフを捻ってデブの身体の中をかき回す。
盛大に吐血しながら、デブの身体が崩れ落ちて、そのまま倒れた。
デブの身体が光って、リングの外へ離脱したのが見えた。蘇生されて、場外へ飛ばされたんだ。
おれの、勝ちだ……!!
「じゅ、ジュジュワンダ選手の死亡、及び蘇生を確認! 勝者、短剣剣士のラディアスタ選手っ!!」
審判が、おれの勝ちを高々に宣言したのが聞こえた。
やった、おれは、やったんだよ……!!
それはそうと
「うううぅぅうう……!! あぐううぅぅううう!!」
………痛い。
いたいいたいいだいいだだだだだ!!!!
勝ちを自覚した直後、漏らすんじゃないかと思うほどの激痛が左腕の切断面から伝わってきた……!!
予選の時に、足とか手とかもげる大怪我をした選手が、神官っぽい人に一瞬で元通りに治してもらったのを見てたから、最悪手足の一本犠牲にしてでも勝つつもりだった。
でなけりゃさすがにこんな無茶なことする気にはならないっての。そんな勇気はおれにはない!
でも、治るのが分かっててもこんなに痛いとは思わなかったよチクショウが!!
「は、早く回復魔法を! このままじゃ痛みでショック死しかねないぞ!」
「無駄に蘇生の術式を起動させるな! 魔石がもったいない!」
こっちの身体より魔石の心配かよ! こちとら腕がもげてんだぞ!
いやまあ、自業自得だけどさ。……うう、いてぇよぉ………。
~~~~~アイザワ君視点~~~~~
「ぎゃははははははっ! あいつバカじゃねぇのか!? 自分の腕斬り落としてまで勝とうとするかね普通!」
横から下品な笑い声が聞こえる。
声の主はモヒカンの、ぱっと見よく鍛えてるように見える筋肉質の剣士だが、不摂生からか肌の張りが悪い。姿勢が歪んでる。歩き方が変。というか筋肉はともかく骨が悪い。多分スカスカだな。
次の対戦相手みてぇだが、こりゃダメそうだな。話にならねぇ。
「おーう、坊ちゃんが俺様の次の相手かいぃ?」
「……話しかけんな」
「あぁ? せっかくこっちが親睦深めようと話しかけてやってんのに、そりゃねぇだろぉ?」
「息が臭い。身体が臭い。つーかもうお前そのものが臭い。寄るな。さっさと消えろ」
「ほっほーう。決めた、てめぇはさっき戦ってたガキみてぇに片手を斬り下ろして、いやもういっそダルマにしちまうか。……ガタガタ震えながらリングに上がりなクソガキが」
捨て台詞を吐き捨てながら、モヒカン野郎がどこかへ歩いていった。
てめぇ如きじゃ俺どころかさっきの緑髪にも勝てねぇよゴミが。
ああ、あんな奴どうでもいいからさっさとアルマと戦いてぇ。
トーナメント表を見てみたが、アルマとは準決勝で当たることになりそうだ。待ち遠しくて仕方がない。
お前は、どんなふうに戦うんだ? どんな顔で戦うんだ? どんな顔で泣くんだ? どんな顔で笑うんだ?
ああ、俺は、産まれて初めて恋をしているようだ。
絶対、俺のモノにしてやるからな。
お読みいただきありがとうございます。
>一話遅れたけど、わーいメニューさん可愛い――
なんだかんだで一番つきあいの長い存在ですからね。
これが無機物萌えか、いや無機物以前に物質ですらないのですが…。
>主人公が強くなったのが分かって良かった。――
本人もある程度強くなったと自覚してはいるのですが、鬼先生に定期的にボコられているのでやっぱ自分は未熟だと思い込んでしまっているようで。
腕を捻り上げるどころか捩じ切るまである。今回、ラディア君なんか腕斬り落としてたし。
>隣の芝生は、ってやつやんな。――
ですね。実際、勇者になるかスキル無しで放り出されるか選べって言われたら勇者を選ぶでしょうが、後の境遇を知っていたら迷わずスキル無しを選ぶでしょうね。
>アイザワ君、下手しなくてもこの事を後で知ったアルマのご両親二人に――
実際、アルマママが転移魔法を使えばノータイムでここまで到着できるという恐怖。
ダイジェルにきたときはテンション上がりすぎて魔法を忘れて、思わず爆走してしまったみたいですが。




