表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

237/584

コワマス面会

新規の評価、ブックマーク、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。




「お久しぶりです、ギルドマスター」


「……お前か。久しぶりと言うには少し気が早くないか、カジカワ」



治療院の個室で、全身包帯まみれにされているコワマスことライザカレンさん。

お見舞いにきたけど、思った以上に重傷だ。ケルナ村の恐妻家といい勝負。


本来面会は控えるべき重傷らしいが、上級ポーションを届けにきたと言ったらあっさり通してくれた。

昨今の魔族騒ぎでポーション不足らしく、重傷をある程度回復できる上級ポーションは貴重品だとか。

全員で病室に入ると傷に障るかもしれないらしいから、入室許可がおりたのは俺ひとりだったけど。



「……全身、酷い怪我みたいですね。ポーションは飲まなかったんですか?」


「最上級とまでは言わんが、せめて上級ポーションでもあれば歩けるくらいにはなると思うのだがな。大部分を軍が買い占め、残ったモグリの店の薬は冒険者が根こそぎ持っていったらしく、中級以下のポーションしか投与できなくてな。完治するまでもうしばらくかかりそうだ」


「いったいなにがあったんですか?」


「なに、少し空飛ぶ黒トカゲに喧嘩を売って返り討ちにあっただけだ。我ながら情けない話だが」


「空飛ぶ……? ……っ!? まさか、ブラックドラゴンとやりあったんですか!?」


「ああ。まったく、こっちはここまでズタボロにされたというのに、たった一発しかまともに殴ることができなかった。さすがは勇者の元相棒のドラゴンと言ったところか」



あのクソバケモノと喧嘩したって、いくらなんでも無茶しすぎだろ。

というか、どういう経緯でそんな自殺紛いの特攻じみたことすることになったのやら。



「狩猟祭のエリア越え魔獣についてのクレームをソウマに言ってやったが、証拠不十分で軽くあしらわれてな」


「はぁ」


「で、せめてもの嫌がらせに黒竜を挑発してボロを出さないか試してみたんだが、予想以上に激昂してな。そのまま勢いにまかせてやり合った結果がこのザマというわけだ」


「ええぇ……」



……この人、おっかないけど思慮深くて冷静な人かと思ってたのに、意外と考えなしに無茶する性格だったのか。

嫌がらせの代償が全身大怪我じゃ割に合わんだろうに。



「だが、その甲斐あって『あの騒ぎは我らが仕向けたことだ』と決着がついた後にドラゴンが自ら認めたよ。証拠は不十分だが、言質をとることができたのは大きな収穫だった」


「え、なんで自白したんですか?」


「喧嘩の前に『弱者に語る舌など持たぬ』『たとえ貴様が真実を語っていたとしても、それを押し通す力が無ければ受け入れはせぬ』と奴は言っていた。逆に言えば、力を示した相手には都合の悪い真実であろうとも正直に答えるのが、奴なりの流儀なのだろう」



そのクソみたいな流儀に振り回される周りのこともちったあ考えろや駄竜。

せっかくしらばっくれてたのに台無しにされて、飼い主涙目もんだろ。ざまあ。

今回だって、コワマスがクレームつけなきゃ揉み消すつもりだったんだろ。そうなったらアルマや『天への階梯』の皆が死にかけたことも泣き寝入りするしか……


…待てよ。



「あの、ギルドマスターがドラゴンに喧嘩を売ってまでクレームをつけたのは……」


「あの騒ぎの賠償をさせるためだ。お前に偉そうなことばかり言って、私が口で文句言うだけでなんの成果も得られませんでしたじゃ筋が通らんだろう。ああ、もうしばらくしたら賠償金が支払われるはずだから、近日中にギルドに顔を出すといい」



この人が、黒竜に喧嘩を売ったのは、俺たちのためなのか?

そのために、こんなボロボロになってまで、黒竜たちに……。



「……すみません。私たちのために無茶させてしまったみたいで」


「勘違いするな。あのトカゲに喧嘩を売ったのは私の筋を通すためだ。勝手に気負って勝手に謝るな」



オトコマエすぎるわこの人。惚れそう。いや異性としてじゃなくて兄貴分みたいな感じで。いや姉御?

ここまでされて、なにもしないわけにはいかんだろう。俺も俺の筋を通しますか。

……あんまり見せびらかすような真似はしたくないが、上級ポーションでも完治は難しそうだし、治すか。



「ギルドマスター、ちょっと失礼します」


「……どうした? 全身が痛いからあまり触らんでほしいんだが……っ!?」



俺の生命力をコワマスに譲渡し、コワマスの遺伝子を設計図にして全身を正常な状態にまで回復させる。

生命力が足りていれば身体の欠損すら元通りに治せるくらいだ。骨折や打撲傷、火傷程度なら充分完治は可能。

十数秒程度でコワマスの状態表示は『正常』になり、治療が完了した。



「……お前が、治したのか? 体中の痛みがまるで感じられなくなったのだが」


「もう起き上がっても大丈夫ですよ。包帯も不要です」


「そのようだな。……まさか、回復魔法の真似事までできるとは。スキルが一切使えないとは思えない芸達者ぶりで、正直戦慄すら覚えるぞ」


「あはは。……勝手に気負うのも謝るのも迷惑みたいですので、勝手に治させてもらいましたよ」


「ふん。……一応、礼は言っておくぞ」



ちょっと顔を顰めているが、身体が満足に動くようになったこと自体はまんざらでもない様子。

これで『余計なお世話だ』なんて言われた日にゃ軽く凹んでるところだ。



「お礼も兼ねての治療ですが、近々例の大会が開かれますのでその時に動けるようにと思いましてね」


「言っておくが、私は出場する気はないぞ。ああいうのは現役の戦闘職に見せ場をやるべきだろう。せいぜい観客として見物するくらいだ」


「それでもいいんですよ。……当日に戦える人間は、一人でも多いほうがよさそうですしね」


「……ふむ、その言い方だと大会の日になにかあるように聞こえるが」


「あくまで予想ですけどね」



一応、大会に乗じてなんかやらかしてくる可能性もあるし、頼りになる人材はできるだけ確保しておきたい。

一線を退いているとはいえ、Lv59なら相当強力な戦力になってくれるだろう。


というか、この人俺のひとつ上の年齢なんだけど、戦力として引退するの早くない?

まだまだ若いし、このまま戦闘職として活動を続けていれば特級職になるのも夢じゃなかっただろうに。

……まあコワマスなりの事情があるんだろうし、深入りするつもりはないが。


大会当日の相談と打ち合わせを軽く済ませておく。

……包帯をとるのは俺が退室してからにしてもらえませんかね。そんなあられもない。






面会も済んだし、この後はアルマとレイナの大会前の調整がてら組手でもするかな。



「ギルマス、治った?」


「ああ。急に元気になったもんだから、治療院にいた看護師さんたちが困惑してたけどな」


「ほぼ面会謝絶状態だったらしいのに、やっぱカジカワさんの治療法はおかしいっす……」



なお、普通の人が真似すると寿命が縮む模様。

具体的に言うと最大HPがゴリゴリ削れていくそうな。怖ひ。




この子たちの準備もだが、やっぱ大会に乗じてどっかの魔族アホどもがドンパチやらかす可能性を考えると、それに対処するための準備も必要だよな。

ジュリアンに頼んでおいた魔道具とか、戦術の幅を広げるための素材や道具なんかも揃えておくべきかな。

久々にこっそりダイジェルのバアさんの店を覗いてみるのもアリかな。


……やれやれ。準備する時間の余裕があるのはいいけど、その分やれることは全部やっておかないと不安で仕方ない。

もういっそ早く大会当日になってしまえば踏ん切りがつくのに。いややっぱ準備を済ませてからだな。メンドクサイ。



お読みいただきありがとうございます。



>コワマスが重傷なのは――


はい、あっさり治しましたね。

上級回復魔法クラスの効果をもたらしているのに、簡単すぎてなんかありがたみが薄い…。


>コワマスが重傷、どう考えても竜との戦いだよなぁ――


はい、予想された通りボロ負けでしたね。

一応、一発ぶん殴って一矢報いた形にはなりましたが、結果として一番損をしたのは黒竜の飼い主だったり。そろそろ胃潰瘍になりそう。


>ハ~イ、ジョージィって違う――


面白そう! 魔王降臨させるわ。

冗談はさておいて、先の展開の内容については実際に書くまでは明言は控えさせていただきます。

ちょっとした山場があるくらいしか書けません。申し訳ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] エリクサー「あるぇ?出番は…」
[一言] >なお、普通の人が真似すると寿命が縮む模様。 これで無痛ってのがまたおかしいよね。 本来長年の積み重ねがあるポーションや治癒魔法ならともかく、手探りで編み出した治療法で触覚が仕事してないの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ