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小路流のプログラミング  作者: しげる
彼と彼女の事情
3/6

02初期講習の後に

※この作品に出てくる固有名詞は、一部の地名などを除けばほぼフィクションです。

 彼女を伴いながら第3グループ横の開発室兼会議室に入る。


「じゃぁ簡単に説明しますね。まずは組織から」

「お願いするわ」


 密閉空間に男女二人とかちょっとドキドキするな。美人マンセー。そんな事をちらっと考えながらホワイトボード前に立つ。

 まず書くのは「社長」「役員会」「総務部」「経理部」「営業部」「開発部」「運用部」それぞれに上下がわかるように線でつなげていく。


「まぁ組織的にはこんな感じ。社長の下に役員会と経理部、役員会の下に各部門ね」


 その図をシステム手帳にメモするのを少し待つ。実際のところ基本的な資料ぐらいもらってるはずなので、律儀なんだろう。


「で、うちのグループがどこかと言うと」


 俺は社長から開発グループを突っ切って「第3~第5」と書く。


「? えっと普通の開発部じゃないのかしら?」


 どうやらこの辺りの事は聞いてないようだな。


「第3から第5は社長直轄の部隊です。取りまとめは、金子部長が第3の課長兼務でやってるのでこんな感じになりますね。第3の実働は俺一人みたいなもんだったので、美咲課長が増えてくれてうれし」「あの」


 唐突に割り込まれたので言葉を止める。視線を向けると微笑みながら睨みつけられた。


「名前で呼ぶのはやめてください」


 最初からこう噛みつかれるのは予想外だったな。


「あーでも一人だけ姓で読んだら目立ちますよ?」

「構いません。小路主任がというわけべはありませんが、中には器用に姓が変わらないのかと言う意味を込められる方がおりますので」


 笑顔での圧力が増すのを感じ、俺は肩を竦めてみせた。なんかトラウマでもあるっぽいな。被害妄想にも思えるが。


「話を戻しますよ。第3から第5は定例の会議や根回し打ち合わせなどが比較的少ない開発案件を平行して行っています」

「平行ってどのぐらいですか?」

「一応10件づつぐらいはこなしてる感じです」

「今ある案件をうかがっても?」

「中小企業で使われるオリジナルのデータベースソフトとかが多いですね。あと企業間取引のシステムとか、電子入札用の入札システム、あソーシャルゲームシステムなんかもありますね」


 俺は壁に貼ってあった進捗表を指し示す。


「毎月ですか?」

「3か月から半年ぐらいの案件のものが多いです。基本的に“こちら”で緊急の案件が来ることはありません」


 そこまで話した時、壁についているパトランプが回りだした。ブザーはあまりにうるさいので外してある。

 俺は、ランプを止めてから常時監視用PCのメーラーを見る。そこにはちょうど“あちら”側の至急の案件メールが来ていた。


「あー、ちょうど“至急”のが来たので行きましょうか。実地説明を先にしちゃいましょうか」


 俺は、確認用にメールを返信して。彼女に声をかけた。



              ◆



 会議室の奥の扉から更に奥の部屋に入る。

 見た感じ過去の資料が置いてあるらしく、片方にだけガラス戸付きの書棚が並んでいる。もう片側は壁だが、何故か四角が掛かれていた。奥側の壁際に2台のモニターが光を発していた。常時付けっぱなしっぽいところを見ると運用監視用の端末のようだ。

 部屋の感じからかなり防音がしっかりしている感じがする。古いビルのサーバルームのような感じと言えば良いのだろうか。ふと、以前にあったかなり嫌な事を思い出しそうになり深く考えるのを止める。


「前の会社では会社のモバイルを使ってたんですか?」

「ええ」


 小路主任にそう答えると、彼は、書棚の前にしゃがみこみ下段からいくつかの機材を取り出してきた。

 一つは、スライド式でコンパクトキーボードが出てくるモバイルPC、一つは細いディスプレイが2行ほどフルキーボードの上についたモバイルPC、三つ目は15インチサイズのタブレットPCだろうか? どれも見たことの無い機種だ。何せどれもゴムっぽいベルトが付いている。


「すみませんが、まだ春日課長のが用意できてません。古いので申し訳ないんですが、好きなの使ってください。まぁ、今回はポーズだけみたいなもんなので」


 いったいどれぐらい古いのだろう。メーカー名も入ってない完全に特殊な用途の業務用端末だろう。と言うか誰の趣味なんだろう。

 フルキーボードのモバイルPCを取り上げると、ベルトに腕を通す。ベルトは引っ張れば簡単に固定された。子供の頃、伯父さんが嬉々と見せてくれた玩具にこんなのがあった記憶がある。ゲームででてきたPCの模型だったらしいが。


「あ、それにしましたか。良いセンスっすね。ディスプレイなんてやっぱ飾りですからね」

「え、えぇそうね」


 とっさに答えたものの、彼自身返答を求めた物ではなかったのだろう。残った二つをしまい奥のモニターの所へ行ってしまう。


「それじゃ行きますよ」


 行く? この部屋には入ってきた扉しかない。

 そこまでの疑問が頭に浮かんだところで、なんの前触れもなく視界がゆがんだ。



              ◆



 転移すると、ちょうど良い天気だった。壁に空いた大きな窓から鳥の声と共に市場の賑わいが微かに入ってくる。いや一気に部屋の空気が良くなるのがわかる。しばらくはここ、サーリャス世界での仕事が多いので助かっている。何せこの世界には杉に類するものがない。沖縄にも匹敵する花粉症患者の楽園だ。

 とりあえず転移用PCをロックする。ロック解除されない限りは、操作される事も壊される事も移動される事もない。PCそのものの空間にロックをかけているからな。ロック解除には、キーワードを、解除キープログラムが必要だ。


「ちと急ぎますんで、この世界の説明は移動しながらしますね・・・春日課長?」


振り向くと、彼女は外を眺めていた。


「春日課長?」


 二度目の呼びかけにビクッと反応する。その様子に、俺のセンサーが警鐘を鳴らし始める。

 新人ならまだしも課長として入ってくる人間がこんな反応をするわけがない。

 本来であれば。


「おい、まさか初めてとか言わないよな?」


 答えは無い。

 俺は、彼女の背を向けると、あちらの世界の部長へ内線をかける。


「どういう事っすか! ド素人じゃないっすかっ!!」


 2コールで相手が出ると同時に、俺は電話口に怒鳴りつけていた。


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