後編
【トレード③:プレミアスニーカー ➔ 国宝級スパダリCEO】
スニーカーを持って歩いていた私は、とある高級ブティックの前で、靴の片方を失くして絶望しているスーツ姿の男を見かけた。 ……いや、待って。顔が良すぎる。少女漫画の作画崩壊対策用に予算を5億枚くらい投入したような、超絶絶世のイケメンだ。
「困ったな……。今日の重要な調印式に履いていくはずの、限定スニーカーが片方盗まれてしまった……。このままでは全裸でランウェイを歩くようなものだ……」
男が呟く。全裸は言い過ぎだろ。だが、彼が探している靴のモデルは、今まさに私が抱えているスニーカーと完全に一致していた。
「そこの顔面国宝のイケメン社長ォォォ!! あなたのその完璧なビジュアルに唯一足りない最後のピース(靴)は、今まさに私のこの右腕の中にあります!!」
「なっ……! その血走った目……君は誰だ!?」
「通りすがりの藁しべ社畜です!! いいですか、このスニーカーは、あるオタクが30時間のデスマーチの果てに命と引き換えに手に入れた執念の結晶!! これを今すぐあなたのその綺麗な足にマージ(装着)しなさい!! その代わり、私にあなたの会社が持っている『肥後商事の負債債権』および『自社ビルの抵当権』を今すぐ1円で譲渡する契約書にサインしろォォォ!!」
「話の飛躍の仕方が新幹線より速い上に、やってることが完全に合法的なカツアゲだよ!?」
イケメンは驚愕の表情を浮かべたが、私のバキバキにキマった目と、アドレナリン全開の熱量に完全に呑まれていた。「……いや、待てよ。君のその、相手を一切怯ませずに1秒で1000文字喋る圧倒的な交渉力……あるいはこのピンポイントなトレード能力。……面白い。非常に興味深い女性だ」
「面白い女って言うテンプレはいいから早くサインしろォォォ!! 締切が迫ってんだよ!!」
「ふっ、気に入った。君のその類稀なる才能、俺の会社の専属(および俺の妻)として一生かけて独占させてもらうよ」
男はなんと、その場でポケットから最高級の万年筆を取り出し、私が提示した無茶苦茶な物々交換の承諾書と、なぜか婚姻届(既製品)にサインをしやがった。
のちに知ったのだが、この男は業界最大手ITグループの若き最高経営責任者(CEO)、長者原 皇だった。本物の『長者』を釣ってしまった。
❖ 皿 ❖
そして、クビを宣告されてからちょうど1週間後の7月7日。
私は長者原が率いる黒塗りの高級車軍団を引き連れ、元職場である『肥後商事』に殴り込みをかけた。
オフィスの中は、私が抜けたせいで業務が1000%パンクし、書類の山の中で肥後部長が「もうダメだぁ……」と白目を剥いて倒れていた。
「お久しぶりです、クソ上司」
「わ、藁科……!? 戻ってきてくれたのか! 頼む、お前がいないとこの会社は明日倒産するんだ! 戻ってきてくれたら、給料を500円上げてやる!」
「500円ってナゲットセットも買えねえよナメてんのか!!」
私をゴミのように扱ったこの男に、私は長者原から物々交換で手に入れた『債権書類』を叩きつけた。
「いいですか、肥後部長。本日をもって、この会社のすべての借金と、この自社ビルの所有権は、私の Type-C ケーブルを起点とした、わらしべトレードによってすべて私(藁科)のものになりました。よって、お前を本日付でクビにする!! お前の代わりなんてな、その辺に落ちてるトタン板のほうがよっぽど役に立つわァァァ!!」
「そんなバカなァァァ!! 100円のケーブルから自社ビルが奪われるなんて、どんな現代ファンタジーだァァァ!!」
肥後部長は、床に這いつくばって涙と鼻水を流しながら、警備員によって文字通り「つまみ出されて」いった。
完全なる、ざまぁである。
♡⃜ ♡⃜ ♡⃜
静かになったビルの最上階、社長室のバルコニー。
夕日を浴びながら、長者原が後ろから私の腰を愛おしそうに、強く抱きすくめてきた。
「見事な手際だったよ、私の可愛い藁科社長。これからは、このビルも、俺の持っているすべてのグループ資産も、君の好きにしていいからね」
「……皇さん。抱きしめる力が強くて、ちょっと恥ずかしいです」
「ふっ、離さないさ。これまで苦労した分、これからは俺が君を世界一幸せな女性にしてみせる。生涯をかけて、君を甘やかすと誓うよ」
そう言うと、顔面国宝のイケメンCEOは、私の唇に深く、優しくとろけるようなキスを落とした。
これまで味わったことのない、胸が苦しくなるほどの甘い熱が全身を満たしていく。
1本の瀕死のケーブルから始まった、私の大逆転劇。
理不尽に全てを奪われても、自分の手で未来を勝ち取る。
そして隣には、私を世界で一番に愛してくれる最高のパートナーがいる。
それが、現代を生きる元社畜の、最高のハッピーエンドなのだ。
了
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
5人のクソ富豪に続き、今回は「わらしべ長者」をモチーフに、理不尽に自分を追い出したクソ上司を物々交換の力技で自社ビルごと買収するお話でした。
前半はアクセル全開のギャグですが、後半は100%の王道スパダリによる極甘な溺愛エンドにシフトさせていただきました。元社畜の紡ちゃんが、最高の幸せを掴んでくれて作者としても感無量です。
私もかつて、深夜のオフィスで「このボロいキーボードと、有給を10日ほど物々交換してくれないかな……」と虚空を見つめていた時期があるので、紡ちゃんの成り上がりには人一倍気合が入ってしまいました(笑)。
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皆様の願いも、どうか素敵な形で叶いますように。
また次の物語でお会いしましょう!
逢瀬るる




