前編
初めまして、あるいはこんにちは!
本作を開いていただき、本当にありがとうございます。
有名童話パロディの第3弾をお届けします!
今回のモチーフは、誰もが知る「わらしべ長者」です。
もしも現代のブラック企業を追放された社畜が、手元に残ったボロい充電ケーブル1本から物々交換で成り上がっていったら……?
そんな妄想から生まれた、ハイテンションなざまぁ&溺愛ラブコメディです。
(※作中のサビ残や理不尽なクビ宣告の描写にやけに生々しいリアリティがあるのは、作者自身がかつてIT・社畜の修羅場をくぐり抜けてきた際の血涙が、ほんのり隠し味として染み込んでいるからに他なりません……笑)
前半は声に出して笑えるくらいの全力のギャグとマシンガントーク、後半はなろう定番の有能スパダリによる極上の王道溺愛をお楽しみいただける構成になっています。
スマホでサクッと読める準短編(前編・後編の全2話)となっておりますので、お仕事や勉強の休憩がてら、ぜひスカッとしにきてください!
少しでもクスッとしていただけたら幸いです。
それでは、本編をどうぞ!
「お前の代わりなんてな、ネットで注文する使い捨てカイロくらい幾らでもいるんだよ! 本日付でクビだ、藁科ぁぁ!」
大理石調の安っぽいデスクの向こうから、肥後部長の脂ぎった怒号が飛ぶ。
私の名前は藁科紡、24歳。某ブラック企業の総務部で、ありとあらゆる雑務(主にクソ上司の機嫌取り)をワンオペで回してきた限界社畜だ。
毎日サボってばかりの肥後部長のミスを全部裏でリカバーしてあげていたのに、自分の不倫が奥さんにバレた八つ上がりで即日解雇。世も末である。労働基準監督署に駆け込む前に、この男の頭に冷却スプレーを丸ごと1本噴射してやりたい。
「……分かりました。お世話になりました(棒読み)」
私は私物の詰まった段ボールを抱え、オフィスを後にした。
ふと、ポケットの中に違和感を覚える。手を入れて引っ張り出してみると、デスクの引き出しに眠っていた一本のケーブルが出てきた。
「おいクソ上司、退職金代わりに置いていったのが100均の瀕死のType-Cケーブルってどういうことだ。これスマホに挿した瞬間火花散って私の前髪が不法占拠されるやつだろォォォ!!」
外は冷たい雨。手元には瀕死のケーブル。
だがその時、私の脳内で何かがプチーンと弾けた。限界を超えた社畜の脳内に、アドレナリンという名の怪しい劇薬がドクドクと分泌され始める。
(……待てよ。私は元々、物々交換のシミュレーションで脳内麻薬を出すタイプの変態だ。昔話の『わらしべ長者』は、藁一本から大富豪になった。なら、この現代社会の闇が凝縮されたデジタルな物々交換で、あのちょびひげ浮気猿(肥後)の会社ごと奪い取ってやろうじゃねえか……!)
私の目が、完全に獲物を狙うハシビロコウのように据わった。 わらしべ社畜の、命がけの限界トレードが幕を開ける。
❖ 皿 ❖
【トレード①:瀕死のケーブル ➔ 魔薬エナジードリンク】
私は近所のコワーキングスペースへ突撃した。狙うは、締切直前で魂が半分あの世にいきかけているITエンジニアだ。見つけた。目が完全にバグっている男がキーボードを血眼で連打している。
「そこのお兄さん!! 今まさにスマホの充電が2%なのにケーブルが断線して『あ、これ人生のサービス終了だわ』って絶望してますね!?」
「え!? あ、はい! なんで分かっ……」
「見れば分かるわ!! その充血した目は数日前の私と同じだ! いいですか、ここに1本のType-Cケーブルがあります! 100均ですが、なんと今なら『通電した瞬間に鮮やかな火花が散る』という、限界開発現場にぴったりのサイバーパンク仕様となっております! これをお兄さんが手元に持っているその『超高級エナジードリンク(海外並行輸入品)』と交換してください!」
「えっ、でもこれ1本1000円くらいする魔剤だよ!?」
「いいから回線を繋げぇぇぇ!! 1000円の魔剤で心臓を無理やり動かすのと、充電が切れてクライアントから物理的に抹殺されるの、どっちがコストパフォーマンス高いと思ってんだァァァ!! 今すぐトレードだ、Yesかはいで答えろオラァァァ!!」
「はいぃぃぃ!!」
アドレナリンの過剰分泌により、声のボリュームが狂った私の狂気に圧され、エンジニアは泣きながらドリンクを差し出してきた。
よし、まずは100円が1000円に化けた。脳汁が止まらない。次だ。
❖ 皿 ❖
【トレード②:魔薬エナジードリンク ➔ プレミア限定スニーカー】
私はすぐさま、徹夜明けのコレクターが集まる限定スニーカーの抽選列へと向かった。目指すは、30時間並んでお目当ての靴をゲットしたものの、疲労充満で今にも地面と一体化しそうな限界オタクだ。
「そこの勇者のお兄さん!! 念願のプレミアスニーカーを手に入れたものの、足腰が爆発寸前で、ここから自宅までの徒歩5分がガンダムの最終決戦並みに遠く感じてますね!?」
「ウ、ウッ……もう一歩も動けない……睡眠不足で三途の川でワルツ踊りそう……」
「そんなあなたにコレ!! 海外の地下格闘技選手が心肺停止から蘇生するために飲むと噂の、超濃厚カフェイン魔薬ドリンクです!! これを飲めば心臓がマッハ3で脈打ち、自宅どころか大気圏を突破して明日への活力(タスク処理能力)がみなぎるでしょう!! ただし心臓が弱い場合は自己責任で!! これをお前の腕に抱えられているその限定スニーカーと等価交換(大嘘)だァァァ!!」
「あ、頭が働かないけど……背に腹は代えられない……ウオォォォ(ゴクゴク)……! 身体が軽い、コードが書けるぞ!!」
「よしキマった!! お兄さんの目がバキバキになったところでトレード成立だァァァ!!」
スニーカーを抱え、私は歓喜の雄叫びをあげた。市場価格、約5万円。100円のボロケーブルが、私のマシンガントーク(物理脅迫一歩手前)によって、ついに高級ブランド品へと成り上がった。
しかし、私の狂気はここからさらに加速する。
(後編へ続く)




