古本市(前編)
「古本市?」
「はい。三年に一度、王都で開催されるんです。新刊じゃなくてもいいなら、招待状を手に入れたので一緒に行きませんか?」
「もちろん、行くわ!」
私はダイアナの誘いに即座にうなずいた。そんな面白そうな催しがあるなんて知らなかったわ。
「それって、招待状のない人は入れないの?」
「はい。なかには滅多にない稀覯本などもありますから」
なるほど。そんな本があるなら入場者を選ぶのも当然だわ。さぞかし高値がつくでしょうね。
「古本市があるのはいつ?」
「次の青の日です」
「じゃあ、その日はパトリックさんとクリスティーヌさんに留守番を頼みましょう」
休館日以外の休みは、ひと月前までに告知することにしているので、今からだと間に合わない。
「では、特別室だけ入室禁止にしますか?」
「そうね。利用者の方には申し訳ないけど……」
『特別室への通路に鍵付きのドアを設置しますか?』
「え?」
「どうしたんですか? 館長さん」
「今、ナビから提案があったの」
「ナビさん、何て言ってるんですか?」
少し前にダイアナにはナビのことを話したので、遠慮なく聞いてくる。
もちろん、ナビの許可は取った。
私と契約している人になら、前世やフレイア様に関すること以外は話しても構わないそうだ。もっと早く確認すればよかった。
ダイアナがあまり驚かないから不思議がっていたら、『あんなに独り言を言ってたら、何かあるんだろうなと思いますよ』と笑われてしまった。
自分では気をつけてるつもりだったんだけど、バレバレだったみたい。
「特別室への通路に鍵付きのドアを設置しますかって」
「それはいいですね! 普通のドアならわたしたちでも対応できます。ぜひ、設置してください!」
「わ、わかった」
ものすごく喜んでいるダイアナを見て、確かにそうだなと思った。
逆になんで今まで思いつかなかったのか不思議だ。
閉館後、インベントリにドアを探しに行くと、たくさんの種類があって驚いた。
いつも思うけど、フレイア様はどこからこういうのを集めてきてるのかしら。
花模様のステンドグラスが入ったドアや、ピンクやブルーのカラフルなドアが気になったけど……。
「あんまり目立たないほうがいいわよね」
悩んだ末に、木製のアーチ型ドアに決めた。
受付に戻ると、もともとそこにあったかのように、私の選んだ扉が収まっていた。
「うん、いいじゃない! 図書館にも馴染んでるし、これにして正解ね」
思わず笑みが浮かんだ。
扉の鍵穴にささっているアンティークな形の鍵を引き抜くと、ナビの声が聞こえてきた。
『合鍵は必要ですか?』
「そうねぇ、二本くらい……いや、ちょっと待って」
優美な装飾の施された鍵を眺めているうちに、特別室の利用者に鍵を貸すことを思いついた。自由に出入りできればお互いに手間が省けるし、いい考えかも。
「それに秘密基地の鍵みたいで、少年心をくすぐりそう」
アルベールさんの嬉しそうな顔が浮かび、自然と頬が緩んだ。
ナビに合鍵を何本か作ってもらい、パトリックさんとクリスティーヌさんに説明すると便利になったと喜んでいた。
これで安心して出かけられる。留守番のふたりには、好きそうな本をお土産に買ってきてあげよう。
古本市では、蔵書が少ない魔術書や歴史書を手に入れたいと考えている。
やっぱり、図書館というからには蔵書全体のバランスも考えないとね。自分の読みたい本ばかり選ばないように気をつけなきゃ。
「そういえば、古本を買うのって初めて――あ、どうしよう……」
「何か問題でも?」
おろおろする私を見て、ダイアナが眉を寄せる。
「私、インベントリにどんな本があるか全然把握できてない!」
「はっ、言われてみればわたしも……」
「盲点だったわ。いつもナビに確認してたから……間違って同じ本を買っちゃったらもったいないよね。古本市なら返品もできないだろうし……。ねえナビ、図書館の外でナビに聞く方法ってないの?」
少し間を置いて、ナビが答えた。
『古本市でワタシを使えるようになりました』
「図書館の中じゃなくてもいいの⁉」
『ハイ。〝蔵書収集〟ということで特別に許可されました。館内及びインベントリにある本は鑑定結果に〝所蔵済み〟と表示されます』
「やった! 鑑定に表示されるんだ。ありがとう」
(フレイア様が許可してくれたのかな。蔵書収集という名目なら、ひょっとしたら本屋で新刊を購入するときも使えるかも)
今度エル・アテナで試してみようとほくそえんでいると、ダイアナがおずおずと口にした。
「あの、図書鑑定スキルって、わたしにも使えませんか?」
「確かにダイアナも鑑定できたほうがいいわね。ナビ、ダイアナも図書鑑定スキルを使えるようにできる?」
『ハイ、できます』
「えー、だったらもっと早く言ってよー」
『質問されたことがありませんので』
「ぐぬぬ……って、前にも同じような会話をしたわね」
もしかしたら、他にも色々できることがあるのかな? まあ、必要なときは提案してくれるから、そのうちわかるよね。
『スキル〈図書鑑定〉を労働者ダイアナ・ミュラーに授けます』
さっそくナビの声が頭に響いた。




