料理のお披露目会
「館長さんが、ジャポールの食材や調味料を使った料理を作ってくれるんですよ」
なんてことをダイアナが言いふらしてしまったために、キャサリン、ハリー、レオン、それに騎士団の常連さん達にも日本食を振る舞うことになった。
閉店後のラピスラズリをお披露目会に使わせてもらえるというので、お礼を言いに行くと、
「こっちだってジャポールの料理をご馳走してもらうんですから、全然構いませんよ」
とハリーはご機嫌だ。
よほどジャポールの料理に興味があるのだろう。正確には〝ジャポールの食材と調味料を使った日本料理〟なんだけど、まあいいか。
「最近テラの様子はどう?」
「よく働いてくれるから助かってますよ」
土の妖精テラのおかげで店の前の雑草はなくなったし、門から続く道を平らにしてくれたから歩きやすくなったという。
話している最中にテラがやってきたので、たっぷりと魔力をあげた。
「アーモンドクッキー食べるか?」
「ウン」
ハリーに訊かれて、元気よくうなずいている。魔力とクッキーは別腹なのね。
テラが嬉しそうにクッキーを頬張っているのを見て、すっかりこの店に馴染んだなと嬉しくなった。
レオンがカウンターの中から出てきて、テラに「美味しい?」と話しかけている。
レオンが妖精が見えると知ったのは、つい最近のことだ。
「ずるいよ! 俺だってテラとおしゃべりしたいのに!」
とレオンが大声で不満を口にするまで、私もハリーもまったく気づかなかった。
「レオン、もしかしてテラが見えるのか?」
ハリーに訊かれて、レオンが小さくうなずいた。
「どうして今まで言わなかったんだ?」
「お母さんが病気で亡くなる前に、妖精が見えることは誰にも言わないって約束したから。でも、ハリーと館長さんがテラと話しているのを見て、なんで俺だけ駄目なんだってモヤモヤして……ずるいなんて言ってごめんなさい」
「いいのよ。教えてくれてありがとう」
「だけど、お母さんとの約束、破っちゃいました……」
「大丈夫よ。きっとお母さんが生きてたら『信頼できるひとになら話していいよ』って言うはずだもの」
「そうでしょうか」
「うん。絶対そうだよ」
あれからレオンは、私たちの前でも妖精と楽しそうにおしゃべりをするようになった。
***
日本食のお披露目会、何を作ろうかなあ。まずはメニューを考えて、足りない食材はハリーに頼んで仕入れてもらわなきゃ。
ジャポールで手に入れたレシピもあるけど、さすがに初めて作る料理を振る舞うのは怖いから、作り慣れてるもので何とかしよう。
里芋と大根があるからには『大根と里芋とイカの煮物』は外せないわね。残った大根は和風サラダにして、仕上げにかつお節と海苔をたくさんかけよう。
豆腐はもう食べちゃったから、豚肉とゴボウとニンジンで豚汁にしようかな。かつお節でだしを取って、ついでにだし巻き卵も作ろう。
里芋のバター醤油ソテーも作ろうかな。男のひとが多いから、ベーコンも加えてボリュームを出して。ああ、やっぱりお肉も一品くらいあった方がいいか。鶏肉ならすぐ手に入るから、鶏もも肉の照り焼きにしよう。皮をパリパリに焼くと美味しいのよねえ。
みんな、ご飯を食べるのは初めてだと思うけど、騎士団の人達はなんでも食べそうだから、多めに炊いておこう。念のため、ハリーにパンを頼んでおけば安心ね。
ということで、会食のメニュー表はこんな感じになった。
大根サラダ
豚汁
だし巻き卵
鶏もも肉の照り焼き
大根と里芋とイカの煮物
里芋とベーコンのバター醤油ソテー
※ご飯と豚汁はおかわり自由
(苦手なかたにはパンもご用意しています)
***
お披露目会の当日。
閉店後のラピスラズリに、鍋や大皿に盛った料理を次々と運び込んだ。
一応、図書館の別館だから、転移魔法が使えて助かったわ。
参加者たちが揃ったところで、ハリーとレオンに手伝ってもらい、テーブルの上に料理を並べていった。
参加者たちは興味津々の様子で、メニューと料理と見比べている。
「では皆さま、ジャポールの料理を召し上がれ!」
わたしは耳を大きくして、みんなの感想を聞いた。
「ジャポールの煮物って、こんな味なんですね。美味しいですぅ」
「甘くて濃い味付けね。煮ているのにイカがプリっとして柔らかいわ」
ダイアナとキャサリンは煮物が気に入ったようね。
「大根サラダってシャキシャキしてていいですね。上にかかってるのは何ですか?」
ハリーに訊かれたので、かつお節と海苔だと教えてあげた。シェフだから色々と気になるわよね。
「この芋、ねっとりしてて美味いな。ベーコンとも合う」
「鶏の照り焼きも食べてみろよ。皮がパリパリだし、照り焼きのタレってのがすっげえ美味いぞ!」
ふふふ、騎士団のみなさんにも好評のようね。肉料理を増やしておいて良かった。この分だとすぐになくなりそうね。
「アルベールさん、お味はどうですか?」
「どれも美味いよ。アンは凄いな。外国の食材を使って、こんなに美味い物が作れるなんて」
「ふふ、ありがとうございます。どれも亡くなった母から教わったものなんですよ」
「……そうか。料理上手なのはお母さん譲りなんだな。アンのお母さんはジャポール出身なのか?」
一瞬、そうですと言おうかと思ったけど、以前『アンは隠し事が多いな』と言われたことを思い出してしまった。
「いえ、もっと遠くの島国です。もう帰れないくらい遠くの……」
「そんな遠いところから来て、ひとりで頑張ってるなんて偉いな!」
アルベールさんが私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
私は慣れてるけど、キャサリンが驚いて目を剥いていた。
「レディの頭をそんな風に撫でてはいけません!」
キャサリンに怒られたアルベールさんが、大きな身体を縮めて謝っている。
なんだか、私のまわりにいるのは優しいひとばかりだなあ。
人と関わりたくなくて図書館の館長になったのに、気付けば大事にしたいひとがずいぶん増えた。
みんな私の仕事を尊重し、ある程度の距離を保ちながら見守ってくれている。考えてみたら最高の環境だ。
今さら新しい家族を作りたいとは思わないけど、きっと私は誰かと関わらなければ生きていけないのだろう。
その証拠に、今、とても幸せだと感じている。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
コンテスト向けの作品なので、カクヨムさんではここでいったん完結にしたあと、ご要望により月一くらいのペースで続けています。
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あらすじのあとに登場人物名を書いていたのを削除しました。
代わりに「ここまでの登場人物」を次に投稿します。




