一話:転生
トラックに轢かれて死んだ後――
なぜか俺は、異世界に転生した。
最初は当然、戸惑った。
だが、時間が経つにつれ、「ああ、これ異世界ラノベで見たことがある」と理解し、すぐに適応できた。
シルディア帝国。
ヴァルディス侯爵家の次男、レオン。
それが、新しい世界での俺の立場だ。
神様からチートを貰えたわけではない。
だが、赤子の頃から意識があり、前世の記憶を持っている時点で、十分すぎるほどのアドバンテージだった。
……この国の言語を一から覚えるのは、さすがに苦労したが。
この世界には、魔力がある。
そしてその魔力は、人間の三大欲求を満たすことで回復する。
さらに、使い切ってから回復することで、その容量はわずかに増える。
それに気づいたのは、三歳の頃だった。
ならばやることは一つだ。
限界まで使い、たくさん食べて回復する。
それを、ひたすら繰り返す。
言葉にすれば簡単だが――実際は地獄だった。
魔力を使い切る感覚は、体の奥を削られるような苦痛に近い。
それでも、やめなかった。
力がなければ、何も変えられないと知っているからだ。
その結果――
俺の魔力は、異常なまでに膨れ上がった。
その分、食費も馬鹿にならないが、貴族である俺には問題ない。
幼少期からの意識と財力があって、初めて成立するトレーニングだった。
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現在、俺は十二歳。
そろそろ魔力トレーニングによる成長にも、限界が見え始めていた。
単純に限界なのか、年齢によるものかは分からないが、以前よりも伸びが鈍っている。
これまでの三歳からの約十年間、俺はひたすら魔力トレーニングを続けてきた。
そのせいで、屋敷からほとんど出ない生活を送っている。
屋敷は、五歳の頃に起こした事件以来、兄や姉、父とは別の屋敷で暮らしている。
この屋敷に住んでいるのは、俺と妹と母、そして使用人が数人いる程度だ。
屋敷が別々になった原因である事件を今から説明しよう。
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――俺が五歳の頃の出来事。
それが、すべての始まりだった。
俺の妹、リリアナが生まれた時のことだ。
その時の俺は、ただ純粋に顔が見たくて、生まれたばかりのリリアナに会いに行った。
貴族の子は、生まれると魔力適正を測る儀式を行う。
俺が訪れた時は、ちょうどその儀式の最中で、兄や姉も集まっていた。
そして儀式の結果――
「――魔力適正なし、でございます」
その言葉で、空気が止まった。
「……そうか」
父の声は、あまりにも冷たかった。
腕の中で、リリアナが小さく動く。
まだ何も分かっていない。
ただ、泣いているだけの赤子だ。
「処分しろ」
――は?
一瞬、理解できなかった。
「魔力を持たぬ子など、我が家に不要だ」
淡々とした声。
まるで、壊れた道具でも捨てるかのように。
「待ってください!」
母の声。
だが――
「黙れ」
一言で封じられる。
「それとも何だ? 無価値な存在を生かす理由でもあるのか?」
……無価値?
その言葉を聞いた瞬間。
何かが、切れた。
「……ふざけるな」
気づけば、口にしていた。
「……レオン?」
視線が集まる。
だが、関係ない。
「それは――俺の妹だ」
次の瞬間。
抑えていた魔力が、溢れ出した。
空気が歪む。
床が軋む。
兄と姉が、その場で崩れ落ちる。
「……っ!」
父の表情が、初めて変わる。
「危険だな」
その一言で。
殺意が向けられた。
「ならば――まとめて処分するか」
初めて感じる父の殺気。
俺とは次元が違う、歴戦の覇者の殺気。
ああ、ここで死ぬのか。
二度目の人生も何もできなかったな。
そう思った時――
「待ってください!!」
俺と父との間に、母が現れた。
その後のことは、ほとんど覚えていない。
俺は父の殺気に耐えられず、気絶してしまったのだ。
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そしてその後、母がどうにか説得し、別の屋敷で暮らすことで収まった。
母がいなければ、あの時、俺は間違いなく処刑されていただろう。
だからこそ、母には感謝してもしきれない。
……そんな経緯で、俺はこの屋敷にいる。
あの日の出来事は、確実に俺の中に残っている。
父に殺されかけた記憶。
それがトラウマとなり、俺は父に勝てるよう、ひたすら魔力トレーニングを続けてきた。
だが――
そろそろ、その成長にも限界が見えてきた。
一度、区切りをつけるのも悪くないかもしれない。
これまで屋敷に籠って訓練ばかりしていたせいで、外の世界のことはほとんど知らない。
だから――
一度、外に出てみることにした。
そのために連れていくのは、俺の専属メイド――レイナだ。
レイナは、この屋敷に来てからずっと俺の世話をしているメイドだ。
俺が暴走した場合、始末する役目もあるらしい。
……魔力を解放して脅したら、あっさり白状した。
最初は従順なメイドだったが、本性がバレてからは、本当にメイドなのかと疑うような言動も増えた。
もっとも――
レイナは、俺と一歳しか変わらないとは思えないほど優秀だ。
だから、あえて何も言っていない。
本人も、暗殺任務が俺にバレたことが知られれば、父からどんな処分が下るか分からない。
そのため、今でも「俺は気づいていない」という体を取っている。
だから、二人きりの時は毒舌だが、他人の目がある時は従順なメイドを演じている。
そんなレイナと共に、俺はこれから街へ向かう。
これまで魔力トレーニングばかりで外に目を向けてこなかった。
だからこそ――
少しだけ、楽しみだった。
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