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狂った弱肉強食世界で最強の俺は、魔力ゼロの妹のためにすべてを壊す  作者: 黒海苔
一章:教祖誕生編

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二十七話:十二人の夜

 ――夜。


 焚き火の火が、静かに揺れている。


 昼間の喧騒が嘘のように、平原は落ち着いていた。


 簡易的に囲われた空間。


 風を避けるために組まれた枝の壁の内側に、十二人が集まっている。


挿絵(By みてみん)


 風呂を終え、着替えたばかり。


 まだ髪が少し湿っている者もいる。


 だが――全員、明らかに違っていた。


 汚れが落ちた。


 服が変わった。


 それだけではない。


 目の奥に、ほんの少しだけ光が戻っている。


「……なんかさ」


 最初に口を開いたのは、ミレイナだった。


 腕を組み、少し照れたように視線を逸らす。


「普通に……やばくない?」


「やばいって?」


 ルミナが首を傾げる。


 湯上がりのオレンジ色の髪を指でいじりながら、まだ少し浮かれている顔だ。


「いやその……」


 ミレイナは言葉を探す。


「こんなちゃんとした服とか、普通に着てんのが……なんか、意味分かんないっていうか」


「分かる!」


 ルミナが即座に食いついた。


「私、最初ちょっと怖かったもん!」


「怖いってなんだよ」


「だってさ!」


 ルミナは両手を広げる。


「こんなの貰っていいのかなって!」


 その言葉に、何人かが静かに頷いた。


 フィリアは自分の袖をそっと撫でていた。


 淡い髪の下で、目元が少しだけ和らいでいる。


「……清潔な服って、こんなに軽かったんですね」


 小さな声。


 それを聞いて、セラフィナが勢いよく頷く。


「分かります! なんか、体まで軽くなった気がします!」


「あなたは元から軽そうだけどね」


 ルシアが冷静に言う。


「どういう意味ですか!?」


「そのままの意味です」


 セラフィナがむっとする。


 そのやり取りに、リュシエラが小さく笑った。


「でも、いい顔になったわ」


「え、私ですか?」


「みんなよ」


 リュシエラは穏やかに周囲を見る。


 焦らせず、責めず、ただそこにいるだけで空気を落ち着かせる。


「……奪われないのが、逆に落ち着かない」


 ぽつりと呟いたのは、エルミナだった。


 灰色がかった短い髪の少女は、自分の服の裾を少しだけつまんでいる。


 道具を扱う時と同じ無表情。


 だが、その指先だけは少し強張っていた。


「そのまま持ってていいって言われると……変」


「……あー、それな」


 ミレイナが苦笑する。


「そのうち取り上げられる前提で考えちゃうんだよね」


 沈黙が落ちる。


 誰も否定しない。


 それが“普通”だったからだ。


「……でも」


 小さく声が落ちる。


 シエルだった。


 白銀の髪を乾かすでもなく、膝を抱えて座っている。


 猫のような耳が、焚き火の音に合わせてわずかに動いた。


「……あの人は、やらない」


 短い言葉。


 だが、確信があった。


 全員の視線が、自然と集まる。


「……分かる」


 リュシエラが静かに頷いた。


「約束は守る人だと思う」


「根拠は?」


 ミレイナが聞く。


 少しだけ挑発的に。


「ないわ」


 即答だった。


「でも、そういう人間は分かるの」


 一拍。


「……あの人、嘘つかないでしょ」


 ミレイナは一瞬だけ黙る。


 そして。


「……まあ、それはそう」


 あっさり認めた。


「嫌なことは嫌って言うし、やらないことはやらないって言うし」


 ルシアが続ける。


「逆に言えば、やると言ったことはやる」


「めっちゃ分かりやすいよね!」


 ルミナが笑う。


「怖いくらいにね」


 ミレイナが肩をすくめる。


 その横で、カルネリアは何も言わずに座っていた。


 白に近い灰髪。


 長身。


 新しい服を着ても、表情は変わらない。


 だが、焚き火を見つめる目は、昼間よりも少しだけ柔らかい。


「カルネリアはどう思うの?」


 ルミナが聞く。


「……何が」


「あの人のこと」


 カルネリアは少しだけ考えた。


「命令が短い」


「そこ!?」


 セラフィナが思わず声を上げる。


「分かりやすい」


 カルネリアは淡々と言う。


「だから動ける」


 それだけ。


 だが、カルネリアらしい答えだった。


 その時、少し離れた木の陰で。


 レオンは十二人の会話を聞いていた。


 姿は見せていない。


 邪魔する気もない。


 肩の上では、シルフィアが頬杖をつくようにして浮いている。


「ねぇ、聞こえてるよね」


「ああ」


「行かないの?」


「行く必要がない」


「盗み聞きしてるみたいで悪くない?」


「情報収集だ」


「そういうところだよ」


 シルフィアは呆れたように言う。


 だが、その目は十二人から離れない。


「でも、いい雰囲気だね」


「そうだな」


「みんな、少しずつ近づいてる」


「ああ」


 レオンは短く答えた。


 火の向こうでは、レティシアが静かに口を開いていた。


「……あの人は、“支配”していない」


 小さな声。


 だが、はっきりしている。


「……は?」


 ミレイナが眉をひそめる。


「普通、こういう状況なら」


 レティシアは続ける。


 薄い翠色の髪が火の光を受けて揺れる。


 姿勢は綺麗で、声にも妙な品がある。


 だが、その表情はどこか慎重だった。


「恐怖で縛るか、利益で縛るか……どちらかです」


 一拍。


「でも、あの人は違う」


 視線を上げる。


「“選ばせている”」


 沈黙。


 誰も、すぐには言葉を返せなかった。


「……あー……」


 ミレイナが頭を掻く。


「だからムカつくのかも」


「なんで?」


 ルミナが聞く。


「だってさ」


 ミレイナは笑った。


「やるかやらないか、自分で決めろって言われると」


 一拍。


「逃げられないじゃん」


 火がぱちりと鳴る。


「“やらされてる”なら、言い訳できるけどさ」


 ミレイナは少しだけ視線を逸らした。


「自分で選んだら、全部自分の責任じゃん」


 その言葉に、何人かが静かに頷いた。


 ルシアは目を伏せる。


「責任を持たせる。だから動きが変わる」


「分析しないと気が済まないの?」


 ミレイナが言う。


「癖です」


「分かる」


 エルミナが小さく頷いた。


「仕組みがあると、安心する」


「エルミナは道具だけじゃなくて、考え方も工作っぽいね」


 ルミナが笑う。


「……工作っぽい?」


「組み立てる感じ!」


「悪くない」


 エルミナは短く言って、服の裾から手を離した。


 その空気を見て、シルフィアが小さく笑う。


「あの子たち、もう仲間みたい」


「まだだ」


「厳しいね」


「仲間になるには時間がいる」


「でも、始まってるよ」


 レオンは否定しなかった。


 焚き火の前で、ルミナがぱっと顔を上げた。


「でも、私はその方が楽しいよ!」


「は?」


 ミレイナが目を細める。


「だってさ!」


 ルミナは新しい服の袖をひらひらさせる。


「ちゃんとやったら、ちゃんといいことあるんだよ?」


 一拍。


「さっきみたいに!」


 まっすぐな言葉。


 理屈じゃない。


 感覚だ。


「……単純だな、お前」


 ミレイナが呆れたように言う。


「えへへ」


 ルミナは笑った。


 そのやり取りに、ほんの少しだけ空気が軽くなる。


 その時。


「……ねえ」


 静かに声が落ちる。


 アルティナだった。


 薄い金色の髪を胸元に垂らし、長い耳を少し伏せている。


 膝を抱え、身体を小さく縮こませていた。


「……私たちって」


 一拍。


「……これから、どうなるのかな」


 その言葉。


 空気が、また静まる。


 誰も、すぐには答えない。


 分からないからだ。


 未来が。


 フィリアがそっとアルティナの隣に寄る。


「……不安ですか?」


「……うん」


 アルティナは小さく頷いた。


「でも……昨日よりは、怖くない」


「それなら、十分です」


 フィリアは優しく言った。


「怖くなくなるのは、少しずつでいいと思います」


 アルティナは、その言葉に少しだけ肩の力を抜いた。


 その時。


「……作るんでしょ」


 ぽつりと。


 シエルが言った。


「……え?」


「自分たちで」


 一拍。


「……あの人、そう言ってた」


 顔は伏せたまま。


 だが、声は揺れていない。


「飯も、場所も、全部」


 ゆっくりと顔を上げる。


「……ならさ」


 ほんの少しだけ。


 笑った。


「悪くないと思う」


 その言葉。


 誰も否定しなかった。


 できるかどうかは分からない。


 でも――“選べる”なら。


 やるしかない。


 その空気が、確かにそこにあった。


「……シエルが笑った」


 ルミナが小さく言う。


「笑ってない」


「笑ったよ!」


「笑ってない」


「ね、セラフィナも見たよね?」


「はい! ちょっとだけ!」


「見てない」


 シエルの耳が、わずかに赤くなる。


 それを見て、リゼが静かに呟いた。


「……赤い」


「うるさい」


 また笑いが起きた。


 小さく。


 だが、さっきよりも自然な笑いだった。


 木陰で見ていたシルフィアが、そっと息を吐く。


「よかったね」


「何がだ」


「シエル、ちょっと笑った」


「そうか」


「嬉しくないの?」


「悪くはない」


「素直じゃないなぁ」


 シルフィアは楽しそうに笑った。


 レオンは、焚き火の周りに並ぶ十二人の影を見ていた。


 まだ小さな集まり。


 弱く、未熟で、傷も多い。


 だが――確実に、中心になり始めている。


(……悪くない)


 そう思った瞬間、シルフィアが肩の上で小さく言った。


「レオン」


「なんだ」


「あの子たち、ちゃんと見てあげてね」


「見ている」


「そうじゃなくて」


 シルフィアは少しだけ真面目な声になる。


「使えるかどうかだけじゃなくて」


 一拍。


「ちゃんと、人として」


 レオンはすぐには答えなかった。


 火の音だけが聞こえる。


 やがて、短く言う。


「……分かっている」


 シルフィアはそれ以上何も言わなかった。


 焚き火が、静かに揺れる。


 その光の中で、十二人の影が並んでいた。


 それはまだ、小さな集まり。


 だが――確実に。


 “中心”になり始めていた。

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