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狂った弱肉強食世界で最強の俺は、魔力ゼロの妹のためにすべてを壊す  作者: 黒海苔
一章:教祖誕生編

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二十五話:最初の形

 ――夕方。


 太陽が傾き始め、平原に長い影が落ちる頃。


 最初の“形”が、ようやく見え始めていた。


 簡素な囲い。


 粗いが、風を防ぐ壁。


 枝と布で作られた屋根。


 そして、焚き火を中心にした、ひとつの“場所”。


 ただの野営とは違う。


 偶然できたものでもない。


 人の手で作られた、“意図のある空間”。


「……できた、か」


 レオンが低く呟く。


 完成とは程遠い。


 雨が降れば崩れる場所もあるだろうし、寝床と呼ぶには粗すぎる。


 だが――最初としては十分だった。


 重要なのは、“ここに居てもいい”と思える場所ができたこと。


 それがあるだけで、人は動ける。


「ねぇ、レオン」


 肩の上で、シルフィアが小さく言った。


「なんだ」


「昨日まで何もなかったのに、すごいね」


「人が動けば、形になる」


「それを簡単に言うところがレオンだよね」


 シルフィアは平原を見渡しながら、少し楽しそうに笑った。


「でも、みんな顔が違う」


「ああ」


「怖がってるだけじゃなくなった」


 その言葉通りだった。


 まだ不安はある。


 疲労もある。


 だが、昨日までのような虚ろな目ではない。


 自分たちの手で、何かを作った。


 その実感が、確かに表情へ出ていた。


「……すごい」


 ぽつりと、誰かが呟いた。


 振り返ると、ルミナだった。


 汗でオレンジ色の髪を張り付かせながら、それでも笑っている。


「ね、見て! ちゃんと“場所”になってる!」


 両手を広げて見せる。


 誇らしげに。


 誰かに褒められるためではない。


 純粋に、自分たちで作ったことが嬉しいのだ。


「ルミナ」


「はい!」


「よく動いたな」


「……え」


 ルミナが一瞬、固まった。


 そして次の瞬間、ぱっと顔を明るくする。


「ほ、褒めました!? 今、褒めましたよね!?」


「事実を言っただけだ」


「それでも嬉しいです!」


 彼女はそのまま、また走っていく。


「みんなー! アークレイド様に褒められた!」


「それ言う必要ある!?」


 周囲から笑いが起きる。


 小さな笑い。


 だが、確かに場を明るくする。


(……ああいうのが一番広がる)


 レオンは内心で評価した。


 ルミナの明るさは、命令よりも速く空気を変える。


 恐怖よりも自然に人を動かす。


 それは、集団にとってかなり重要だった。


「ほら、そこズレてるって言ったでしょ!」


 次に響いたのは、ミレイナの怒声だった。


 簡易住居の骨組み。


 数人で組み上げている最中だ。


「ちゃんと見なさいよ! 歪んでるから!」


「で、でもこれで……」


「これでいいわけないでしょ!」


 バシッ、と木を叩く。


「ここ直しなさい。あとで絶対崩れるから」


 口調は強い。


 容赦もない。


 だが、言われた側は反発しない。


 分かっているからだ。


 ミレイナの言う通りにした方が、上手くいくと。


「……こう?」


「そう。それ」


 短く頷く。


 それだけで、次が進む。


「ミレイナ」


 レオンが声をかける。


「何よ」


「現場は任せる」


「……は?」


「見えてるだろ」


 一瞬、ミレイナは目を丸くした。


 だが、すぐに視線を逸らす。


「……まあ、あんたよりは見えてるかもね」


「なら回せ」


「簡単に言うわね」


 文句を言いながらも、ミレイナはすぐに周囲へ指示を飛ばした。


「そこ二人、支えに回って! あと、余ってる布こっち!」


(完全に現場監督だな)


 本人は自覚していないだろう。


 だが、あれはもう“指揮”だ。


 少し離れた土の区画では、レティシアがしゃがみ込んでいた。


 薄い翠色の髪を風に揺らしながら、土の深さを確かめている。


「ここ、少し深すぎます」


 静かな声。


「水が溜まりすぎる」


「え、そうなのか?」


「はい。少しだけ浅くしてください」


 説明は簡潔。


 だが正確だ。


 指示された男が土を直す。


 すると、水の流れが変わった。


「……ほんとだ」


 水が溜まらない。


「すげえな……」


 思わず声が漏れる。


 レティシアは何も言わない。


 ただ、一歩引く。


 目立たない位置へ。


「レティシア」


 レオンが声をかける。


 彼女は静かに顔を上げた。


「はい」


「お前は前に出たがらないな」


「……必要がなければ」


「理由は」


「目立つと、余計なものも集まります」


 短い返答。


 だが、妙に重い。


 レオンはそれ以上聞かなかった。


 シルフィアが小声で言う。


「やっぱりあの子、何かあるね」


「ああ」


「気になる?」


「今は使える。それでいい」


「ほんと、そういうところ怖い」


 シルフィアは呆れたように言いながらも、どこか楽しそうだった。


「はい、ここ押さえて」


 別の場所では、リュシエラが穏やかに声をかけていた。


 青みがかった長い髪をゆるく結び、柔らかく微笑んでいる。


 今度は屋根の布張りだ。


「風、こっちから来るから少し角度つけて」


「こうですか?」


「そう、それでいいわ」


 微笑む。


 安心させる。


 その空気の中で、作業は崩れない。


「焦らなくていいのよ。崩れたらまたやり直しになるだけだから」


 その一言で、全員の手が落ち着く。


「リュシエラ」


「はい?」


「お前は怒らないな」


「怒るより、落ち着かせた方が早いので」


 柔らかい返事だった。


 だが、その中身はかなり現実的だ。


(支えだな)


 戦力ではない。


 だが、崩壊を防ぐ。


 重要な役割だ。


 その横で、カン、と軽い音がした。


 エルミナが新しい器具を試していた。


 灰色がかった短い髪。


 無口で、表情の変化は少ない。


 だが、手元はよく動く。


「……これで」


 枝を固定。


 紐で結ぶ。


 簡易の支柱ができる。


「これ、使える」


 近くの者に渡す。


「倒れにくくなる」


「おお……!」


 すぐに採用される。


 広がる。


「エルミナ」


 レオンが声をかける。


「……なに」


「お前は、道具を作れるのか」


「少し」


「なぜ黙っていた」


「聞かれてない」


「……そうか」


 レオンは短く息を吐いた。


 この手の人間は、自分から売り込まない。


 だが使えば強い。


(改善が早い)


 一度見つけた効率を、すぐ全体に回す。


 これもまた、強さだ。


「ねぇ、あの子すごいね」


 シルフィアが言う。


「道具を作るのって、魔法みたい」


「魔法より便利な時もある」


「人間ってやっぱり変な方向にすごいね」


「工夫だ」


「レオン、それ好きだね」


 その間にも、エルミナの作った支柱はすぐに数人へ渡り、屋根の固定が明らかに早くなっていく。


 そして、最も外側。


 ドン、と重い音。


 カルネリアが木材を放り下ろした。


 白に近い灰髪。


 長身。


 無表情。


 すでに何本運んだのか分からない。


 だが呼吸は乱れていない。


「カルネリア」


「……」


 彼女はゆっくりとこちらを見る。


「疲れていないのか」


「問題ない」


「そうか」


 それだけ。


 会話は終わる。


 カルネリアはまた次の木材を取りに行った。


 何も言わずに。


 何も求めずに。


(ああいうのがいるから、全体が回る)


 目立たない。


 だが、一番仕事をしている。


 そういう存在だ。


「……あの子、本当に人間?」


 シルフィアがぽつりと言う。


「多分な」


「今ちょっと曖昧だったよ」


「気のせいだ」


 中央では、焚き火の火が安定していた。


 その近くに、シエルがいる。


 白銀の髪と猫の耳を揺らしながら、じっと火加減を見ていた。


 誰かが木を入れすぎると、黙って止める。


 火が弱くなれば、すぐ足す。


 まだ料理とは言えない。


 だが、“場”を維持している。


「シエル」


「……なに」


「火を見るのは好きか」


「……別に」


「ならなぜそこにいる」


「消えたら困るから」


 短い返事。


 それだけ。


 だが十分だった。


(繋ぎだな)


 人と人。


 場と場。


 それを繋ぐ位置にいる。


 本人に自覚はないだろうが、火の周りには自然と人が集まり始めている。


 リゼはその少し外にいた。


 黒髪を揺らし、森の方を見ている。


 完全には輪に入らない。


 だが、離れすぎてもいない。


 レオンが近づくと、リゼが短く言った。


「……異常なし」


「見ていたのか」


「うん」


「休め」


「まだ動ける」


「休め」


 一拍。


「……了解」


 リゼは小さく頷き、焚き火の近くへ移動した。


 シエルがちらりと見る。


「……そこ」


「……ここ?」


「近すぎ」


「……そう」


 リゼは少しだけ離れて座る。


 それを見て、セラフィナが笑った。


「なんか猫同士みたいですね!」


「うるさい」


「すみません!」


 また小さな笑いが起きた。


 気づけば、平原の空気が変わっていた。


 誰かに言われたからではない。


 殴られるからでもない。


 自分たちで動いている。


 それが、明確に分かる。


「……いいね」


 シルフィアが呟いた。


「何がだ」


「みんな、役割がある」


「ああ」


「レオンが作ったの?」


「違う」


 レオンは全体を見渡した。


「元からあったものを、見える場所に置いただけだ」


「それが難しいんだと思うけどなぁ」


 シルフィアの声は、少しだけ柔らかかった。


 レオンは、もう一度全体を見た。


 最初は、ただの群れだった。


 意思も、目的もない。


 だが今は違う。


 それぞれが動き。


 それぞれが役割を持ち。


 そして――


(浮いてきたな)


 十二人。


 明確に、他よりも動いている。


 回している。


 支えている。


 偶然じゃない。


 必然だ。


 レオンは一歩、前に出た。


 声を張ったわけではない。


 ただ歩いただけ。


 だが、自然と視線が集まる。


 動きが、少しずつ止まる。


「今日は、ここまででいい」


 短く言う。


 一瞬の沈黙。


 そして、あちこちで息が抜けた。


 誰もが疲れていた。


 だが、顔は悪くない。


(……いい顔してるな)


 最初とは違う。


 明らかに。


 その中で、レオンは十二人を順に見た。


(こいつらは、分けるか)


 評価する。


 選ぶ。


 それは――次の段階だ。


「明日、働きが良かった奴は前に出ろ」


 ざわめきが走る。


「褒美を出す」


 その一言。


 空気が、変わった。

面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

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