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Hero Incident -ヒーローインシデント-  作者: 病葉
第二章 「カプリース」 川島詩子編
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第二十五話 詩う者

「ふへぇ~、これが電子黒板ですか~」

南は物珍しそうに画面を見つめている。


「なんかおっきいテレビですね!」


「まぁ、ぶっちゃけ同じだな。家庭向けテレビの販売はかなり業績厳しいから、企業や法人向け商品の試行錯誤の結果、BtoB戦略製品の一つだ」


「びーとぅびー…?」


「企業が企業に売るってことだ」


「ふーん、難しい事は分かりませんがこれで亮さんが授業をするんですか?」


「いや、立ち会うだけだよ。俺は使い方の説明や補佐するだけ」


「そうなんですか。学校に亮さんいるからビックリしちゃいましたよ」

笑いながら話す南は嬉しそうだ。


「そうだなまさか南の高校だったとはな、俺も驚いたよ。多分三日間ほど放課後にこの製品を使って授業するだろうから、その時はよろしくな」


「わかりました!その授業、絶対、必ず参加しまーす!」

南はピースして答えた。


「製品の準備はできた?あら、あなたは喫茶店の…」

妃さんが教室に様子を見に来た。


「あ、…」


「ああ、妃さんこの子は知り合いの喫茶店でバイトしてる南です」


「初めまして!じゃないですね…花岡南です」


「あら、ここの生徒さんだったのね」


「ええ、偶然会ったんですよ!この人は俺の会社の先輩、高瀬妃さん」


「どうもよろしく。コーヒーおいしかったわ」


「あ、ありがとうございます」

南は緊張しているようだった。


「それで準備はできた?」


「はい、準備は終わりました」


「そう、じゃあ授業内容が決まったからテストしておきましょう」


「あ、それじゃあ私行きますね!」

南は少し急ぎ足で教室から出て行こうとする。


「じゃあまたな」

手をあげて挨拶し南と別れた。すると妃さんは半笑いで近寄り「あらあら私はお邪魔だったかしら」と話、笑みを浮かべている。


「もう、からかわないでください!」


「これは運命の出会い、遅れてやってきた青春というやつかしら?」


「妃さん!」

こんな恥ずかしい思いをしたのは小学生以来だ。「ごめんなさい」と答える妃さんはいつになく笑っており、この先もからかわれるのは容易に想像できた。


「はい、テストするんでしょ!早く始めましょう」


そうしてこの日の仕事は終了し、俺たちの参加する授業は一週間後、三日間連続で放課後に行われ、生徒には事前に予告して参加希望者だけで行われる事になった。



そして一週間後の授業初日―――――――



「き、妃さん凄い事になってますね…」


「え、ええ」


授業が開始される教室、そこには当初予定した人数を遥かに上回り、生徒たちが放課後にもかかわらず大勢詰めかけていたのだ。椅子の数は足りず立ち見の生徒が沢山いる。


「いやー凄いですね。これだけ生徒が自主的に集まるとは、さすが大企業の松澤ですね。みな興味津々だ」

今日授業を行う先生も驚いている。


「あの、どういった予告をしたんです?」


「そりゃもう!日本を代表する松澤の先生お二人が何でも教えてくれるって宣伝しておきましたよ!」


先生にあまりにも笑顔で答えられた俺は返答する言葉がなく、そして授業が始められた。


「質問に答えるのはあなたが担当だから」

妃さんは俺を睨みつけて指示をだした。最悪だ。


授業自体はスムーズに進む、オンライン化され動画や音声も再生される電子黒板の様子にみな驚いたリアクションをとってくれて、初日としては十分成功のようだった。そして最後の質疑応答の時間になった。


最初のうちは簡単な質問ばかりで楽だったが、松澤での給料はいくらかだとか、社長になるにはどうすれば良いかなど、だんだん答えにくい質問になってきたのだ。


「はい!」


「じゃあそこの女の子」


「病葉さんは今彼女いますか?」

でた、学生が大人にする質問と言えばこれだろう。俺はちらりと妃さんの方を見ると口元を手で隠しているが、あれは確実に困っている俺を見て笑っている。


「こらそんな事聞くなんて失礼じゃないか!」


「いえ、先生大丈夫ですよ。別に隠すような事じゃないんで、えー、俺は彼女はいません!」

なぜか、おおーっと生徒たちに反応された。


「それと、もう一人後ろにいる私の先輩なんですが、彼女も今フリーです!」

おおおおっーと俺よりも大きな反応があった。特に男子生徒からだが、そこにさらに俺はたたみかけた。


「あー、ですが先輩はやめといた方が良いよ、実は怒ると超恐い!そりゃもう鬼のようにボッコボコにされ…」

そう生徒に話しかけながら、笑ってやろうと妃さんの方を見ると、物凄く睨んだ形相でこれは俺にしか分からないであろう、会社に戻ったら覚えておけと言わんばかりの凄まじい圧を感じとってしまった。


「というのは冗談で、凄く親切で優しい先輩なんだよ~」

笑顔で答えるしかなかった。もしかすると生徒も感じ取ってくれたかもしれない。


「じゃあ次の質問ある人」


「はい!はい!」

ひときわ大きな声で、ぴょんぴょんジャンプして手を挙げる生徒がいた。見るとそれは南だった。


「はい、じゃあそこのショートカットの女の子」


「はい、えと病葉さんと高瀬さんお二人は特別な関係なんですか?」

また、南までからかうつもりか?


「いいや、会社の先輩と後輩で今言ったとおりだよ」


「はーい!わかりましたー!」


こうして質疑応答も終わり今日の授業は終了した。妃さんは今日の授業をふまえた明日の打ち合わせがあるので会議室へ向かった。俺は教室の後かたずけと明日の授業で紹介できる何か新しいアプリはないか考えながら教室で作業していた。


「亮さん!お疲れさまです」


「おう、南か驚かせないでくれ」

教室に突然南が現れた。


「今日の授業すっごく楽しかったです!」


「そうか、楽しんでくれて良かった。けど俺を困らすような質問はもう止めてくれよ」


「だって、気になったんだも~ん。それに亮さん女子の間でカッコいいって評判でしたよ?」


「こら、また俺をからかう!」


「だって~」


「あのな、南。俺がどうして彼女がいないか知ってるだろ?」


「・・・」


「ごめんなさい…」


「・・・」


「もういいよ、じゃあ明日紹介する教材アプリどれが良いか一緒に考えてくれ」


「うん!」

南は飛び切りのいつもの笑顔を見せて返事をしてくれた。


「じゃーん!これどうかな可愛い動物が動き回るアプリなんだけど」


「亮さん高校生なめてます?そんなの小学生が見るやつじゃん!」


「そ、そうか…」


二人でアプリについて、あーでもないこーでもないと話していると近くから音楽が流れてくるのに気がついた。それはとても美しいバイオリンの音色のようだった。


「南、この高校は管弦楽部もあるのか?」


「管弦楽部なんてないですよ、あるのは確か…軽音楽部じゃなかったかな?」

おかしいなこれは確かにバイオリンの音色だが。


「あ、もしかしたら!亮さん行ってみます?音楽室!」

この時の音色はとても心地良くもっと近くで聞いてみたいという衝動にかられた。


「ああ、たのむよ」

南に案内され一つ上の階に上り、音の鳴る方へと向かった。そして近づくにつれその音にまるで吸い込まれるように音楽室にたどり着いた。


部屋のドアは開いており、そこから中に足を踏み入れると世界が変わった。


一人の少女が奏でるそのバイオリンの旋律はまるで、押し寄せる高波を真正面から受けるような衝撃であり、次々と奏でられる深い音色の音は脳に直接溶け込むように俺の意識を支配した。


時間も忘れ聞き入るとはまさにこの事だった。少女は演奏が終わるとこちらに視線を向けた。


パチッ!パチッ!パチッ!

南が拍手をしているのにつられて、俺も拍手をした。そして少女はその拍手に答えるようにお辞儀をしたのだった。


「花岡さん聞いてくれていたのね、あら?私ドアを開けっぱなしていたみたいでごめんなさい」


「ううん!詩子ちゃんの演奏すごかった!むしろ聞けて超ラッキーだよ!」


「あら、ありがとう。それでその隣の男の人は誰かしら?」


「この人は今学校に仕事できてる、私の友達みたいな人で、亮さんっていうの」


「で、この子が詩子ちゃん!詩子ちゃんは凄いんだよ世界中で有名なバイオリニストのなの!最近うちの高校に転校してきたんだよ」


「そんな世界中でなんて…初めまして川島かわしま 詩子うたこと申します」


「あ、こちらこそ初めまして病葉亮です。あの凄い素晴らしい演奏でした、こんな魅力的な24番聞いたのは初めてです」


「あら、パガニーニをご存知ですのね。そのように褒めていただいてありがとうございます」


「亮さんクラシック知ってるんですか?」


「ああ、大好きだよ」


「へぇー意外。私全然知らなくて…けど詩子ちゃんが凄いのはわかる!」


「ありがとう花岡さん。でももう行かなくちゃいけない時間だわ。また明日お話しましょう」


「うん、また明日ね」

そう言うと川島さんは素早くバイオリンと弓を片付け、出入口の前でお辞儀をして帰って行った。去った後でも彼女の演奏の余韻が心に残っており、きっと素晴らしい演奏家なのだろうと実感した。


「亮さんパガニーニって何ですか?」

南は不思議そうな顔をして聞いてきた。


「さっき川島さんが演奏していた曲を作曲した、昔の有名なバイオリニストの名前だよ」


「そうなんだ~、何だか取り込まれるような曲だったな~」


「ああ、そうだな」


ニコロ・パガニーニは200年以上前のバイオリニストで当時は彼にしか演奏できない難曲を演奏する超絶技巧奏者として名声を手にした。しかしそんな偉大な奏者は死後、教会で埋葬を断られる事になる。その理由はあまりにも演奏が上手すぎるため周りでは様々な噂がささやかれたからだ。彼のそばには悪魔が見える。両足が浮いている。など…


そう彼は名声を得るが、同時にこうも呼ばれた。


『悪魔に魂を売り渡し、その代償で演奏技術を手に入れたのだと』



次回 【第二十六話 青春のカプリース】


YouTubeリンク Paganini Caprice no.24

https://www.youtube.com/watch?v=PZ307sM0t-0


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