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Hero Incident -ヒーローインシデント-  作者: 病葉
第二章 「カプリース」 川島詩子編
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第二十四話 思い出の風

あの銀行強盗事件から数日が経ち、事件は予想外の進展を見せた。俺は今パソコンでそのニュースや論評を見ている。


全国にある児童養護施設と児童相談所に多額の寄付金が寄せられる事態となり、これをマスコミは大々的に報道しているのだ。そしてその寄付金の合計額が先日の銀行と景品交換所の連続強盗の被害金額とピッタリ一致していたのだった。


テレビでははっきりと明言しないが、ネットではこの二つは関連しているという説が飛び交い、連続強盗事件が一種の正当化される論調へと変わり始めていた。さらに寄付金が贈られると同時にネットでは匿名で、児童養護施設での管理者の虐待映像がリークされ、今では過去の暴力及び性暴力事件を例に取り沙汰され、児童間のいじめの問題までも議論され始めていた。


「まるでネズミ小僧みたいな事件だね」

植木さんが隣に立ち話しかけてくる。


「ええ、あんなに用意周到に強盗して、まさか寄付するなんて…犯人の目的がわかりません」


「いやいや、案外これが目的だったのかもしれないよ。地上波メディアでは連日、子供の虐待問題を取り上げ、ネットでは様々な意見が飛び交っている」


「つまり世直しが目的ですか?」


「さあそこまでは分からないが、何かあるのかもね」


「・・・」


「そうだ、二人に提案があるんだ。ちょっと来てくれないかな」

そう植木さんが話すとデスクに俺と妃さんを集めた。


「この前の会議で決定したんだけど、わが社の大型ディスプレイを利用した企業向け新製品、電子黒板の製品モニターを探してきてくれないかな?はい、これがその製品の概要ね」


「電子黒板ですか」

資料に目を通し確認する。


「すごい製品だとは思いますが、俺営業なんてした事ないですよ…」


「大丈夫、妃ちゃんと二人で行ってもらうし今回は買ってもらうんじゃなくて無償で設置してデータ収集が目的のモニターだから、売り込みはしなくて良いよ」


「先生の指示でしたらやりますが、なぜ急に情報収集の仕事を開発部で受けたんですか?」


「実はね、最初は製造部の仕事だったんだけどモニター候補先を見て引き受ける事にしたんだ。はいこれがモニター候補先」

植木さんは一枚の紙を見せ俺と妃さんは確認した。


そこには大手会社の名前がならんでおり、中には病院や学校も候補としてならべられていた。そしてその中に見覚えのある名前を見つけたのだ。


「あれ灯星ひせい高校って、あの捕まった犯人の勤め先じゃないですか?」


「そう、そのとおり!もしかすると何か手がかりがあるかもしれないと思ってね、それで今回この仕事を引き受けたんだよ」


「そうですか、確かに何かつかめるかもしれません」


「どうかな?二人で行ってみない?」


「分かりました行ってみます」


「よし、じゃあ決まりだ。病葉君は製造部から製品を受け取って車に積み込みね。妃ちゃんは高校にアポ取っといて」


「はい」

こうして俺たちは灯星高校に向かう事になった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



当日になり、製品を積み込み出発の準備を整えそして俺と妃さんは高校に向けて走り始めていた。


「まさか大人になってから高校に行く事があるなんてなー、妃さんはどこの高校だったんですか?」


「私は大学卒業までずっとパリで過ごしたわ」


「パ、パリですか!?妃さんって凄いんですね」


「凄いかどうかは知らないけど、親が外交官をしていてね。それで私もフランスで長く生活したのよ」


「へぇ~、俺なんか学生生活中はバイクを乗り回す事ばかりであんまり青春とか経験ないんですよね」


「私も同じようなものよ、大して思い出はないわ」

その妃さんの思い出の話方に何か重たいものを感じたので、俺は話題を変えた。


「着いたらまず校長先生に会うんですよね?」


「ええ、その予定よ。概要を説明して設置してもらえるように交渉するわ」


「俺、上手く話せるかな」


そうこうしている内に、高校へと到着した。尼宮市立灯星高校は尼宮市のほぼ中心に位置し生徒数も多く県内有数の大きな高校だ。そして俺たちは校内に入り応接室に通された。そしてすぐに校長先生がやってきた。


「初めまして、私がここの校長をしています赤根間あかねま まことです」


「初めまして、松澤開発部の高瀬とこちらが病葉です。本日はお忙しい中時間を作って頂きありがとうございます」

自己紹介し頭を下げるとソファーに案内された。


「では早速事前にお伝えしたモニターの件ですがこちらが製品の概要です」

妃さんは慣れた様子で製品の説明を始め、俺はただ聞いているだけだった。


そして周りを見回してみると、謎の絵画や魚を咥えた熊の置物、そして何かの大会のトロフィーや盾が飾られている。いかにも学校といった感じでとても懐かしい感情にとらわれた。学生の頃はよくこのような部屋に呼び出され説教されたものだ。


「・・・」


「で、いかがでしょうか?是非わが社の製品を使っていただき使用した感想を生徒さんと教員から頂きたいのですが」


「もちろんお受けしますよ。こんな先進的な物を使って教育できるなんてうちの生徒もきっと喜んでくれると思います」

校長は満面の笑みで了承してくれた。


「ありがとうございます」


「実は、わが校の校舎は建て替えたばかりでしてね。ここの窓から見えるあの向かいの建物が旧校舎なんですが、老朽化のため建て替えついでに心機一転何か新しい取り組みを始めたいと職員と話していたところなんです」

校長が指さす方を見てみると、いかにも昔の学校といった感じの古びた建物が見えた。


「それに…ご存知かと思いますが、この前の銀行強盗の事件の件もありまして学校の雰囲気も、現状あまり良くありません」

その言葉に反応してしまい俺はつい質問してしまった。


「あの、捕まった教師はどういった人だったんですか?」

なんの脈絡もなく質問したので妃さんが一瞬俺を睨んだように見えた。


「ええ、彼は…彼はいたって真面目な教師でした。特に仕事でトラブルもなく、なぜあのような事件を引き起こしたのか、私共も疑問でなりません…」


「そうですか…」

それ以上は追及できず俺は再び口を閉ざした。


「そんな事もあって今では教員全員一丸となって、学校のイメージや信頼を回復するために務めている次第です」


「そうでしたか、でしたらちょうど良いかもしれません。わが社の製品もお役立てください」


「ありがとうございます。ただ、わが校の教員はみな年寄りばかりでこんなハイテクな機械には慣れていなくて、とても上手く使えるとは思えないんですよ。今説明を聞いた私でさえなかなか理解するには難しい話ばかりで…」


「すみません、もっと分かりやすく説明を…」


「いやいや、こんな老いぼれに説明するよりもお願いがあるんですが…」


「何でしょうか?」


「お二人に授業に立ち会って欲しいんです。そうすれば私も安心して生徒たちに正しい教育ができます」


「私たちがですか?それは構いませんがお邪魔になりませんか?」


「いえいえ、あくまで教師が製品の使い方で困った時の補佐するだけで結構ですので」


「そうですか分かりました。ではそれで日程を決めましょう」


こうして学校側と話は成立し、三日間だけ学校の電子黒板を用いた授業に立ち会う事が大まかに決まり、そしてまた明日に教師陣を交えて授業の内容を決めるとのことで今日のところは話がまとまった。


「ここの校長先生は良い人みたいですね。それにまさか授業に立ち会う事になるなんて、緊張しますよ」


「私は学生の頃から発表ごとは得意で慣れてるわ」


「さすが、おフランス育ちは違いますねぇ~」

バンっと背中を叩かれる。


「馬鹿な事言ってないで、仕事は私が請け負うからあなたは事件の手がかりを探すのよ!」


「分かってますよ」

とは言ってもどう手がかりを探せば良いやら俺は深く悩んだ。


そして翌日―――――――


今日は夕方から灯星高校に来ていた。妃さんは授業が終わった教師陣と電子黒板を効果的に使う授業方法を会議室で打ち合わせしている。


そして俺は教師の一人、恐らく体育教師だろうかジャージ姿の先生に手伝ってもらい製品を搬入し、とある教室で設置作業をしていた。

「手伝っていただいて、どうもありがとうございます」


「いえ、他になにか手伝う事はありますか?」


「後は製品の接続や準備だけなんで大丈夫です。ありがとうございました」


「そうですか、また何かありましたら呼んでください」


俺は会釈し続きの作業に取り掛かった。体育教師を見るとつい緊張してしまうのは俺だけだろうか。昔はよく体育教師にビンタされた、その記憶がはっきりと蘇る。今の時代はそういった事もないのだろうが、悪ガキからすると痛みや恐怖だけでなく何か別のメッセージも込められていたと振り返り思う。


「愛のムチか…」

ここに来てから昔を思い出してばかりで独り言を呟きながら製品の配線を繋ぎ、電源を入れた。


「よし、正しく起動してるみたいだな」

後は必要なアプリケーションをインストールして初期設定をすれば完成だ。


パソコンと繋ぎインストールするアプリを一覧から選んでいた。するとそこにゲームアプリを見つけた。その瞬間、学校とゲームという禁忌きんきの組み合わせ、そのあまりにも刺激的な可能性に俺の指先は勝手に動きインストールリストに追加していたのだった。


「大丈夫、妃さんにバレないよう隠しフォルダーを作ってと…」


よし、これでいいだろう。全部インストールするのにしばらく時間がかかりそうだ。俺は立ち上がり教室から廊下に出てみる事にした。廊下の窓を開けて外を見てみると、そこには広い運動場が広がり学生たちが声を出して部活動をしていた。この雰囲気、何もかもが懐かしい、窓から吹き込むそよ風は全身を包み込みまるで自分も学生に戻ったかのように錯覚した。


そして、たなびく廊下のカーテンの向こうに一人の生徒が歩いてくるのが見えた。


「わー!!亮さん!なんで学校にいるんですか!?」


その生徒は紛れもなく、南だった。


「あ、そうかここ南の通ってる高校だったのか」


「ダメですよ亮さん!学校に勝手に入ってきちゃ!今すぐ逃げましょう!」

南は俺の腕を掴むと引っ張り始めた。


「ちょ、違う!俺は不審者じゃない!」



次回 【第二十五話 詩う者】


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