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小話.報酬はデザートで



「…本当にいいんですか?」


「もちろん。好きな物を頼んでいいよ?」


「ありがとうございます!」


爽やかな笑顔の白銀さんからメニュー表を受け取ると私はさっそくそれに目を通し始めた。

品書きの隣には色とりどりの写真がたくさん載せられており視線があちこちにさ迷ってしまう。


定番のショートケーキから果物が贅沢に使われているタルト、そして生クリームたっぷりのふわふわパンケーキやパフェ等の様々なデザートがあり中々決めることができない。メニュー表を何度もめくりながらどれにしようかと悩んでいるとクスクスと笑い声がしたためハッと顔を上げる。


どうやら笑い声の犯人は目の前に座る白銀さんだった。

口元を手で隠しながら肩を震わせており、恥ずかしくなった私は熱くなっていく顔を見られないように慌ててメニュー表で隠した。


「わ、笑わないでください!!」


「ごめんごめん。可愛いなあと思って。ほら、選んで選んで」


「~~っっ。…じゃあこのモンブランにします」


くるくると巻かれた黄色いクリームが目を引くかぼちゃのモンブランを指差すと白銀さんは楽しそうに頷いた。

そして私の隣に座っている九条にも話しかける。


「りょーかい。九条君はどれにするか決まった?」


「いや、俺は大丈夫です」


「子供は遠慮しないの。はい、選んで選んで」


「いや、ほんとに…」


九条は断ろうとしていたが白銀さんが引く気配がないと知るとメニュー表をざっと見て指をさした。

九条が選んだのはイチジクを使った季節のパンケーキであり、私が先程頼もうか悩んでいたものだった。


定番のイチゴやキャラメルのパンケーキもあるがやっぱり季節限定と言われたら食べたくなるよね。

分かる分かると心の中で賛同していると白銀さんが店員さんに注文をしてくれた。


「ありがとうございます」


「いいのいいの。むしろこちらこそありがとね。おかげですこぶる体調が良くなったよ」


にこやかに笑う白銀さんはこの前のように汚れているところはなく、確かに本人が言うように顔色も幾分良いような気がした。


実は運動会の後しばらくして白銀さんから穢れを払ってほしいという連絡がきたのだ。徐々にたまっていく穢れのせいでいよいよ体調が悪くなってきた彼を何とかするために事情を知っている九条とともに休日に白銀さんに会うことになったのである。


昼過ぎに私の家まで迎えに来た彼の穢れを見た私はその汚れっぷりに驚いた。運動会の時みたいに真っ黒になっており、声を聞くまで白銀さんだと分からないほどであった。今すぐ綺麗にするには聖水をぶっかけたほうが楽なのだがさすがに寒い時期にずぶ濡れにするのは躊躇われたため、とりあえず私がよく訪れる神社に移動したのだ。

その間に彼がつくった黒い道は九条が綺麗にしてくれた。

ありがたい…。


長い階段をのぼり神社に辿り着くと、さっそく白銀さんに触れながら聖歌を歌い始める。人より少し音痴な歌声を聞かれるのが恥ずかしくて中々集中できていないのが良くなかったのか大分時間がかかってしまった。


「本当にすごいね…体が楽になったよ」


穢れが取り除かれてきれいになった白銀さんは腕や脚を曲げたりして体の調子を確かめているようだった。


「宮永、大丈夫か?」


「うん、平気。九条もありがとね」


私は傍で見守ってくれていた九条の手を取り、吸いとってくれていた穢れを取り除く。

無事に終わってホッとする私に白銀さんは嬉しそうに話しかけてきた。


「2人ともありがとう!よし、それじゃあ報酬を渡さないとね」


「報酬…?」


首をかしげる私達を近くのパーキングエリアに止めていた車に乗せた彼は意気揚々と街へとくりだす。そして彼のオススメだというお洒落なカフェで白銀さんにご馳走になることとなったのだ。


さすがに報酬としてお金を小学生に渡すのは憚られたらしい。確かに子どもの財布の中のお金が知らないうちに増えていたら親は怪しむだろう。ちなみに家を出る際に白銀さんは私の両親にきちんと挨拶をしており、今日出掛けることは了承済みである。

何と言って両親を説得したのかは分からないが巧みな話術とその容姿で母をとりこにしていた。


白銀さんが人たらしなのかそれとも母がイケメンに弱いだけなのか…。

私は白銀さんのせいで汚れてしまった玄関を掃除するのに必死だったので真相はよく分からない…。

まあ確かに白銀さんはヘラヘラとよく笑っているが何故かチャラさを感じさせることはなく大人の男性の色気を醸し出している、気がする。


少し癖のある髪の毛はワックスで毛先を遊ばせているのに品があり、私服は白のニットに黒のボトム、ネイビーのウールコートとシンプルなのに格好いい。コーヒーカップを持つ少し骨ばった手、そしてコーヒーを飲む時の喉仏は私達子供にはない大人の色気を発している。

現に店内にいる女性客はその色気にやられているのか視線が白銀さんに釘付けであった。視線を集めているという状況に若干の居心地の悪さを感じていると白銀さんが頬杖をついてニヤリと笑う。


「そんなに見つめて、惚れちゃった?」


「違いますよ…そうじゃなくて白銀さんといると視線が気になって…」


ちらりと周りを見ながら言うと白銀さんはなるほどねと苦笑した。


「いや~昔から色々と惹き付けちゃうんだよね。良くも悪くも」


「良くないものにもモテてしまうんですね…なるほど」


それは苦労するなと同情してしまう。

モテるというのも考えものだな。


「あ、モテるといえば拓斗もモテモテだったんだよ?」


「御手洗先生ですか?…確かに先生は優しいし包容力ありそうだしモテそうですよね」


「あいつモテるのに全然彼女つくらないから男色じゃないかとか噂されてさ~。こっちも被害を受けて大変だったよ、あはは」


つまり御手洗先生と白銀さんでカップリングされたということですね。可哀想にと気の毒な目で見つめていると聞き手にまわっていた九条が口を開いた。


「そういえば何故か俺と中村にもそんな噂が流れているんだけど…」


「えーそうなの?かわいそーに」


「……」


九条が訝しげな目でこちらを見てくるが無視だ、無視。運動会以降そんな噂が一部の女子の間で流れているのは知っていたが私は関与していない。

確かに2人のことについて聞かれたことはあったがありのままを話しただけなので私は悪くないぞ。

そんな噂が流れたおかげで九条と私の噂がおさまってきてラッキーとか全然思ってない。


「宮永…」


「あ、ほら注文したのがきたみたいだよ!」


九条は何かを言いかけていたがウェイトレスがやってくるのをみて口を閉じた。

私の目の前にはかぼちゃのモンブラン、九条の前にはイチジクのパンケーキが置かれる。

綺麗な黄色のクリームをフォークですくって口に含むと甘くて優しいかぼちゃの味が広がった。


「おいしい?」


「はい、とっても!白銀さんも食べてみます?」


「いいの?ありがと~」


少し開いた白銀の口元にフォークを持っていくと横から伸びてきた手にがしっと止められてしまった。

その手をたどれば顔をしかめた九条が眉間にシワを寄せている。


「宮永…前から言おうと思ってたんだが…」


「え?なに……あっ」


「いただき~」


私が九条に気をとられているうちに白銀さんはフォークに顔を近付けるとパクリとケーキを食べた。

唇についたクリームを指で拭っていたため紙ナプキンを手渡すと彼は笑顔で受け取った。


「うん、美味しいね」


「ですよね!かぼちゃクリームのこの濃厚さと滑らかさがたまらないです。九条も食べてみなよ」


まだ難しい顔をしている九条にケーキをのせたフォークを持っていくと彼はさらに眉をしかめてからため息をつき、しぶしぶ口を開いた。


「どう?美味しいでしょ」


「…うん。こっちも食べれば?」


そういって九条は一口大に切ったパンケーキをフォークにのせて私に差し出してくる。パンケーキには黒糖生クリームとイチジクジャムがついており、私は迷わずにパクリと食べた。

黒糖のまろやかでコクのある甘さととろりとしたイチジクのジャムが口の中一杯に広がっていく。


「こっちもおいしい!」


パンケーキの美味しさに舌鼓をうっていると九条も自分の口にパンケーキを運んでいた。口に入れた瞬間に少しだけ目を見開いていたからきっと美味しかったのだろう。

そんな私達を見ていたからか白銀さんが僕にもちょうだいと顔を寄せてきた。


「九条くん、僕にもあーん…」


「嫌ですよ。…フォークあるんだから自分で取って下さい」


「ええー、宮永ちゃんにはしたのに僕にはなし?差別はよくないと思うなあ」


「……」


大人げなく拗ねる白銀さんに根負けしたのか、結局九条はパンケーキを食べさせた。

一口にしては大きく切り分けられていたため白銀さんは食べにくそうだった。口の周りにクリームをつけているのを見て九条がこっそり笑っている。

私も笑いながらもう一度白銀さんに紙ナプキンを渡したのだった。




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