三十一話 正式に王になった
ついに戴冠式が始まった。
とは言え小規模のものだが。
この国ソレイユの有力貴族達が集まっただけの小さなものらしい。
しかし、俺にとってはそれでもかなり大きかった。
「只今から戴冠式を執り行う。俺は同盟国シュノーレの王であるシドという者だ」
この戴冠式の進行をしてくれるのはシドだった。
あくまで儀式を執り行うのは前王だが。
そのシドが今度は前王を見た。
話してくれとそういう意味だろう。
「私は本日をもちましてこのソレイユ王国の国王の座をこの隣におられるルシフェルス卿に譲りたいと思っております」
そうして紹介された俺。
「何か一言お願いします」
小声で俺にだけ聞こえるように言った彼。
それを受けて俺は1本前に進み出て口を開く。
「紹介されたエース・ルシフェルスだ。もちろん、国王などという大事な任を任されるのは今回が初めての事となる。至らぬ点もあるだろうし分からないことも多い。でもこの国を豊かにしたいという気持ちは誰よりも持っているつもりだ。どうか支えて欲しい」
そう口にして頭を下げた。
これは頼んでいることだから。
「新王!私は貴方について行きます!」
「私もです!新王!」
突然国王が変わるのだ。
しかもこの国出身でないものにその王権は譲渡された。
だから反発的な態度を取る奴もいるのではないかと考えていたが、それほど多くないように見られた。
そこについては安心して内心胸をなでおろした。
「ありがとうございます新王。これで私も安心して席を譲ることが出来るというものです」
俺が1歩下がったのを見て口を開いた前王。
「新王エース」
俺は前王に呼ばれたのでそちらを見て1歩進み出た。
「貴方にこの国の全てを託します。さぁ、この王冠を。リヒナ」
「はい」
リヒナ?
声が聞こえて顔を上げるとリヒナが目の前にいた。
彼女は前王から王冠を受け取る。
何が起きているのかは分からないが。まぁいい。
最低限の礼儀は聞いている。
俺は片膝を着くと下を向いた。
「これをもちまして王権の譲渡とします」
リヒナの声が聞こえると同時に俺の頭に何かが載った感覚。
それで王冠の譲渡が完了したことを理解する。
「国王エース。今日から貴方がこのソレイユの新たなる後継者です」
前王にそう言われて立ち上がると顔を見た。
「この国をよろしくお願いします」
「あぁ。任せておけ。必ず豊かな国にすることをここに誓う」
俺が宣言すると割れそうなほどの拍手が始まった。
それと頭を揺らすのかと思えるくらいの歓声。
俺は正式に王として認められたのだった。
※
俺が王になったことそれを祝うための祝賀会が開かれていた。
先日もルクスブルクの件があったからこうして祝賀会に参加するのは2度目か。
減るものでもないから別にいいのだが。
「リヒナ」
「はい?」
「何故ここに?」
「私は元々前王の養子なので。子宝に恵まれなかった私はこちらに王になるように送られたのですが、そこに私よりも適任そうなエース様が現れたのですよ」
両手を組んで微笑むリヒナ。
なるほどそういうことだったのか。
「あの………私と結婚してくださいませんか?そのそんな私が宙ぶらりんになるというのはよくないことだと言われましたので」
何故か突然慌てたリヒナが顔を赤くしながらそうお願いしてきた。
「結婚?別に構わないが」
そう応えると彼女の顔は明るくなった。
「あ、ありがとうございます!その、凄く嬉しいです」
そうして話していると別の人間が近付いてきた。
「エース王はあの最凶の災厄と恐れられた滅亡の竜を1人で討伐なさったのですか?」
1人の女貴族が早速俺に話しかけてきた。
「あぁ」
滅亡の竜については既に知らされているはずだが、それでもやはり俺の口から聞いたら驚きを隠せないらしい。
「ふむ。討伐したのは正しいが1人ではない。頼りになる仲間がいたから一緒にな」
「仲間というと?」
「えっへん!」
サーシャが俺の横に並んで早速胸を張っていた。
「え、お付の方達が仲間なのですか?」
「そうなのです!私達はお付であると同時にエースを支えるメイドなのです!」
逆側に並ぶシエル。
「そうそう。ダメなエース、じゃなくてエース王を支えるのが私達なのです」
俺の顔の横から顔を覗かせるルーナ。
「珍しいですね。お仲間とお付が一緒だなんて」
目をぱちくりさせる彼女。
「いや、仲間という訳では無い。もう家族だし」
「か、家族、ですか?」
呆気に取られたような顔をしている。
「そうなのです。私達は既にエース様と結婚していますので」
俺と結婚したことを誇らしげな顔で伝えるサーシャ。
「では、3人は王妃様なのですか?」
「そういうことになるのでしょうか?」
そう聞かれて逆に目を見開いて聞いてくるシエル。
「どうなのかな?」
ルーナも俺に聞いてきた。
「王妃になるんじゃないのか?」
俺達が結婚したことでルーナ達は俺の嫁になった訳だし、順当に考えて王妃ということになるのだろう。
「はわわわわ………私、お付から王妃になっちゃったんですか?」
「そうらしいな」
慌てふためいているシエルの質問に答える。
「何でそんなに驚いてるんだ?むしろ喜べばいいのに」
普通は王妃なんて高い地位に着くことが出来たら喜ぶものだと思っていたが。
「わ、私は………ちゃんと王妃をする自信がないのです〜」
目を回しているシエル。
「私はエース様と同じくらいの地位になれて嬉しいですよ!」
そう言って右腕に抱きついてくるサーシャはいつもと変わらないな。
「エース様!これからも一緒ですよ!」
「私も………一緒だもん!」
そう言ってルーナが俺の左腕に抱きついてきた。
「置いていかないで下さいぃ………」
何故かシエルは泣きそうな目で俺の胸に飛び込んできた。
それにしてもシエルに関しては新しい一面が見れたな。
もう少し冷静な女の子かと思っていたが意外とパニックになるところが可愛い。
「誰も置いていかないから安心しろって」
「ほんとですかぁ?」
頭を撫でてやるとグズグズ泣いて俺を見上げてくる。
「ほんとだって」
「ほんとですか?置いていかないですか?」
「あぁ」
そんな俺たちを見て女貴族は少し笑っていた。
「エース王はいい人そうで良かったです」
「逆にどんなのを想像してたんだ?」
「いえ、具体的に想像していた訳ではなく、ただ自分勝手な人だと嫌だなぁ程度に考えていただけですよ」
そう言って微笑む女貴族。
「あ、私はリシア・メイグルーク。という名前です。気軽にリシアとお呼びください」
「リシアだな。分かった」
「これからは御身をお守り致します楯となりますのでよろしくお願いします」
そう言って微笑むリシアという女貴族だった。
「ま、待て。あんたが俺の盾なのか?」
「はい。私達メイグルーク家は昔から王族の身をお守りする盾の家です。これからもよろしくお願いしますね」
頭を下げるリシア。
「あ、あぁ」
まさか少女に守られることになるとは思わなかったな。
「あ、もしかしてこんな若い女にそんなこと出来るのか、とか思っていませんか?私は脱げば凄いんですよ」
「脱げば?」
「はい。今はこんな堅苦しい服を着ていますがこれを脱げば俊敏に動いてお守りできます」
そういう事か。
何を脱げば凄いのかと思って少し想像してしまった。
「お望みとあらばそちらも脱ぎますよ?」
「ほんとか?」
「ほんとですよ」
「何の話してるの?」
ルーナが何も分かっていなさそうな顔で聞いてきたのを見てそれ以上はやめておくことにした。
その後も下らない雑談をして祝賀会は終わりへと向かっていった。
新作の件ですがそう遠くないうちに投稿できそうです。