十二話 詐欺師は俺が潰す
王城を出た俺たちは街を歩いていた。
「エースが近衛騎士団団長を倒しちゃうなんて思わなかったな」
そうしている時に呟いたルーナ。
「そうか?」
「うんうん。そうだよ。あんなに優位に運んで1発で倒しちゃうなんて誰も思わなかったと思うよ。団長何もできてなかったし」
「ふむ。確かにな団長はあまり強くなかったな」
俺はインファイトには自信があるがそれにしても弱かったなというのが率直な感想だ。
あれが騎士団団長でこの王国は大丈夫なのだろうか。
「いえ、エース様が最強過ぎるんですよ!」
そう思っていたら飛びついてくるサーシャ。
「そうか?別に自分ではそうは思わないけど。しょせんはルクスブルクのゴミ程度の扱いだった俺が強いとは思えないが」
「自信を持ってください。デッドエンドを倒したエースはかなり強いですから」
シエルもそう言ってくるがそうなのだろうか。
「それより、だ。シエル」
「はい?」
グリグリ顔を押し付けてくるサーシャの頭を撫でながらシエルと話す。
「あの詐欺師のところいこうか。破魔石の件のことはきっちり責任を取らせる」
「いいんですか?」
「当たり前だろ?あんな悪行いつまても野放しには出来ないだろう」
そう口にするとシエルの顔はパァっと輝いた。
諦めきれていなかったのだろう。
「はい。ありがとうございます」
※
シエルにあの時の石を取ってきてもらった俺たちはあの鑑定士の店までやってきた。
「へい、らっしゃい」
呑気なことに俺たちを客だと思っているのか気さくに声をかけてくる店主。
「お、嬢ちゃんはあの時のか」
そんな中店主はシエルに気付いたらしい。
「これ、破魔石じゃないですよね?」
早速シエルが切り出した。
その言葉を聞いてまたか。とでも言いたいようなうんざりした顔をする男。
「前も言ったよな?嬢ちゃん。それは破魔石だって。」
「あれから別の鑑定士に鑑定してもらいました。その人にこれは違うとそう言葉を頂きました」
「嬢ちゃん俺よりその鑑定士を信じるって言うのかい?それなら残念だが俺は」
店の男は用意していたように足元からそれを取りだした。
「ギルド認定のSランク鑑定士ってわけだ。そんな俺のことを信じられないと言うのかい?」
笑顔でそう口にする男。こう言えば折れるだろうとでも思っているのだろうか。
「いいか?嬢ちゃん。お母さんの病気が治らないのは嬢ちゃんの気合いが足りないからだ。確かに破魔石には魔を破る力がある。でもいつだって必要なのは石なんかの力じゃなくて嬢ちゃん達自身の気持ちだ」
すごいそれらしいことを口にしているが、気付いているのだろうか。
「破魔石ってのは文字通り魔を破るものだ」
代わりに俺が話すことにした。
「程度はどうあれ彼女が魔を破れていないと思っただけでそれは破魔石ではないだろうよ」
「兄ちゃん誰だ?俺は今………」
その言葉の続きは話させないことにする。
どうせ時間の無駄だ。
「単刀直入に言う。偽物だろ?これは」
「兄ちゃんいい加減にしないと衛兵を呼ぶぞ」
俺達が言い合っているのを聞いたのかぞろぞろと人が集まり始めていた。
「直ぐに偽物偽物だと言いやがって大した証拠も示せないくせに人のことを詐欺師呼ばわり。名誉毀損で訴えるぞ?」
「訴えればいいじゃないか。この詐欺師」
笑って口にする。
ギルド認定がどうした。こちらは王様が認定した宮廷鑑定士の称号がある。
今から見せる瞬間が楽しみだが、すぐに見せるとそれではまだ面白くない。
「お前後悔するなよ?今から衛兵呼ぶからさ」
そう言って大声を出す店主の男。
なるほど自分で自分を捕まえてくれるように衛兵を呼ぶわけだ。
「衛兵さーん!!!ここに俺を犯罪者呼ばわりする人がいるんですけど!!!助けて下さーい!!!!」
「今行く!」
その声に返事をしたのは澄んだ声の持ち主だった。
「君は。また会ったな」
「フィオナか」
この場に来てくれたのは彼女だった。
「で、私を呼んだのは誰だ?」
「俺です。そいつが俺のことを詐欺師、詐欺師と呼んできて鬱陶しいんですわ」
やれやれと首を横に振る男。
「エースが、か?何かの間違いでは?」
「いや、間違いじゃない。こいつは詐欺師だからな」
改めてフィオナの前で口にする。
「さっきからこの調子なんだわ。違うと言っても聞きやしない。まだ子供だ。こんなことで人生を潰しちゃ可哀想だし俺だって事を荒立てたく………」
「おい、詐欺師金は返せよ?シエルだけの分じゃない。今までに騙し取った金は全部返せ?」
そう口にすると背後のギャラリーがざわめき始めた。
「この店の人が詐欺師だって?そんな訳あるか」
「そうだそうだ。何年もここで店を構えてるしその名前は国中に広まっている有名な鑑定士だぞ。詐欺師な訳あるか」
その声の多くは俺を非難するもの。
すっかりここいらの鑑定士のことを信じ切っているらしい。
「ほら、衛兵さんにも見せるけどこれ、俺はSランク鑑定士だしその鑑定に間違いがある訳ないだろ?だから詐欺なわけは無いんだよ。それに信用が大事な鑑定業で嘘をつくメリットなんてないからな」
「荒れてるみたいだがどうしたんだ?」
その時別の方向から新たに人がやってきた。
「おう、お前か。今詐欺師だと言いがかりを付けられていてな。困ったもんだ。お前も言ってやってくれないか?俺は嘘をついていない、と」
それから店主は受け取った石を掲げて今やってきた男に言う。
「これがちゃんとした破魔石だと言ってやってくれ」
「あぁ。これは間違いなく本物の破魔石」
それを聞いて周りは更にざわめき出す。
「だろ?Sランク鑑定士2人がそう言ってるんだから間違いないんだよ」
「おい、言いがかり野郎!いい加減にしとけよ!」
どうやら本当にこの辺りの鑑定士に街の人達は騙されているらしい。
哀れなものだな。でも仕方ないか。疑うということを知らない、偉いやつが言ったことは絶対。
そんな価値観の世界で生きてしまうのは一般人にとっては仕方の無いこと。
だがここで俺がそろそろきちんと答えを見せてやろう。
「いいや、それは偽物だ」
もう一度きっぱりとそう口にした。
反省する色もないならば落とし前は付けさせる。
このSランク鑑定士の上を行く立場の宮廷鑑定士である俺が。
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