十話 対決!近衛騎士団団長
しばらくの間俺と門兵の視線はバチバチと火花を散らしてぶつかり合っていた。
「貴様がデッドエンドを倒した?だと?笑わせるな帰りたまえ。私も子供の冗談に付き合うほど暇ではない」
やはり一笑に付されてしまった。
証拠もなければ何を言ってもまともに取り合って貰えない、か。
しかしここで挫けるほど軟弱でもない。
「待て証拠がある」
「証拠?」
信じられないような話を聞いたかのように顔を歪める門兵の男。
「あぁ。証拠だ」
不敵に笑って答えると目の前の男にデッドエンドが残した素材を見せる。
「何だ?これは」
「デッドエンドの素材だ」
「俺にはただのスケルトンの素材に見えるが?」
自分にはただの雑魚のスケルトンの素材に見えると口にする男。
「嘘だと思うなら宮廷鑑定士に鑑定してもらってくれないか?」
「そんなものそこらの鑑定士にさせればいいだろう」
「その鑑定士が信用ならんから、わざわざ宮廷鑑定士を指名しているのだが」
「どういう意味だ?」
門兵が質問をしてきた。
まぁ普通の反応だろうな。
「そのままの意味だよ。俺はこの国にいる鑑定士を信用していない。それだけだ」
「はっ。何を言いだすかと思えば」
鼻で笑い考えようとすらしないらしい。
この国の鑑定士がなぜ信用に値しないかを。
普通に考えれば分かりそうなものだが何も知らない一般人の反応と考えれば同時にこんなものかもしれないという思いもある。
「兎に角宮廷鑑定士を呼んでくれないか?それか王に合わせてくれ」
「どちらも出来かねる。立ち去れ」
俺の頼みには答えてくれない。
どうやら取り付く島もないらしい。
「何事だ」
しかしそこに新たな声が聞こえた。
声の主は門の向こう側にいた。
「これは、近衛騎士団団長様!何故ここへ?」
俺には不遜な態度を取り続けた男すらもこの人を敬っているのか頭を下げる。
「あんたが団長様か」
「如何にも。いつもは静かなこの王城前で何を言い争っているのかと思ってきてみたのだが」
団長が俺に目を向ける。
その目は見るものを竦めさせるものだろう。
見られていないはずのルーナ達や今まで相手をしてくれていた兵士もその身を震わせていた。
しかしルクスブルクの家に生まれた俺には効かない。
この程度の視線では生ぬるい。
門兵の身はまだ震えていたがそれでも口を開いた。
「こ、この男が王に謁見させるか、宮廷鑑定士に会わせろとうるさくて。自分はデッドエンドを倒し素材を持ち帰ってきた、それを鑑定士に鑑定させろ、と」
「そうか。それでそなたの名前は?」
「エース」
「エースとやら、俺と決闘しろ」
「ん?」
それは突然の申し出だった。
「聞けばお前はあのデッドエンドを討伐したと聞く。狂言だとしてもこの嘘を許されぬ王城の前で口にしたのだ。自信はあるのだろう?」
団長は剣の鍔を親指で何度も押し上げサヤに打ち付けカチカチと音を立てて抜こうとしている。
こんな勝負を挑んでくるということはそちらこそ剣には自信があるのだろうか。
「俺があんたに勝てば実力を認めてどちらかの対応をしてくれるという認識で構わないか?」
「あぁ。俺に勝利した暁にはそのどちらかの対応をしてもらえらように王に願い出よう」
なるほどな。
これは簡単だ。
力が全て。分かりやすい判断基準をお持ちのようだ。
「了解した。その申し出引き受けよう」
「だが、貴様が負けた時はどうする?」
「トイレ掃除でも何でもしてやる」
流石に相手が相手だからか隣にいるルーナ達は心配そうな顔をしているが大したことは無い、はずだ。
名門と言われるほどのルクスブルクの剣を受けて俺は育ったのだ。それに比べれば生ぬるいはずなのだ。
「言ったな?今から貴様への罰が楽しみで仕方がない」
彼が門兵に視線を向ける。
「話は聞いていたな?その門を開けよ」
「で、ですが!団長!この門は開けるな、と」
「俺の命令が聞けぬか?そんな風に教育した覚えはないがな」
「承知しました」
それを言われるとどうしようもないのか固く閉ざされているだろう門を開け始めた。
「待たせたな客人。こちらへ」
俺はついに閉ざされていた門の向こう側へ入る権利をもらえた。
「おい、退くなら今のうちだぞ?」
しかし門兵の顔は険しいものだった。
「何故ここまできて退く必要がある?」
「団長はとても強いお方だ。あの方が決闘を条件に招いたのはその強さに自信があるから。あのお方はソロでSランクモンスターのケルベロス三体を相手にして勝ったという伝説もある。お前が勝てるわけないんだよ。下手をすれば殺されるんだぞ。悪いことは言わん退いておけ」
そう言われてもな。
退く理由にはならないし退こうとは思えないものだ。
話を聞いていたのにそれでも前に進もうとする俺に何か思うところがあるのかやはり呼び止めようとする門兵。
「だから、辞めとけって。あの人は鬼神と呼ばれて恐れられてるんだぞ」
「黙れ。俺は勝つ。それだけだ」
「お、おい!」
呼び止める男の声も無視して団長に付いていく。
俺の勝ちは揺るがないだろう。
わさわざ退く理由にはならない。
※
これは御前試合のようだ。
きちんとし過ぎた審判がいた。
「これは………王自らがお越しにられるとは」
あの偉そうな団長ですら跪いて頭を垂れる存在。
俺の目の前には王様がいた。
この国を代表する人間である王様。
さらさらの金色の髪を短く切っている若い男。
「誰も攻略できていない、死の森の奥まで辿り着く。それだけでも世界初の偉業で英雄と呼ばれるには十分な素質がある。その上でデッドエンドを倒したと豪語する男がいると聞いたので見に来たのだ。文句はあるまい?」
「しかし、相手は子供ですよ?」
「子供だから何だと言うのだ?近衛騎士団団長ペルセウスよ。戦う覚悟を持った男の言葉に年齢など関係ない話であろう?」
団長の名はペルセウスというらしい。
「鬼神の名に恥じぬ戦いをしてみせよ」
「はっ!」
王に敬礼してペルセウスは庭園で俺と向かい合っていた。
きたんとした印がある場所だ。
その印にお互い立って睨み合う。
「ルールは簡単だ。どちらかが敗北を認めるまで。過剰な攻撃はもちろん禁止だ」
王が改めてルールを説明してくれた。
俺たちも納得してここに立っているから改めての説明はいらなかったのだがな。
その後に俺を面白そうな目で見てくる王様。
「それよりエースとやらお前は武器は不要なのか?」
「俺の武器は拳でね。それ以外はいらない」
王の質問に答えると彼は愉快そうに笑った。
「面白いやつだな。貴様の戦いを楽しみにしている」
そう言うと最後に交互に俺たちを見た王。
「下らぬ前置きはここまでにして、それではスタートだ」
今戦いの火蓋は切って落とされた。