第一話 9
それから三年の歳月が流れた。小学校は一学年一クラスしかなかったので、小学四年生になっても相変わらず、僕と祐樹と優菜は同じクラスで毎日顔を合わせた。そして明日から夏休みだという学校からの帰り道、優菜が唐突に僕達に質問した。
「野崎君と桜木君は今何歳?」
「はぁ? お前と同じに決まってるじゃないか」
「そうじゃなくて、誕生日はいつかと訊いてるのよ」
「俺は五月二十一日。祐樹、お前は?」
「僕は四月五日」
「それなら、二人とも今十歳なのね?」
「そうだけど、お前の誕生日はいつなんだよ」
「私は七月十七日」
「え、昨日じゃん」
「うん」
「生島さん、早く言ってくれれば、プレゼントを用意したのに」
祐樹がそう言うと、優菜は顔を赤らめ恥ずかしそうに笑った。
僕は二人のその様子を見て、内心ムカついていた。しかし、祐樹はそんな僕の心を知ってか知らずか、家の中にドカドカ入って、探し出したクッキーの缶を「はい、誕生日プレゼント!」と優菜に差し出した。優菜は「私、このクッキー、大好きなの! ありがとう! 祐樹君!」と満面の笑みになった。
祐樹の顔を観察すると、祐樹も照れくさそうに笑っている。僕は益々ムカついた。しかし、同時にこの二人に僕の本心を知られてなるものかと思っていた。僕は、ぐっと感情を押し込めた。
「桜木君、さっきの話の続きだけど、トメ婆ちゃんから聞いたのよ」
「何を?」
「ダビデの森の秘密よ」
「はぁ?」
「桜木君、知らないの?」
「う、うん」
優菜の話によると、「ダビデの森の秘密」とは、恵愛教会の裏のダビデの森に、十歳の子供三人で願い事を書いた紙を埋めて、三十年後に忘れずに掘り返すと願いが叶うというものだった。
「いつそんな話を訊いたんだよ」
「一昨日ね、うちのお母さんから預かった大福餅をトメ婆ちゃんに持って行ってあげたら、私に教えてくれたの」
「ふーん」
「それでね、私も十歳になったから、みんなで一緒に埋めに行かないかなと思ったの」
「別にいいけど、三十年後に掘り返さなきゃならないんだろ? 絶対忘れてるぜ!」
「私もそう思ったんだけど、トメ婆ちゃんは、ちゃんと願いが叶ったんだって。凄いでしょ!」
「へぇー」
「でもね、願いが叶う人間には資格がいるらしいの」
「何の資格?」
「さぁ? トメ婆ちゃん、きちんと話してくれなかったから分からないのよ。でも、野崎君と桜木君と私にはちゃんと資格があるから大丈夫だって言ってた」
「なんだそれ」
「まあ、とにかくやってみようよ」
「そうだね」
そんな話をして、翌朝十時に、三人で恵愛教会の裏にあるダビデの森に集まった。梅雨がちょうど明けたばかりで、ダビデの森の蝉たちは、待ってましたとばかりに、煩いほどの鳴き声シャワーを僕達三人に浴びせていた。
「どの辺に埋めればいいの?」
「ダビデの森の中だったら、どこでもいいみたい」
「じゃあ、あの大きい木の根元にしようぜ」
「そうだね。あの木、目立ってるから忘れようがないよね」
優菜がそう言うと、祐樹も同意したので、樹齢百年はあるだろう大きな楠の根元に埋めることにした。
僕と祐樹は持って来たスコップで土を掘り起こした。そして、優菜が用意したクッキーの四角い缶の中に、ビニール袋で包んだ願い事を書いた紙を入れて、そしてまた二重にした大きめのビニール袋でクッキーの缶を包んでガムテープでしっかり封印し、掘った穴の中に入れて埋めた。
僕が祐樹に「何を書いたのか教えろよ」と言うと、優菜が「訊いちゃダメだよ! ごめん、言うのを忘れてたけど、三十年間、その願いは誰にも教えちゃダメなんだって」と言った。