第八話 6
週末になり、僕はまた、芳子のクリニックで催眠療法を受けていた。目の前の祐樹は二十代半ばの青年になっていた。祐樹も優菜も大学を卒業し、それぞれの道に進んでいた。祐樹はアルバイトをしながらバンド活動に力を入れ、優菜は建設会社の経理部で働いていた。祐樹は、金が貯まったら、実家を改装してカフェにするのだという。そのカフェで、自分たちのバンドのライブをしたり、他のバンドにもライブ会場として提供しようと思っていると語っていた。祐樹は、バンドのボーカルで、しかも容姿端麗なので相変わらず女の子にモテるようで、ストーカーまがいのことをされたりもしているようだった。優菜は優菜でやはり仕事のできる女になっていて、会社では重宝される存在になっていた。そして、彼女は会社の先輩男性と付き合っていると僕は美帆から聞かされていた。
一方、僕はというと、マイペースに仕事を頑張り、それなりに世間から評価されるようになっていた。常連になっていた駅前の居酒屋で田中沙織という高校時代のバイト仲間と再会し、成り行きで彼女と付き合うようになった。お節介で世話好きの田中沙織は、母が出て行って一人暮らしをしている殺伐とした僕の古アパートの部屋に頻繁に訪れるようになった。彼女は、僕の部屋の中を勝手に片付けて、モノトーンな色合いだった部屋をカラフルに飾り立てた。田中沙織は、女子が好むような物すべてが好きな女子だった。恰好は、カリスマモデルを真似た流行りの派手なスタイルだったし、頭の先からつま先までがキラキラしているような子だった。そんな田中沙織と連れ立って、夜半、アパートの部屋から出ると、優菜の自宅前で、帰宅する優菜にばったり出くわすこともあった。おそらく優菜が付き合っている会社の先輩なのだろう、優菜を自宅まで車で送り届けているのはいつも同じ男だった。優菜は田中沙織と違って、随分と清楚だった。玄関前で遭遇し、僕も優菜も一瞬躊躇はするのだが、すぐに「こんばんは」とお互い声をかけ、その後は何事もなかったかのように、素知らぬふりをした。田中沙織は、そんな僕達を見ても特に何も感じないらしく、僕にぴったりと寄り添い腕を組んで歩くのだった。
そんな状態が二年程続いた。祐樹は、無事資金を貯めてカフェを開店し、カフェは成功し、毎日ロック好きな客で賑わっていた。祐樹の母は、「やっとこれで一安心」と呟いていた。そして、優菜も僕もこのまま付き合っている相手とすんなりゴールインするのだろうと思っていた。しかし、転機が訪れた。




