第六話 10
優菜から商店街が大変なことになっているとLINEで連絡が来たが、同時に角田からも電話が掛かった。
「おい、あの後どうなったんだ?」
「亮さん、ヤバいっす。俺、身バレして愛川にボコられましたけど、なんとか逃げられました」
「そうか、もうスパイなんかするな。それよりこっちを手伝え。あちこちで被害が出始めてる。みんなで対策を練るから、お前も参加しろ」
「はい、わかりました……」
そう角田と会話した後、僕は、クリニックを出て自宅へ向かっていた。途中の並木道で、のんちゃんの手を引き、ベビーカーに光を乗せて散歩させている祐樹が遠くに見えた。僕は思わず、祐樹目がけて走り寄っていた。
「のんちゃん、こんにちは」
「亮ちゃん、こんにちは」
「のんちゃん、今日はのんちゃんの好きなハトに会えたか?」
「ううん、会えてない。ねぇ、亮ちゃん、祐君の羽はなんで黒くなったの? 前は白かったのに」
「はぁ? 祐樹に羽なんか生えてないだろ」
「生えてるよ」
「おい、祐樹、のんちゃんに何か変な物を食わしたのか?」
「食べさせるわけないだろ」
「……そうだよな」
のんちゃんとそんな会話をした後、光を抱き上げてあやすと、光は、きゃっきゃっと笑った。祐樹はそれを見て「亮ちゃんは、赤ちゃんまで手懐けてる」と言った。それを聞いて僕は思わず「ごめん」と呟いた。別に謝ることでもないのに、おそらく、さっきの催眠療法で取り戻した記憶のせいで、条件反射的に謝ったのだと思う。祐樹も「なんで謝るの?」と不思議そうな顔で言った。しかし僕は祐樹のその質問の答えに窮し「いや、なんとなく……」とだけ答えていた。それから、祐樹と別れて自宅へ帰ろうとしていたのに、どうしてだか祐樹が「今日はカフェが休みの日だから、駅前のバーで二人で飲まない?」と誘ってきたのだった。みんなとならともかく、二人で外で飲もうと祐樹が誘ってくることなど滅多にないことだったので、僕は断ることができず優菜にLINEで連絡を取り、祐樹の言われるまま三十分後には、駅前のバーのカウンターに二人で座って話していた。




