第六話 1
「昨日のライブが盛り上がってたのは良かったけど、散々だった……」
「ほんとねー。祐樹君のライブは最高だったのに、亮ちゃんも商店街もずぶ濡れでびっくりしたよ。でも、閉店後だったから、まだ良かったけど」
「まぁな」
「昨日ね、太蔵爺ちゃんが変なことを言ってたんだ」
「変なこと?」
「昨日の給水車もそうなんでしょうけど、商店街に大量に嫌がらせの貼り紙をされてたことがあったでしょ? あれって、太蔵爺ちゃんの昔の天敵の仕業で、落とし前を付けなきゃならんって言ってたの。勿論、私は止めたんだけど」
「そうか……」
「亮ちゃんも祐樹君もいるんだから、二人に任せてたらいいって言っておいたからね」
「うん、もう爺ちゃん一人で何とか出来る問題じゃないしな」
祐樹のライブがあった翌朝、僕と優菜は食卓で向かい合って朝食をとっていた。僕が目玉焼きに箸をつけようとすると、優菜はまたすぐに「はい」と醤油差しを渡してくれた。そして、僕はお返しとばかりに優菜に塩コショウ入れを渡した。目玉焼きに塩コショウをかけて食べるのが優菜の好みだということを、僕は昏睡状態から目覚めての短い結婚生活で把握していたのだった。優菜は「ありがとう」と笑った。
今日は土曜の朝で、僕も優菜も仕事が休みだった。久しぶりに二人きりで出掛けることにしていた。鑑賞予定だった映画を見るのを断念し、水浸しの商店街の掃除を手伝った後、レストランでランチを食べ、その後自宅近くの公園のブランコに二人で座っていた。他に行くところがいくらでもあるだろうに、結局、子供の頃から暇さえあれば座っていたブランコに、優菜は座りたがった。昔と違うところはといえば、優菜の隣りに座っているのは美帆ではなく、僕になったということだった。
子供の頃、優菜が引っ越して来た時から、彼女は憧れの女の子ではあったが、優菜は自分と違って優しくて可愛くて成績優秀でみんなに好かれていた高嶺の花だった。そんな優菜が、どうして自分の妻なのだろう?と今でもふと疑問に思う。昏睡状態に陥って記憶が無くなってしまったからだといえばそうなのだろうが、僕の意思はともかく、優菜が何故僕と結婚する気になったのか、知りたい気持ちは日増しに大きくなっていくのだが、そんなことを今更面と向かって優菜に訊けないもどかしさがあった。




