第四話 5
商店街の真ん中に位置する鯛焼き屋で鯛焼きを購入すると、僕は工房に向かっていた。今日は第三土曜日でクリニックは午後からは休診になっていたが、芳子から連絡があって診療に来てもいいとのことだったので、また催眠療法を受けるつもりだった。しかし、祐樹のカフェのドアを開けた途端、芳子の叫ぶ声が奥の工房から聞こえてきた。
「だから、いい歳して意地張ってないで、老眼鏡くらいかけなさいよーっ!」
「うるせぇーっ! 俺はお前に説教されるほど、耄碌しとらーんっ!」
「耄碌してるから、火傷したんでしょーっ!」
僕は、またかと思いながら、祐樹にほらよという感じで、さっき買ったばかりの鯛焼きの包みを渡した。祐樹はトメ婆ちゃんの居間へ行き、おやつカゴの中に鯛焼きを投入した。すると、やっぱり縁側で居眠りしていたトメ婆ちゃんの目はぱっちりと開き、「米田もいいが、とりあえず山田を追えっ!」とまた謎の一言言った。その言葉を聞いて、祐樹は怪訝な顔をしていたが、忘れないように記憶しているのか、祐樹は暫く固まったまま腕を組み、視線を上に向け考え込んでいた。
そのうち、またガッツリ組み合った祐樹の父と芳子が和室に流れ込んできて、死闘を繰り広げていた。祐樹の父は、負けるのが悔しいのか、顔を真っ赤にしながらかなり長い時間耐えていたが、スキを狙って内股を掛けようとすると、逆に芳子に内股返を掛けられ、転んだところへ上から乗っかられ、並十字絞で締められる羽目になり、失神しそうになっていた。それを見た渉さんは、慌てて「もうやめなよっ」と芳子を止めていた。
祐樹の母は、止めても無駄だと分かっているので、トメ婆ちゃんと縁側に座って、僕が持ってきた鯛焼きを「亮君、ありがとうね」と言いながら、美味しそうに頬張っていた。「火傷したお父ちゃんの指に芳子が包帯を巻いてやってるのに、『ええい! なんだその下手くそな巻き方は! しゃらくせぇわ!』と怒ってるのよ。そしたら、芳子は芳子で、腹が立ってわざときつく包帯を巻いてるの。それでまた喧嘩」と祐樹の母はうんざりした顔で語った。トメ婆ちゃんも祐樹の母に、「あんたもあんな旦那と娘を持って大変だね」と声を掛けていた。
僕と祐樹は、こんな騒ぎになっているにもかかわらず、カフェのゆりかごの中ですやすや寝ている光を眺め、カウンターに座っているのんちゃんに絵本を読み聞かせながら、コーヒーを飲んでいた。そして、祐樹の父と芳子の喧嘩が収まるのを待って、芳子に促されるままに診察室へ入って行った。そして、ベッドに寝転ぶと、五分後にはこの間の続きの高校三年生まで時間を遡っていた。




