第二話 8
そのまま家に帰ろうかと思ったのだが、今日は、妙に天気がいい日だったので、リハビリを兼ねて優菜と二人で公園まで歩くことにした。公園に行くには、商店街を歩かねばならない。前より、なんだかボロボロになったなぁと商店街のアーケードを見上げながら歩いていると、洋品店の早苗おばちゃんも「あら、退院したの?」と声を掛けてきたし、コロッケ屋の福田の親父も僕に気付き「退院したのか!」と叫んだ。駄菓子屋の太蔵爺ちゃんも僕らを見つけて、杖をつきながらヨロヨロと店から出てくると、「おい! 寄ってけ!」と言った。
「うまいもんや」は駄菓子の他に土産物を売っていたし、トメ婆ちゃんの好物の饅頭も売っていたので、いくつか物色して購入すると、太蔵爺ちゃんは、これまたヨロヨロしながら、僕と優菜にお茶を淹れてくれたのだった。試食品の饅頭もお茶と一緒に出してくれた。
「爺ちゃん、気を遣わなくたっていいのに……。でも、せっかくだから食べてやるけどな」
「今日は特別だ。次からはねぇぞ」
「分かってらぁ」
「しかし、お前、よく生きてたな」
「まぁ、そうかもな」
太蔵爺ちゃんとそんな話をしていたら、急に頭痛がして、ある言葉が聞こえて来た。
『こんな成績では死なせるわけにはいかぬ。もう一度やり直して来い!』
一瞬、太蔵爺ちゃんが言ったのかと思って爺ちゃんのほうを振り返ったが、爺ちゃんは饅頭を口いっぱいに頬張っている。しかも、聞こえて来た声は、爺さんではなく婆さんの声のような気がした。
ヤバい……もしかしたら幻聴かもしれない。事故した時に頭を強く打っていたようだから、その後遺症なのかもしれない。しかし、優菜が「亮ちゃん、太蔵爺ちゃんね、亮ちゃんが寝てた時に、一回病院にお見舞いに来てくれたんだよ」と僕に声をかけたおかげで、すぐに老婆の声は聞こえなくなった。
「え……」
「おう、老体に鞭打って行ってやったさ」
「そうか、済まなかったな、爺ちゃん」
「年寄より、先に死ぬんじゃないぞ」
「はいはい」
「はいはい、じゃないっ! ちゃんと約束しろっ!」
太蔵爺ちゃんが、急に物凄い剣幕になったので、返す言葉もなく呆然と太蔵爺ちゃんの顔を見ていたら、またもや「こらっ、約束しろっ!」と言った。「う、うん」と僕が言ったら、優菜が「違う、違う。約束します、と言わなきゃダメ」と言ったので、僕は「……約束します」と言ったら、漸く太蔵爺ちゃんの癇癪は収まったのだった。それから、病院でのリハビリの話を少々披露して、僕と優菜は「うまいもんや」を後にした。




