第二話 9
その後、商店街を抜け公園に辿り着いた。子供の頃から、優菜がブランコに乗ってよく遊んでいた公園だった。公園は珍しく閑散としていて、ブランコには誰も乗っていなかった。優菜は子供の頃、このブランコに乗っていつも笑っていた。急に懐かしくなって、空いているブランコに吸い寄せられるように僕が乗ると、優菜も僕を真似て隣りのブランコに座った。
「なぁ、優菜」
「なに?」
「優菜の父さんと母さんは元気か?」
「なに、急に」
「いや、気になったもんだから」
「亮ちゃん、全部忘れちゃったから、知りたいことはいっぱいあるよね」
「まぁな」
「うちの親は両方とも元気だよ」
「そうか、良かったな」
「うん。でもね、もう、あの家にはいないんだよ」
「それまた、どうして?」
「父も母も田舎は三重なんだけど、父の兄、つまり私の伯父さんが急に亡くなっちゃって、田舎のお祖母ちゃんの面倒見る人がいなくなったから、三重に二人で帰っちゃったのよ。父も会社を定年退職したし、母も田舎に帰りたがっていたから、ちょうど良かったんだと思うよ」
「そうか……。でも、元気なら良かったな」
「うん」
「優菜、あのな……」
「うん」
「うちのお袋のこと、知ってるか?」
「うん、そりゃ、当然知ってるよ」
「前から自分勝手なことばっかりやって、ガキの頃から俺のことはほったらかしだったしな。どうせ、男作って、どっか行ったんだろ? だから、俺が入院してるのに、病院にも現れなかったんだろうな」
僕がそう言うと、優菜は急に僕を睨み付け、「違うよ!」と言った。
「何が違うんだよ」
「亮ちゃん、亮ちゃんはほんとに十七歳から後のことは覚えてないの?」
「ああ」
「じゃあ、覚悟して聞いて」
優菜にそう言われて、ドキッとしたが、僕はただ黙って頷いた。
「亮ちゃんのお母さんはね、八年前に肝炎を患って亡くなってるの」
優菜にそう言われて、驚いたと同時にやっぱり死んでいたのかと思うと、急に心にぽっかり穴が開いたような虚しい気分になった。
「そうか……」
「お母さんね、亡くなる前にね、色んなことを話してくれたの」
「え?」
「自分の子供の頃のこととか、なんで十六歳で未婚の母になったとか」
「マジか? 俺にはそんなこと、一言も話したことがないのに?」
「うん、マジ」
「うちのお袋は、俺みたいな息子より、娘が欲しかったんだろうな。だから、優菜と気が合ったんだろうな」
「んー、それは否定しないかな。でも、お母さん、亮ちゃんのことすごく大切に思ってたよ。幸せに出来なくて申し訳なかったと言ってた」
「……」
少なからずショックを受けたそんな話をして、それからまた二人で通りを歩いて僕のアパートへ向かった。アパートの隣りが優菜の家で、優菜の家が建った六歳の頃から、いや、まともに口を聞いたのは七歳の小学一年生からだが、それにしても、それから四十歳になる今でも付き合いがあるのだから、優菜とは正真正銘の幼馴染みと言ってよかった。優菜だけでなく祐樹や美帆、はたまた祐樹の姉の芳子も幼馴染みと言っていいだろう。物心ついた頃から、僕はずっとこの町に住み続け、関わってきた人達も大して変わらず、このままここで自分は朽ち果てるのだろうか?と思った。事故に遭い、昏睡状態に陥り、一度は死にかけたとはいえ……。




