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1年生12月:帰省【改稿】

起きるともう10時に近かった。

生徒は今日の正午までに寮を出ないといけない。


「‥くしゅんっ。」


パジャマを着ずに寝ていたみたいで、ベッドから起き上がったわたしは肌寒さを感じてもう一度毛布にくるまる。


「んー、昨日って‥」

ダリア魔法学園生誕祭パーティー。

1年目最大の恋愛イベント結果を思い出してみたけれど。


「とりあえずシャワー浴びよ‥。」


下着を脱ぎ、部屋に備え付けのブースでいつもより温度を上げたシャワーを頭から浴びる。

首筋から肩のあたりに熱めのお湯をあてると、強ばった身体がほぐれていく感じがする。


「はあ‥。」


昨日のイベントは、わたしにしては珍しくちゃんと恋愛フラグが立っていた。

ベリアルとダンス、ファンさんとお茶、ディックとエリオスのキス。


(全員とイベント成立して、どうしたらいいの‥!)


恋愛イベントは、そのとき一番好感度の高い相手と発生する。

イベントで好感度を確認しながら攻略を進めないと、魔王討伐可能レベルに届くかが厳しい。


きゅっと蛇口を締めて、濡れた身体にバスタオルを巻いてシャワー室を出る。

化粧水をぱしゃぱしゃ肌に馴染ませていると、散らかった心が次第に整っていく。


キスは、明確なボーダーだ。


キスイベントは、相手の好感度とそれまでのイベントの進捗がクリアされていないと発生しない。

今回、ディックの好感度がゲームの基準に達したということ。

エリオスはもっと早く8月にキスイベントが発生して、10月、12月とさらに追加発生している。


(あと1年‥。)

封印が解けて魔王が復活するまでの時間を考えたら、エリオスに絞って『攻略』するべきなのだろう。


だけど、エリオスには引っ掛かることがある。


基礎化粧を済ませて、祖父好みの清楚なワンピースを着る。

持って帰る荷物はそんなに多くない。

お財布と学生証を取り出そうと机の上のクラッチバッグに手を伸ばすと、バッグの横に小さな紙包みが置かれていた。


『Happy Birthday』


「そっか‥」

添えられたカードで、わたしの16歳の誕生日だったことを思い出した。

聖女ダリアと同じ誕生日だなんて誰にも言えず、だから母が伏せてしまってからは誰にも祝われず、毎年淡々と誕生日の1日をこなしてきた。


(ちょっと嬉しいかも。)


リボンをほどいて紙包みを開くと、中から一粒デザインのピアスが出てきた。

わりと大きめの、ダイヤのような石。

ピアスの台紙に書かれたメッセージは。


『貴女に似合うと思ってーエリオス・J・ウォール』


これ、絶対高いやつだ‥!


ルックス、性格、魔力、財力、どれをみてもエリオスがトップクラスなのは間違いない。

だけど彼は多分‥。


ピアスはとりあえず帰省の荷物に入れ、わたしは正午前のギリギリにようやく部屋を出た。

1月9日に全員戻るように言われているから、約2週間をマーカー子爵邸で過ごすことになる。

夏休みはマナー講座や補習に潰されて、ゆっくり祖父と話す時間がとれなかった。

ダリア魔法学園に放り込まれて9ヶ月。

父ジャスパー魔術師団長のこと、聖戦のこと、学園長のこと。

祖父に聞きたいことがたくさんある。


「アリス。」

寮を出ようとしたところで、ロビーの椅子に座っていたベリアルから声をかけられた。


「昨日は踊ってくれてありがとう。助かったよ。」

閉寮ギリギリの時間。

ひょっとしてこのお礼を言うために、わたしを待っていた?


昨日の最後はばたばたして、お互いきちんと挨拶ができなかった。

ベリアルらしいなと思って、頬が緩む。


「わたしも楽しく過ごさせていただきました。ありがとうございます。」

お礼を返したけれど、ベリアルの態度に違和感があった。


「わたし、何か失礼がありました?」

「そんなことないけど‥何で?」

「今日は目を合わせていただけないから。」


ベリアルはいつも目を見て話してくれるのだけど、今日は目線をわたしから微妙にそらしている。


「いや、そんなつもりは‥。」

ぱっと目が合い、すぐベリアルがそらした。

「ごめん、アリスのせいじゃないんだ。」

ベリアルは足元の鞄を持って立ち上がる。


「また来年もお互い頑張ろうな。それじゃよいお年を。」

「ええ、よいお年を。」


わたしは焦って去っていくベリアルの背中を見送る。


「ありがとう、ベリアル。」


次に寮に戻ってきたら、最後の1年が始まる。


わたしはアリス・エアル・マーカー。

最愛のパートナーと共に、魔王を倒さなければならないのだから。


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