1年生11月:演劇祭(前半)
荒れ狂う波の合間から人魚姫の青い尾ひれがキラリと輝き、また暗い海に沈む。
光る稲妻が翻弄される帆船を浮かび上がらせて。
船から投げ出された王子を抱きかかえた人魚姫ーイマリが海面から跳ねたようにステージ中央でくるりと宙返りをみせ、軽やかに嵐の中をを泳ぎ抜ける。
人魚姫が危険を省みず王子を助ける、序盤だけどリリカが一番気合いを込めたシーンだ。
『飛行』とイマリの得意な風の魔法をアレンジしている。
他にも水の魔法、光の魔法を盛り込んで、講堂の舞台に嵐の海を出現させた。
一瞬舞台が暗転し、人魚姫と倒れている王子ーレナードをスポットライトが照らす。
恐る恐る、王子の頬に触れる人魚姫。
「大変、誰か倒れているわ!」
少女ーにしては低いサイモンの叫び声がして、次は舞台の端にスポットライトが当たる。
「そうかい、人間の王子に恋をしてしまったんだね。」
リリカが扮する海の魔女は、ローブを目深にかぶって表情をみせない。
不自然に共鳴した声だけが観客席に響く。
「この魔法の薬を飲むと、声が出なくなるかわりにお前の尾ひれは人間の足に変化するだろう。ただし、」
魔女は思わせ振りに間をあけてから。
「王子の心がお前のものにならなかったときは、海の泡になって消えてしまうよ。」
そのあと、浜辺で倒れていた人魚姫を王子が見付けてお城に住むことになった人魚姫の目の前で、王子を助けた少女と王子の恋が展開する。
わたしたち役のないメンバー全員が舞台に上がり、ロマンチックな音楽に合わせて踊り歌うミュージカル風のシーン。
声が出ない人魚姫は二人の恋を止めることができず、ひとり離れたところから悲しげにダンスを見つめていると、また舞台が暗転して魔女が現れる。
「人魚姫や、このまま海の泡になりたくなければ、この魔法のナイフで王子を殺しなさい。」
差し出されたナイフに、首を横にふる人魚姫。
魔女リリカはフードを外し、満面の笑顔を人魚姫に向ける。
「どうせあの嵐の夜に死ぬ運命だったのだから、王子の命は助けたお前のものだよ。」
それでも人魚姫は王子を刺すことができず、投げ捨てたナイフの金属音が舞台に響きわたる。
眠っている王子にそっとキスをしてから、人魚姫は窓から海に身を投げた。
最期は、いくつもの光輝く泡が舞台から天へ昇っていくシーンだった。
そこに唯一の人魚姫のセリフが響く。
「貴方の幸せだけを願っています‥」
「ブラボー!!!」
審査員席の学園長が立ち上がって大きな拍手を贈った。
それを皮切りに、観客席でスタンディングオベーションが起こる。
舞台袖からそれを見たわたしたちは、みんなでリリカをもみくちゃにして喜んだのだった。




