1年生11月:人魚姫
海の底に広がる人魚の国。
15歳になった末妹の人魚姫は、ようやく海から出て人間の世界を見にいきます。
豪華な船に乗る王子に一目惚れをした人魚姫ーだけどその後の嵐で王子は海に投げ出されてしまいます。
人魚姫は荒れる海の中を泳いで王子を浜辺へ運び、人に見つからないよう海に帰りました。
王子の側にいたいと思った人魚姫は、海の魔女に相談します。
魔女は、人魚姫の美しい声と引き換えに、尾ひれを人間の足に変える魔法の薬を渡します。
『この薬で人間になっても、王子に愛されなかったらお前は海の泡になって消えてしまうよ。』
それでも、人魚姫は浜辺で魔法の薬を飲みました。
倒れていた人魚姫を、通りかかった王子が助けます。
王子と一緒にお城ですごすことになった人魚姫。
王子は美しい人魚姫を妹のように可愛がりますが、浜辺で介抱してくれた娘を命の恩人と思って慕っています。
声を失ってしまった人魚姫が王子を助けたのは自分だと伝えられないまま‥とうとう明日は王子と娘の結婚式。
人魚の国から姉たちが人魚姫を助けにきます。
美しい髪と引き換えに魔女からもらった魔法のナイフ。
『これで王子を殺して、人魚に戻って一緒に帰りましょう』
人魚姫は眠っている王子の胸にナイフを突き立てようとしますが、どうしても愛する人を殺すことができません。
人魚姫は海へ飛び込み、海の泡になって消えてしまいました。
「この話、なんか好きになれなくてさ。」
講堂でのリハーサルの後、衣装や小道具の箱を抱えて教室への帰り道。
ベリアルに王子をやってと言われなかったのと聞くと、そんな返事が返ってきた。
1年A組の『人魚姫』はクラスの半数が出演、残りは裏方だ。
「今回のテーマは『異国の魔女伝説』ってことだけど、どれもあまり‥。」
「演劇祭ってテーマがあったの?」
「ああ、魔法のない国の魔女の話らしいよ。A組が引いたのは『人魚姫』だけど、あとは『白雪姫』、『灰かぶり姫』、『眠り姫』、『髪長姫』‥1年生は『姫』ばっかだな。」
なんだか内容を想像できるものばかり。
「聞いたことない話ばかりだよ。生徒会はどこからこんな話探してくるんだろうな。」
聞いたことない?
それに。
「生徒会?」
「今年のシナリオは生徒会が準備したんだ。別の大陸の話なのかな、魔女の魔法は‥まあ俺たちが使う魔法とは別物でイメージしにくい。ミス・ノービスは演出に燃えたみたいだけど。」
たしかに、王国だとカボチャを馬車に変えたり鏡と話したりする魔法はなさそう。
魔力を組み上げて呪文どおりの効果を発動させる‥夢や希望というより実験やプログラミングのほうが近い。
「わたしがイメージする魔法は魔女の魔法が近いのかも。杖をひと振りすると奇跡が起きるみたいな。」
「そう、やっぱり魔法使いは『杖』を持っててほしいですね。」
予想外にわたしの顔の近くで聞こえた声は。
「エリオス先輩?!」
「生徒会長?!」
「危ないですよ、手伝いましょう。」
エリオスはわたしが重ねて持っていた箱の上のひとつをぱっと取ってしまった。
「ランス君は手伝わなくて大丈夫ですよね?」
そのままわたしたちに並んで歩き始める。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、明日はみなさんが盛り上げてくださるのを期待していますよ。」
そんなに重い箱じゃないけれど、荷物を運ぶ姿ですら優雅に、エリオスはわたしたちに柔らかな笑顔を向けた。
「あの、今年のシナリオはどこの国のものですか?」
「ランス君の知らない話でしたか?」
「はい‥すみません。」
「謝らなくても。君は図書委員会の仕事をしながらたくさんの本を読んでいるそうですが‥ちょっと手抜きしすぎたかな。」
「先輩?」
「いえ、自宅にある古い文献から見つけた話ですが、作者は『アンデルセン』とかそんな名前でしたよ。」
んん?
「そうですか、図書館で探してみます。」
「かなり遠い世界の話ですから、見つからなくても仕方ないことですよ。」
エリオスは1年A組の教室まで運んでくれた。
「明日は楽しいステージをお願いしますね。『文化祭』は高校生活に欠かせない行事ですから。」




