表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/339

1年生11月:帰路

「遅くなったから馬車を雇おう。ちょっと待ってて。」

学園までは辻馬車で1時間弱。

辻馬車はしばらく待たないといけなかったから、ベリアルが個人馬車をつかまえてくれた。

これなら30分くらいで帰り着ける。


「ダリア魔法学園までお願いします。」

座席に並んで座ると、ガラガラと馬車が進みはじめた。

日はほとんど暮れてしまい、馬車の中の小さな蝋燭が車輪の振動に合わせて揺らめく。


「手伝いについてきたのに、逆に遅くさせちゃってごめん。」

ベリアルはすぐに頭を下げて謝ってきた。

「ディックの従姉妹だから断りにくくて。」

「わたしは構いませんけど、戻ったら全力でみなさんのお手伝いしましょうね。」

「ああ、そうしよう。」


明日は各クラスリハーサルをして、土曜日が演劇祭だ。

本番は観覧自由なので、家族や他の魔法学園の生徒や一般のお客さんも来る。

さっき買った布で衣装をちょっと手直しして、背景も描き足すと言っていた。


1年A組の劇は『人魚姫』。

人魚姫はイマリ、王子様はレナード、お姫様はサイモン(女装)、魔女兼総合演出をリリカが担当する。

演出は水系の魔法を織り込んで、華やかな舞台に仕上がっていた。


『演劇祭』は魔法と技術の融合を目的にした1、2年生対象のイベント。

ペンタグラム杯と違うのは、攻撃力の低い魔法や補助魔法も活躍できる、『魔法の汎用性』を学ぶための学園行事だ。

これも当然恋愛イベントなんだけど。


『演劇祭』

ベリアルルート:ベリアルが主演でヒロインが相手役

エリオスルート:ヒロインがクラスの主演で、優勝してエリオスからトロフィーをもらう

ファンルート:ヒロインがクラスの主演で、劇の最中に事故が起きてファンが助けてくれる

勇者ルート:ベリアルが主演だけどヒロインは裏方


ディックルート:ヒロインがクラスの主演で、舞台から誤って落ちたヒロインをディックが抱きとめる

キャサリンルート:ベリアルが主演でヒロインが相手役で、キスシーンがある


問題は、わたしもベリアルも裏方で劇に出ないこと。

もはやどのルートも成り立たない。

キャサリンが学園を去って、ゲームのシナリオと合わなくなっている気はしてたけど。


「やっぱりわたしのせいかな‥。」

イベントスルーしすぎて好感度が全然足りないのかも。

「アリスのせいじゃないよ。」

「え?」

「ミス・アーチャーのこと。ディックと話してたよね?」

ベリアルはカレンと話しながら、わたしたちの話も聞いていたみたい。

「あのときはアリスのおかげでみんなが助かった。」


キャサリン・アーチャー魔人化事件の被害は、死者2名、重軽傷者25名。

ただし治癒魔法で死者2名は蘇生し、また魔法薬で怪我人全員が無事に回復した。


「わたしは治癒をかけただけで、それだって助けられたのはエリオス先輩やブレイカーくんが魔物を退治してくれたからですよ。」

「ああ、彼らはすごかったな。」

火蜥蜴サラマンダーを恐れず、何体も倒しながら前に進んで、取り残されていた2学園の救出に成功したのだから。

「俺はなにもできなかった。」


「そんなことありません。」

らしくないベリアルにわたしは言い返していた。

ベリアルの火系魔法と火蜥蜴サラマンダーの相性は最悪で、あの場でベリアルができる攻撃はなかったけど。


「あのときは魔力をわけていただいて、本当に助かりました。」

魔力供給魔法、とでもいうのだろうか。

まだ左の手の平には、ベリアルが『共有シェア』のためにつけた傷痕が薄く残っている。

触れ合ったお互いの傷から、まるで火のような熱い魔力が流れ込んできた。


「『共有シェア』って珍しい魔法ですね。これも火の魔法なんですか?」

「あれはランス家のオリジナル。跡取りのために覚えさせられたんだよ、俺は三男スペアだから。」

貴族は積極的に魔物との戦いに参加しなければならない。

その戦場で跡取りが死なないよう、同行する一族の者が万が一のときに魔力供給するための呪文、ということらしい。


「ああ、早く一人前の魔術師になりたいな。」

ベリアルは入学したときからずっと、王国魔術師団に入ることを目標にしている。


「あんな戦いの後でもそう思うんですか?」


キャサリンの身体を支配して、邪悪な笑い声を高らかに響かせた魔人『憤怒アンガー』。

魔王が復活したら、どれだけの混乱が起きるのだろう。

次は助けられなくて、わたしの目の前で誰かが死ぬかもしれない。


「怖かった?」

「ええ、助けられないかもしれないと思ったらすごく。」

「『助からない』じゃなくて?」

「‥そう言われればわたしも殺されかけて、」


ガタン、と馬車が揺れた。

とっさのことでベリアルの方に倒れかかってしまう。

「おっと。」

ぶつかると思ったら、ベリアルがしっかりと抱き止めてくれた。

蝋燭も転がって火が消えて、馬車の中が真っ暗になって。


「アリスは‥」


左耳のすぐそばで、ベリアルの声が聞こえた。

「アリスは将来、どうするんだ?」


(将来‥。)


わたしの、アリス・エアル・マーカーの将来。


「‥秘密、ですよ。」

わたしはするりとベリアルの腕から抜け出す。

暗くてお互いの表情はよくわからない。


「ちゃんと3年生になれたら、教えますね。」


それからしばらく無言で、馬車は学園に着いた。

馬車の代金はベリアルが全部払って、カフェのお金も受け取ってくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ