1年生11月:退院
「アーチャー嬢の対戦相手は、『聖戦の英雄』ジャスパー・イオス・マーカー魔術師団長のご息女‥『聖女』で間違いありませんよね?」
記者席が一斉にどよめいた。
「あー、やっぱりぶっこんでくる奴いるね~。」
ハンス先生が楽しそうに手をたたく。
「『聖女降臨』なんて、こんなとこでばらすわけないのに。」
ね、とハンス先生がわたしに同意を求める笑顔をみせるけど、なんて答えたらいいかわからない。
「『聖女』だなんて‥。」
「大丈夫大丈夫、マーカーくんはしらんぷりしてたらいいから。」
「マーカー子爵令嬢がアーチャー嬢の対戦相手であったことは認めます。彼女は現在も入院しており、また子爵の意向もありますので、一切の取材をお断りします。」
「それでは何の回答にもなっていない!」
「そうだ、『聖女降臨』の次は『魔王復活』が起こるということだぞ!」
「また戦争が始まるんだぞ!」
次々に記者が立ち上がって学園長に抗議をする。
「先生、どういうことですか!」
「んー、大神殿の予言だよ。えっとね、」
『聖女の慈愛により魔王の戒め解かるる』
「先の聖戦が魔王の封印で終結したからね~、みんな『聖女』が封印を解くことを恐れているんだよ。」
『聖女』が、わたしが、恐れられる?
「大神殿の旧い予言は存じておりますが、わたしはマーカー子爵令嬢が『聖女』だなんて考えもしませんでした‥そのような噂があるのですか?」
学園長は無駄に爽やかな笑顔で記者たちに聞き返した。
「うわぁ、学園長白々しい‥。」
ハンス先生が水晶玉に突っ込みを入れたので、映像が少し乱れる。
「これまで『聖女』が現れたことがありませんので‥彼女が治癒魔法に優れていることは事実ですが、伝説の聖女ダリアと同等の実力かと言われるとそのようには思えません。」
学園長の台詞は巧みだ。
嘘は言っていないし、伝説となっている『聖女ダリア』と比べるなんて‥学園長の言葉を否定できる人はいない。
「マーカー子爵令嬢は『聖女』ではないんですか?」
「わたしから申し上げられるのは、ミス・マーカーもミス・アーチャーも、まだまだ勉強が必要な未熟な学生であるということだけです。」
再度、キャサリンとアーチャー会長が頭を下げた。
「「この度は誠に申し訳ありませんでした。」」
またカメラのフラッシュが瞬く。
「それでは、本日の会見は終了させていただきます。今後の取材はアーチャー商会本店広報部で受けさせていただきますのでご了承ください。みなさまありがとうございました。」
ハンス先生が水晶玉の映像を切ると、病室が真っ暗になった。
秋の夜7時なら外はとっくに日が暮れてしまっているので、部屋に魔法の明かりを灯した。
「まあこれで記者たちも門からいなくなるし、明日には退院できるよ。」
「わたしの退院はこの会見待ちだったんですか?」
「今週頭にはもう退院して良かったけどね、記者たちを落ち着けとかないと面倒だから。」
「でも‥。」
キャサリン自身が会見に出るなんて、思ってもみなかった。
「あんなたくさんの人の前にキャサリンを出さなくても‥。」
「何で?」
ハンス先生は片付けの手を止めて、わたしに向き直った。
「3人も死なせた人に、みんな優しいよね。」
責めるわけじゃないけど、棘のある言い方。
「被害が回復したら、事件はなかったものになるのかな?」
「‥いいえ‥。」
「マーカーくんが最初にオマールくんを生き返らせていなかったら、アーチャーくんはもっと早く自分の愚かさに気づけたかもしれないね。」
それはそうかもしれないけど。
「‥誰だって、助けられる命なら助けますよね。」
「うん、それがマーカーくんらしいね。」
なんだろう、胸がチクチクする。
「明日の朝に退院して、とりあえず学園に戻ろう。新しい制服と、君の魔装具を渡しておくね。」
はい、とハンス先生に手渡された小さなケースには、わたしのペンダント、指輪、召喚の指輪が納められていた。
「長いこと手元に返せなくてごめんね。」
わたしが言われるままおとなしくしていたのは、入院初日に魔装具を全て回収されてしまっていたから。
「‥大人って勝手ですね。」
「それにズルいからね。だからちゃんと強くなろうね?」
じゃあ明日学園で、とハンス先生が帰った後、あまり落ち着かない夜が過ぎて翌朝。
退院の手続きにきた祖父に『こんなときくらいは連絡しなさい。』とたしなめられ、馬車でダリア魔法学園まで送ってもらった。
ペンタグラム杯から約2週間ぶりの学園。
「おはようアリス。」
背中をぽんっと叩いて通りすぎていったベリアルの笑顔に。
わたしはけっこうほっとして、なんだか泣きそうになった。




