1年生11月:会見
その日の夕方、いつものようにハンス先生がお見舞兼連絡にやって来た。
「今日も変わりなかったかなー?」
ハンス先生は学園が終わると、プリントを持って来てくれる。
初めはパジャマ姿が恥ずかしかったけど、最近は慣れてしまった。
一応ベッドに入ったまま、上体を起こして挨拶を返す。
「変わりないというか、退屈です。」
サイドテーブルに荷物を置こうとしたハンス先生が、リリカの持ってきた花かごに気づいた。
「誰か来たんだ?」
なんだろう、ちょっとゾクッとして。
「はい、アーチャー商会の方がお花を届けてくださいました。」
思わず嘘をついた。
「ふーん、ただの花‥じゃないよね。」
先生は花かごを1度持ち上げてから、かごの中から小さな袋を取り出した。
「『御見舞い』だよ。」
わたしの手のひらに、金貨が10枚溢れる。
「こんなにもらえません!」
「なんで~? 貰っときなよ。大概迷惑かけられたし、これから騒ぎになるしね。」
ハンス先生は持ってきた荷物から大きな水晶を出すと、テーブルを動かしたりカーテンを閉めたり、がさがさと何かの準備を始めた。
「‥騒ぎになる?」
「6時からアーチャー会長が会見するから。」
あと5分後だ。
「こんな感じかなあ‥『接続』。」
ハンス先生が水晶に手を当てて魔法を唱えると、病院の白い壁にどこかの室内の様子がプロジェクターのように投影された。
白い布をかけられた細長いテーブルにアーチャー会長とダリア魔法学園長が並んで座っていて、その前に並べられたいくつもの椅子に記者らしき人たちが座っている。
学園長が黒の地味なスーツを着ているなんて珍しい。
「音‥このくらいでいいか。」
水晶から会場のざわめきが伝わってくる。
「マーカーくんも関係するから、一緒に見てね。」
「あ、あー、本日はお集まりいただいてありがとうございます。10日前に発生しました『ペンタグラム杯魔装具暴走事故』について、まずはアーチャー商会会長よりみなさまに謝罪させていただきます。」
アーチャー会長の隣に座っている地味な男性が進行を始めると、すぐに会長が立ち上がって深々と頭を下げた。
「この度、娘キャサリン・アーチャーの未熟さにより多くの生徒のみなさま、先生方を傷つけてしまったこと、深くお詫び申し上げます。」
15秒くらい頭を下げ続けてから、
「また、魔装具の暴走という事態を招いたことを、アーチャー商会として真摯に反省し、みなさまが安心して魔装具を利用できるようさらなる研鑽に励む所存であります。」
「事故の詳細については、大会責任者のダリア魔法学園長より説明いたします。」
学園長は一度立ち上がって頭を下げると、また椅子に腰かけた。
「長くなりますので座ったまま説明させていただきます。」
記者たちがメモを構える。
「事故は大会2日目、高等部個人戦の決勝戦で発生しました。キャサリン・アーチャーが装備していた『魔強化の腕輪』ですが、火炎系の性質を持っていたため、彼女が使用した氷系魔法と反作用を起こし、魔力回路が暴走しました。」
「暴走した魔力の影響で、不運にも予備の召喚用黒水晶100個が『火蜥蜴』に変化してしまったため、会場にいた生徒29名に怪我を負わせてしまったものです。」
学園長の説明は、魔人『憤怒』のことが抜け落ちている。
「教師陣によりサラマンダーは速やかに排除されましたが、生徒たちを危険な状況においてしまい、深く反省しております。生徒たちの怪我は幸い重篤なものではなく、全て完璧に治癒しております。」
「よろしいですか。」
記者の1人が手を上げた。
「事故の原因は、『魔人』の出現だと聞いていますが。」
学園長は軽く首を横に振る。
「そのような事実はありません。」
「しかし、アーチャー嬢が魔人に変化したとの目撃情報が。」
「いいえ、彼女は魔人になど変化していません。ミス・アーチャー、入ってきなさい。」
学園長側の扉が静かに開き、地味なワンピースを着たキャサリンがしずしずと記者たちの前に進んだ。
いつもの銀色縦ロールはシンプルに一つに結ばれて、白い肌に化粧っ気はなかった。
「この度は‥。」
震える声。
「わたくしの浅はかな行動でたくさんの方を傷つけてしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
頭を下げるキャサリンにたくさんのフラッシュが浴びせられる。
「このとおり、深く彼女も反省しています。未成年ですので、報道については幾ばくかの配慮をお願いいたします。」
「しかし魔人が出たとなるとー」
「これまで魔人化した者が人に戻った事例はない。ーそうですよね?」
きっぱりと学園長が宣言する。
「魔人の出現はありませんし、事故も深刻なものではなく、事実翌日には予定どおり団体戦を行っています。」
「ならなぜ今日まで会見がなかったのですか。」
「被害に遭われた生徒たち、及び当学園との示談が全て成立してからの会見とさせていただきました。」
「全ての生徒? アーチャー嬢の対戦相手は長く入院していると聞いていますが?」




