1年生10月:面談(2)
「なにって、なにもありません。」
なるべく普通に聞こえるように声を出したつもりだけど。
「嘘下手だよねー。」
ハンス先生に一蹴されてしまう。
「‥ハンス先生に答える必要、ありませんよね?」
「そんなことないよー? 担任だしー、あのときは寮の無断外泊をなんやかんや誤魔化したしー、その後の補習もしてあげたしね?」
こうして挙げられると、わたしってかなりの問題児?
「まあ興味本位なのもちょっとあるけどさ、ウォールくんとのことでいじめられてたよね?」
1年A組の中では何もなかったはずだけど、なかなか目ざとい。
いじめの話を切り出すのに笑顔のままなのが気になるけど。
「いじめなんて、そのようなことありませんでした。」
わたしもご令嬢の澄ました笑顔で返す。
「ふーん、臨海学校のときも思ったけど、いじめられるの好きなの? どM~?」
は?
「そんなことありません!」
思わず立ち上がって否定していた。
「そうそう、そのくらい元気なんだから、ちゃんといじめと戦ってくれないとー。」
パチパチとハンス先生が適当に拍手をする。
「まさか、『わたし嫌がらせされても仕方ないし。』とか思ってないよね?」
『嫌がらせされても仕方ないし。』
だって、普通の中学校の出身だし。
だって、貴族といっても庶子だし。
だって、皆よりも努力してないし。
だって、この魔力も環境も設定で。
ずっと魔法の勉強をしてきた人たちに申し訳なくて。
「‥そう思ってたんだね。」
そう、わたしはA組のみんなに、そう思っていた。
「はい、そう思ってたみたいです。」
「みたいってなにそれ、自分のことでしょ? 鈍すぎだよねー。」
「そう、ですね‥。」
ハンス先生の笑顔に、わたしも半笑いのような、半泣きのような、微妙な笑みを返してしまった。
すると。
「笑うか泣くか、自分の気持ちを誤魔化さない。」
ピシッとハンス先生からでこぴんされる。
「真面目なのはいいことだけどねー、もうちょっと周りに頼るというか、信頼? してほしいなー。」
そのままわしわしとわたしの頭を撫でて。
「前の学校でも、ちゃんと頑張ってたって報告をもらってるよ。アリス・トーノくん。」