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10-逃走

「上に行くのです、オーリ!」


 フィズは飛礫を投げ鉄骨兵を牽制し、シオンは刀を引き抜く。

 フォアグリップを握り、俺は階段を駆け上がった。

 鉄骨兵の手には武骨な棍棒が握られており、それを振りかざし襲ってくる。

 あんな物で殴られたら一撃で殺されてしまうだろう。


 トリガーを引く。

 銃弾が装甲の上で跳ね、鉄骨兵の上体がグラリと揺らいだ。

 肩口からタックルをかけ、全身の体重で鉄骨兵を押した。

 かなり重い、だが不安定になった体勢を崩すことは出来たようだ。

 俺は鉄骨兵を踏み越え更に上に、上に進んだ。


(10mmじゃ豆鉄砲ってことかよ。

 生き物じゃないだけのことはある……!)


 銃でこいつらを倒すのは難しい。

 生き物であるなら、負傷した数だけ動きが鈍くなっていく。

 出血や神経の損傷、痛みが動きを阻害するからだ。


 だが、鉄骨兵は違う。

 痛みを感じず、出血をせず、そして決して恐れはしない。

 一撃で動けなくしなければ、こいつらを止めることは出来ない。


「フィズ、こいつらを止めるにはどうすればいい!?」


 左右から俺に殴りかかって来た鉄骨兵をシオンが切り伏せる。

 振り返ると、フィズは鉄骨兵の足を持って振り回していた。

 即席のハンマーであるかの如く。


「頭、あるいは首! 中枢制御装置とそこに繋がる回路があります!」

「要するに、普通の生き物を殺すのと同じってことだ!」


 俺はサブマシンガンを手放し、ライフルを構えた。

 装弾数5発、外すことは出来ない。

 残すところ、あと100mほど。

 だがその距離が果てしなく遠く感じられた。


 スコープを覗いている暇はない。

 直感で狙いを付け、撃つ。

 ボルトを引き排莢、次弾を撃ち込む。

 一発一発ごとに肩が外れそうな衝撃が襲い掛かって来る。


「オーリさん、こちらです! あの扉を潜れば……!」


 天井にはハッチが付いていた。

 あそこが上階への入り口なのだろう。


 銃を手放し押し上げる、鍵が掛かっていたらどうしよう。

 幸い、ハッチは何の抵抗もなく開いてくれた。

 目だけを出して上層の様子を見る、幸い敵はいないようだ。


「フィズ、来い! 上なら安全だ!」

「どこまで安全なのかは分かりませんけど……ねっ!」


 フィズは掴んだ鉄骨兵の体を振り回す。

 まるで布を体に巻き付けているような特徴的な動きだ。


 その動きで敵を牽制し、その隙に鉄骨兵の胴体を頭の上に置く。

 そして両腕に力を籠め、鋼鉄仕掛けの兵士を真っ二つにへし折った。


「すげえ」


 彼女は回転しながら後退し、距離を稼ぎつつ遠心力を作り出す。

 鋼の暴風に鉄骨兵たちは近付けない、フィズは最終的にそれを手放した。

 ブーメランの如く投げ放たれた鉄骨兵の残骸が敵をなぎ倒す。

 彼女はクルリと反転し、駆け出した。


 彼女の後ろから次々と鉄骨兵が迫る。

 猫のようにしなやなか動作で小さな扉を抜けたのを確認し、俺は扉を閉めた。

 破られるのではないか、そう思ったがその懸念は間違っていなかった。

 下から鉄骨兵がドンドンと扉を叩くのを感じた。

 全体重を込めて必死で押し留める、だがいつまで保つものか。


「オーリ、退いて下さい! 蓋をッ、します!」


 顔を上げて、ギョッとした。

 フィズが一抱えはありそうなほど巨大な箱を運んで来たのだ。

 慌てて飛びのくと、フィズは扉の上に箱を被せた。


 鉄骨兵はなおも扉を叩くが、しかし退けるだけの力はないようだった。

 ひとまずは安心、といったところか。


「死ぬかと思った……これが『不帰の魔塔』かよ」

「かつての施設だったことは間違いないようですね。

 警備ドローンが配置されているということは……

 やはり、かなり重要な研究を行っていたのではないでしょうか」


 フィズは興味深げに辺りを見た。

 俺にも周りを見るだけの余裕が出て来た。


「……教会で見たのと似てるな」


 階下とは打って変わった白無垢の壁面。

 光を反射する鏡のような床。

 壁際には黒っぽい棚のようなものが置いてあるが、すべて閉じられている。

 そしてガラス張りの扉の奥では、いくつのもの光が明滅しているのだ。

 ブウウン、と低く唸るような音も聞こえる。


 かつて、教会での奉仕活動を行った際中枢を一瞬だけ見たことがある。

 教会内部には関係者しか入れないが、扉の奥を盗み見るくらいは出来る。

 その時見たものと、ここにあるものは酷似していた。


「ここは、教会の設備なのか?」

「というより、教会がここの設備を流用しているのです」


 フィズは歩き出した。俺たちもそれに続く。


「この施設のことを正確に理解している人は、ほとんどいないでしょう。

 教会でさえも全容を把握しているとはとても言えない。

 ワケの分からないものを誰もが使っている」

「そんな……」

「シオン、あなたの村にも教会なんてなかったでしょう?」

「は、はい。皆さんは洗礼で力を得るようですが、私は成人の儀式の時に……」

「その場その場で、もっとも大きな力を持つものが遺物を扱う。それだけです」


 要するに、俺たちは過去の人間が作り出したものに縋っているだけなのか。

 この旅を続けている中で、そんなことを知るとは思わなかった。


 それにしても、まったく殺風景だ。

 人がまったくいないからだろうが、雪原よりも寒々しい。

 それにしては綺麗過ぎる、人がいなくなれば建物は劣化するはずなのだが。

 もしかしたらあの鉄骨兵たちが掃除もしているのかもしれないが。


 少し歩いていると、景色に変化が生じた。

 曲がり角の先にある長い廊下、そこにある一つの扉から光が漏れていたのだ。


「……誰かいるのか?」

「警戒して進みましょう、行きますよ」


 俺たちは足音を殺し扉に近付き、中の様子を覗き込んだ。


 煌々とした照明に照らされた室内。

 そこにはいくつものガラスシリンダー――人が入るほどの――が並んでいた。

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