10-鋼の兵士
それから4回吹雪をやり過ごし、俺たちはついに『不帰の魔塔』に辿り着いた。
「これか……思っていたよりもデカいんだな」
婆さんが言っていた通り、魔塔は27階層の天井に付くほど高かった。
ただし、魔塔の根元は窪地にあり実質的には28階層から伸びている。
しかも、かなり太い。半径200mはあるのではないだろうか?
これでは単に歩くだけでも苦労するだろう。
しかも、入るには苦労しそうだ。
当の根元は完全に雪で埋もれており、入り口が見えない。
周囲を見回してみるが、入れそうなのは側面についた窓くらいだ。
「雪をふっ飛ばして中に入るとしますか」
「いや、あそこから入ろう。
お前たちはどうとでもなるんだろうけどさ」
俺は懐からロープを取り出した。
先端には洞窟で見つけたフックを付けている。
手元で振り回し、投げ放つ。窓枠に鉤が引っ掛かった。
何度か引いてみるが、塔の構造はかなりしっかりしているらしい。
体重をかけロープを引き、側面を一歩一歩昇って行く。
この状況で吹雪が発生したら死ぬな、と思った。
「やはり器用ですね。開けそうですか、オーリ?」
引くと窓が開いた。観音開きになっているらしい。
塔の内部は薄暗いが、光がある。
「大丈夫だ、昇って来てくれ」
フィズは力強く地を蹴り、5m以上上にある窓に楽々と飛び込んだ。
シオンも続いて行く。頭の上を飛ばれるのはあまり気分がよくない。
「ありがとな、お前。ここまでよく助けてくれたよ」
ここまでついて来てくれた犬に礼を言う。
何かあげられるものはないか、と思って懐を探した。
そうしたら干し肉が一切れ残っていたので、それを投げ渡してやった。
犬は『ワン』と一鳴きし、それを咥えて去って行った。
さて、俺も行かなければ。
窓枠にしがみつき、俺も塔の中に身を躍らせた。
カツン、と大きな音がしたが、誰が出て来る様子もない。
「これが『不帰の魔塔』か……噂通り、禍々しい雰囲気だな」
辺りを見回す。
どうやら塔の下層部分は螺旋階段になっているらしい。
ひんやりとした空気が漂っている、上層に冷気を向かわせないためか。
サブマシンガンを手に取り、周囲を警戒する。
いまのところ何が出て来る様子もないが……
(人が帰って来ないってのには、もう一つ意味があるんじゃないか?)
つまり、塔に入ることは出来たが中にいた何者かに殺された、という線だ。
「ピリピリと嫌な気配がします。気を付けてくださいね、二人とも」
「私は、何とも感じないんですけど……」
俺もだ。
だがフィズはこんな場面で適当なことを言うような女じゃない。
上層を見上げると、500mばかり行ったあたりで螺旋階段が途切れていた。
この地獄みたいな階段をずっと昇って行かないでいい、と考えると勇気が出る。
「行こう。ここに何が潜んでいるかは分からないが……
それでも俺たちは進むしかない」
俺の言葉に二人は頷いた。黙々と俺たちは階段を上る。
「それにしても、この塔はいったいどういう目的で作られたんだろうなあ?」
いまのところ何が出てくるわけでもない。
そうすると、下らない疑問が鎌首をもたげて来た。
不真面目だとは思うが、こればかりは止められないのだ。
「恐らくは監視塔か、何らかの研究塔ではないかと思われます」
フィズが答える。
「研究塔?」
「タルタロスには原則航空戦力を持ち込むことが出来ませんからね。
高いところにあるということだけで一定の防犯効果が見込めるのですよ。
つまり、この塔には守らなければならない研究がある……
もしくは、古い時代にはあったのではないでしょうか」
いま魔塔扱いされている時点で人の出入りが途絶えて久しいのは分かる。
かつては多くの人がこの施設を利用していたのだろうか?
いったい何のために?
それにしても、長い。
500mの螺旋階段、これほどのものとは思わなかった。
太ももが熱を帯び始めている。と、その時視界の端に何かが映った。
「これは……なんだ?」
階段の片隅に人型の何かが転がっていたのだ。
楕円形の頭部、目に当たる部分にはスリット。
そこから細長い、爪楊枝のような手足が生えている。
両手はミトンのようになっており指が分離してはいない。
足もブーツを履いているように真っ平らだった。
「……鉄骨兵でしょうね。後期に作られた簡易量産型だと思われます」
ただしそれはすべてが繋がっていればの話だ。
胴体はドロドロに溶け再度固まったようになっており、分断されていた。
全身が煤に塗れているので、恐らくは高熱の炎か何かに晒されたのだろう。
「魔法使いがここに訪れた形跡を発見しましたね……」
「これが魔法か。初めて見たよ」
「管理者因子を持つ人間は、もうごく少数になりましたからね」
目に見ることさえ出来ないタルタロスの制御機構を操る力、魔法。
かつての人間が持っていたテクノロジー。
その恐ろしさの一端を目の当たりにした。
「なら、ここに来た魔法使いはどうなったんだろうな?」
「さて、どうなったのでしょうね。
魔法の力を奪われたのか、あるいは……」
あるいは、どうなったのか。
その先を聞くことは出来なかった。
フィズは弾かれたように後ろを振り向き、シオンは前方を見据え刀を構える。
俺も気付いた。
何かがこちらに迫って来るのを。
低く唸るようなモーター音を聞いた。
「どうやら、生き残っていたマシーナリーがいたらしいな」
「ええ、それもすさまじい数です……気を付けてください、オーリ」
塔の上層から、下層から。
鋼の体躯を持つ兵士たちが次々と現れた。




